龍次たちは、霊宝館の庭の木々の下で雨宿りをしていた。龍次の隣には、アキラがいた。ショーケンは隣の木の下にいた。 「龍次さんって、やけに兄貴に親切だねえ?」 「実はねえ、わたし、本物のショーケンと同じ年なんですよ。」 「え〜〜、そうなの?」 「なんか、昔の溌剌としたショーケンを思い出してね。見てると、わたしも元気になってくるんですよ。」 「へ〜〜〜え。たったそれだけで?」 「親切ですか?」 「なんか、遠慮してるって感じ。」 「そうかなあ〜。」 「リーダーとしては、あんまりそういうのは良くないんじゃないの?」 「…そうですね。」 アキラは、誰にでもはっきりと言う性格だった。アキラは空を見上げた。 「雨、止みそうにないね〜。」 「山の天気は、ころころ変わるから分かりませんよ。」 「じゃあ、もうすぐ止むの?」 「止むかも知れません。」 「雨じゃあ、仕事にならないねえ〜、いつもこうやって休むの?」 「そうです。」 「のんきな仕事だね。」 「大雨だと中止にします。」 「そうなんだ。」 「外仕事は、大抵そうですよ。」 「そういえば、道路工事の人も、雨降りにはやってないな〜。」 「そうでしょう。」 アキラは後ろの霊宝館を見た。 「この建物は何なの?」 始めて見る建物だった。 「霊宝館(れいほうかん)ですか?」 「れいほうかんって言うんだ。」 「高野山の重要な文化財が保管して展示されているところです。」 「へ〜〜〜え。」 ショーケンがやって来た。 「龍次さん、どうするの?」 「仕事?」 「そう。」 「どうしましょうかねえ…」 龍次は雲を見ていた。 「もう少し様子を見ましょう。」 アキラが「だって!」と言った。ショーケンは怒った。 「何が、だって!だよ〜〜。おまえ、年上の人に対する言葉かよ〜。誤れよ!」 「えっ?兄貴、怒ってるの?」 「早く誤れって!」 アキラは龍次に、野球帽を取って、頭を深く下げて素直に謝った。 「ごめんなさい!」 「いいんですよ。そんなことはどうでも。」 ショーケンは、まだ怒っていた。 「龍次さんは、優しいから、ああ言ってるがなあ、ほんとうは気分を害してるんだよ。」 「え〜〜、そうなの〜?」 「そんなことはありませんよ。」 ショーケンは、いたって真面目な顔をしていた。 「これからは、ちょんと敬語を使え!社会人なんだから!」 「あれ〜〜〜、どうしたの、兄貴?」 「いいから、これからは、年上の人には敬語を使え!」 「兄貴は?」 「俺も使うよ!」 「分かった!」 「年下の連中にも、ちゃんとした日本語を使えよ!」 「分かったよ。」 「社会人の常識は、先ず言葉から!」 「どうしたの、兄貴?」 「基本的な行いから出直そうぜ!」 「どうしたの、兄貴?」 ショーケンは、高野山に来て、新しい何かを感じ悟っていた。 「俺たちが、こうしてここにいられるのも、龍次さんのおかげなんだからな、礼を言って感謝しろよ!」 「ああ、そうだね!」 アキラは龍次に向いて、頭を下げた。 「どうもありがとうございます!」 「いいよ、礼なんて!」 ショーケンも頭を下げた。 「ありがとうございます!」 「ショーケンさん、今まで通りでいいって!」 「ショーケンさんじゃなくって、ショーケンでいいです!」 「そっちが良くってもねえ、こっちが良くないんですよ。ショーケンさん、でいいの!」 「どうしてですか?」 「わたしの時代のカリスマなんだから、呼び捨てにはできないよ!」 「わたしは、クローンですよ。」 「わたしの中では、昔のままのカリスマのショーケンさんなんです!」
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