「下界の連中、俺たちを馬鹿にしやがって、あいつら死んだら絶対に地獄に行くぞ。」 「そうだな〜、あいつら人間じゃねえよ。嘘と騙しの汚い人間だよ。絶対に地獄に行く!」 「もう下界は地球温暖化で地獄だよ。」 「そうだな。」 「そうだ、そうだ。ざまあみろ!」 一人の男が、一枚のチラシを開いて見せた。 「昨日、パチンコ屋の宣伝のヘリが飛んでたろう。」 「ああ、飛んでた。」 「いまさっき、チラシを拾ったんだよ。」 「ああ、そう。ちょっと見せてくれ。」 手渡した。 「霊界パチンコ?」 「なんだい、そりゃあ?」 「どこにあるんだよ、そんなの?」 「九度山(くどやま)。」 「九度山と言えば、真田の屋敷があったとこだろう。」 「そうだよ。」 「忍術パチンコってのは分かるけどな、霊界パチンコかよ?」 「幽霊でも出るのか?」 「その通り、墓穴に入ったら幽霊が出るって書いてあるよ。」 「墓穴に入ったら?」 「なんだい、そりゃあ?」 「穴に、天国穴、地獄穴、墓穴ってのがあるんだって!」 「へ〜〜〜〜え!」 「面白そうだなあ〜、よく考えたな〜。」 「商売人だなあ〜〜。」 「満月の夜には、狼男が出て大サービスって書いてあるぞ!」 「ほんとうに出るのかよ?」 「そう書いてある。」 「大したもんだ。」 「何のサービスするんだよ?」 「さ〜〜〜あ?」 「肝心なことは書いてないんだなあ〜。」 「来てみないと分からない!って書いてあるぞ。」 「面白そうだなあ〜、ちょっと行ってみるか?」 「言ってみるかって、お金はあるのかよ?」 「あっ、そっか!」 「狼男か〜〜、今日は満月か?」 「さ〜〜〜あ?」 「もし満月だったら、ほんとうに気持ち悪いな〜。」 「満月は、だいたい二十九日に一回来るんだよ。」 「ほ〜〜、学があるね〜。」 「そう?」 「大したもんだ!」 「狼男ってのは外国の話しだろう。日本だったら、かぐや姫だよ。」 「かぐや姫が出てくるの?それだったらいいな〜。」 「出てきはしないよ。十五夜の満月の夜に、月から来たお迎えの天人と一緒に. 月に帰って行くんだよ。」 「な〜〜んだ、つまんない!」 「かぐや姫の幽霊でもいいから、出てきたらいいな〜。」 「おまえ、変なこと言うなよ〜。ほんとに出てくるぞ!」 「ほんとに出てくる?いいじゃな〜い!」 「気持ち悪いこと言うなって!高野山は、霊界とつながってるから、ほんとうに変なのが出てくるぞ。」 「へ〜〜、高野山は霊界とつながってるの?」 「そうだよ。」 「恐山みたいだな〜。」 「高野山は、日本三大霊場なんだよ。」 「なんだい、そりゃあ?」 「高野山(こうやさん)・比叡山(ひえいざん)・恐山(おそれざん)を、日本三大霊場と言うんだよ。」 「へ〜〜、詳しいねえ。」 「俺、生まれが青森だから。」 「恐山って、死んだ人間を呼び寄せて語らせるところだろ。テレビで見たことあるよ。」 「それを、イタコって言うんだよ。」 「いたこ?」 「蛸かよ?」 「タコじゃねえよ。霊媒師のことだよ。霊を降ろしてくれる人のことだよ。」 「霊を降ろす?降ろしてどうするの?」 「霊にしゃべらせるんだよ。」 「霊に喋らせる?」 「そうだよ。それを、イタコの口寄せって言うんだよ。」 「へ〜〜〜え、そんなことができるのかよ!?」 「ああ、できるらしい。」 「ほんとかね〜?」 雨は、まだ降っていた。
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