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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第148回   しとしとと雨
青年が、黙々とインターネットをやってると、中年の男がやってきた。
「君、仕事を探してるの?」
「はい。」
「ここでよかったら働かない?」
「ここって、このインターネット喫茶ですか?」
「そう。わたしは、ここの経営者なんだけどね。夜で良かったら。」
「夜勤ってことですか?」
「そう、夜勤。夜十一時から朝七時までなんだけど。自給千円でどうでしょう?」
青年は、少し考えた。
「駄目だったらいいよ。無理しなくても。」
「やります、やります!」
男は、用紙を差し出した。
「簡単なる履歴だけでいいから書いといて。」
「はい。」
「今日から頼みたいんだけど、いいかな?」
「いいです。大丈夫です!あっ、そうだ!」
「なんだね?」
「わたし、住み込みの仕事を探しているんですよ。」
「いいよ。三階が従業員の住居になってるから。」
「ええ、そうなんですか?」
「でも、光熱費や水道料金は、そちらもちですよ。」
「勿論です!」
「じゃあ、後で店員の誰かが案内するから、ちょっと待ってて。」
「はい!」
男は去って行った。青年は微笑んだ。
「ラッキー!」
青年が、履歴を書いてると、携帯電話にメールが入った。
「あっ、メールだ!」
青年は急いで携帯電話を見た。
 お兄ちゃん 元気ですか みんな心配してるよ 仕事なんかいいから 帰ってきて!
青年は、少し涙が出てきた。
「みんな、俺みたいなやつのことを心配してんのか…」
青年は、返事を打った。
 大丈夫 いい仕事をみつけたよ はっきり決まったら また連絡する 高野山にいる ここは下界とは違って いい人ばかりで素晴らしいところだよ 安心してくれ 俺元気だから 心配無用
女性の店員がやって来た。
「お姉さんですか、わたしを紹介してくれたのは?」
「ええ、ちょっとね。」
「ありがとうございます!」
「実は私も、家出してきたんですよ。なんか他人事ではないみたいで、つい余計なことをしてしまって。」
「余計だなんて、とんでもない!」
「あなた、見た感じが、とてもいいわ。客商売に向いていそうだから、つい。」
「えっ、そうですか?」
「ええ。今から案内します。」
「ちょっと待ってください。もう少しで履歴を書き終わりますから。」
「はい。」
「あっ、そうだ、メールを送信しなきゃあ!」
青年は、送信しようとしたが、止めた。
「そうだ!写真も送ろう!」
青年は、彼女に向いた。
「あの〜〜。」
「何でしょうか?」
「写真を取ってくれませんか、わたしの。」
「いいですよ。」
青年は、明るい笑顔で、ピースをして映してもらった。
「ありがとうございます!」
「いいえ。」
「送信!」
「彼女ですか?」
「いいえ、神戸の妹です。」
「神戸なんですか?」
「はい。」
窓の外では、しとしとと雨が降っていたが、高野山の風はとってもとっても優しかった。だが、時は容赦なく前に流れていた。
「社長は人相を見て決めるんですよ。履歴なんてどうでもいいんですよ。」
「えっ、そうなの!?」
窓の外では、雨の中を天狗の宅配便の荷物運搬自動車が走っていた。


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