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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第145回   その頃
インターネット喫茶<曼陀羅>で、インターネットの詳しい使い方を、立って説明していた女性の店員が窓の外を見た。「あっ、雨だわ。」
席に座って素直に聞いていたのは、自殺志願者の彼だった。
「やっぱり、お姉さんは、検索のプロですねえ。」
「検索サイトで滅茶苦茶に検索しても、駄目なのよ。検索には要領があるの。」
「どのような?」
「どうようなって、一言では言えないわ。慣れと経験かな?」
「素人だと、変なサイトにばっかり行くんですよね。」
「そうなのよ。でもね、やってると分かってくるのよ。怪しいサイトの見分け方が。」
「そうなんですか。」
「何事も経験よ。インターネットはスポーツと同じ。習うより馴れろ。」
「分かりました。」
「それには、日頃からやってないとね。」
「分かりました。」
「で、何を探してるんですか?」
「仕事です。無料のアルバイト情報誌を見たんですけど、ぜんぜんいいのが無くって。」
「仕事は、無料のアルバイト情報誌で探しても駄目ですよ。」
「なんで?」
「使い捨ての仕事ばっかりなんですよ。すぐ辞めるから、無料で載ってるんですよ。無料で載せる代わりに、募集している会社からスポンサー料をもらっているんですよ。審査も厳しくないしね。」
「つまり、どんな会社でもいいということですね。」
「そういうこと。」
「工場の仕事とか、まったくないし。」
「工場ですか〜、今は難しいですねえ。」
「ハローワークにも行ったんですけど。」
「ハローワークは、その区域のハローワークに申し込んだ会社しか表示されないんですよ。だから、会社が他の区域に申し込んだ場合は、申し込んだ会社がその区域に仕事があっても表示されないんですよ。」
「つまり、全国の情報は見られないってことですか?」
「はい。インターネットのハローワークだったら、全国の仕事を検索できます。」
「ああ、そうですか。早速やってみます。」
「ハローワークが駄目だったら、直接検索して探したほうがいいです。」
「どうやって、検索すればいいんでしょうか?」
「そうですねえ、取り合えず、仕事スペース工場で検索してみたらいいと思います。」
青年は、言われたとおりに検索を始めた。
どどどど〜っと出てきた。
「わ〜沢山でてきた〜。」
「出てきても、求職とは関係ないものもあるので、求人サイトだけを探して、ひとひとつ見て行きます。」
「はい、分かりました。」
青年は、言われたととおりにやりはじめた。
「わたし、仕事がありますので、これで。」
「ありがとうございます。」
青年は、親切な店員さんに感謝した。窓の外では、雨が降っていた。

その頃、猿人間キーキーたちは、食事を済ませ、仕事をしていた。
「お〜〜い、雨が降ってきたぞ〜!」
「本格的に降ってきそうだなあ〜。」
「仕事、止め止め!」
みんなは、テントの中に非難した。テントは、少し高い場所にあり、水対策に地面にスノコが、その上に薄いウレタンのマットが敷いてあった。テントは三つあり、それぞれに三人入れた。
「あの地主、日本貧乏人研究会・会長って言ってたけど、どういうことやってんだ?」
「さ〜〜〜あ?」
「貧乏人を研究してんじゃないの?」
「なんだ、そのままじゃないか。」
「貧乏人の心を研究してるって、近くに住んでる人が言ってたよ。」
「そんなの研究して、どうすんだよ?」
「研究して、貧乏人を救って、国を豊かにするって言ってたよ。」
「ふ〜〜ん、そんなことできるのかね?」
「そんなことは、余計なお世話だよ。」
「その通り、その通り!あんたが正しい!」
「俺、ちょっとトイレに行って来る。」
地主さんの古い家が、百メートルほどの所にあった。カビだらけで誰も住んでいなかった。
猿人間キーキーたちは、テントに非難したが、温泉ホームレス二人は、天然の露天風呂のほうに向かって行った。
「なんだ、あいつら、風呂かよ?」
「そうみたいだねえ。」
「好きだなあ〜」
「あいつら、雨降りの露天風呂は、一番気持ちいいって言ってたよ。」
「ほ〜〜ぉ?」
「変な連中だね。」
温泉は川のヘリから湧いていた。湧いている周りを大きな石で囲ってあった。大きな木の下で二人は、急いで着ていた物を脱ぐと、大きなポリ容器に入れ、温泉に入った。
「お〜〜、いい湯だ!」
「お〜〜、いいなあ〜。」
雨が水面を叩いていた。
「この雨が、実にいい!」
「実にいいなあ〜!露天温泉の醍醐味だなあ〜。」
「自然と一体になってるって感じだなあ〜。」
「まさしく!」
「これこそが、人間の生活だ。」
「その通り!」
二人は、にこにこしながら幸せな気分で雨を浴びていた。


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