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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第146回   ナショナル・キッド
「あっ、豚だ!」
「どこどこ?」
「左の方です。ほら!」
きょん姉さんは指差した。
「あっ、ほんとだ!」
二人は双眼鏡で覗いた。
「あ〜、あれは草刈りロボット豚です。」
「草刈りロボット豚?」
「よく見たら、豚の鼻に草刈りの羽がついて回ってるでしょう。」
「あっ、ほんとだ。」
「あれで草を刈ってるんですよ。」
「あれ、自動ですか?」
「そうです。自動です。」
「大丈夫なんですか?間違って人が近づいたら危ないんじゃないですか?」
「大丈夫ですよ。人間や動物が近づくと止まるんです。」
「あ〜、なるほど。よくできてますね〜。あんなの見たことありません。」
「高野山テクノロジー研究所が作っているんです。」
「売っているんですか?」
「インターネットのみで売っています。」
「じゃあ、売っている店はないんですね?」
「はい。店を構えると費用がかかるからだと思います。」
「な〜るほど。」
電動車椅子が傘を差してやってきた。姉さんは目を見張った。
「あの車椅子、腕がついてるわ!」
電動車椅子には、両サイドに腕がついていた。
「あれも、高野山テクノロジー研究所の製品です。電動車椅子ロボットです。
「電動車椅子ロボット!」
道に段差があり、電動車椅子ロボットは、傘を人間に手渡すと、車椅子を両手で少し持ち上げ、車輪を浮かせて前進させた。姉さんは感激した。
「わお〜〜!」
「けっこう凄いでしょう。」
「凄いわ。でも、あれ高いでしょう〜?」
「脚の不自由な方に、町で安くでレンタルしてるんです。」
「福祉の町なんですねえ〜。さっすが、弘法大師の町だな〜。でも、こんな雨降りに、何してるんだろう?」
「あれは、研究所の人がテストしてるんですよ。」
「なんだそうですか。あの腕、力があるんですねえ〜。材質はアルミですか?見た感じが軽そうなんですけど。」
「アレックスフレームです。」
「アレックスフレーム?」
「パナソニックの電動自転車に使われてる、アルミ並みに軽く、強度は普通の鉄の2倍以上で、パナソニック独自の超軽量メタルです。」
「アレックスフレームか〜、さっすが、ナショナルキッドのパナソニック!」
「ナショナルキッド?」
「父が好きだったんですよ〜、ナショナルキッド!よくビデオで見てました。日本で始めての空飛ぶヒーローて言ってました。外国でも放送されたんですよ。スポンサーがナショナルだったんです。」
「で、ナショナルキッド?」
「はい、そうです。」
「知らないな〜〜。」
「そうですか。それは残念です。」
「どのようなものなんですか?」
「宇宙の嫌われ者、ザロック遊星人と戦うんですよ。地球を守るために。」
「空を飛んでですか?」
「はい!」
「ふ〜〜〜ん。」
「ナショナルキッドは、アンドロメダより地球を守るためにやって来た正義の宇宙人なんです。」
「正義の宇宙人、そうなんですか。」
姉さんは歌いだした。

雲か 嵐か 稲妻か〜 ♪
 平和を愛する 人のため〜 ♪
  諸手を高く さしのべて〜 宇宙に羽ばたく 快男子〜 ♪
    その名は キッドキッド ナショナルキッド〜 ♪
   僕等の キッドキッド ナショナルキッド〜 ♪

姉さんは、ぴたっと歌を止めた。
「わたし、この歌、以前は大嫌いだったんですけど、父が死んでから歌えるようになったんです。おかしなもんですねえ。」
「大嫌い?」
「なんというか、正義の味方が嫌いだったんです。」
「どうしてなんですか?」
「なんか、嘘っぽくって。人間って、正しいですか?正しい存在なんですか?と思ってたんです。」
「なるほど〜〜〜。」
「人間って、人間の都合で勝手に道路を作ったりしてして、動物を追いやったりするでしょう。自分勝手な理屈をつくって、平気で自然を破壊してるでしょう。それって正しいことなんですかねえ?」
「…そうですねえ。」
「動物や植物は、言葉を持ってませんから。可哀想ですよ。」
「…そうですねえ。」
「植物がないと、人間は生きられないし、動物だって生きる権利があるんじゃないですか?」
「その通りです。」
「傲慢になりすぎているんじゃないでしょうかねえ、人間って。」
「おっしゃる通りだと思います。」
「あっ、こんどはダチョウだわ!」
ダチョウが、少女を乗せた赤いリアカーを引いて、雨の中を走っていた。姉さんは微笑んだ。
「あの子供、かっこい〜〜!」


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