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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第144回   雨音はショパンの調べ♪
「あ〜〜あ、あの大きな木が邪魔して見えなくなっちゃった。」
きょん姉さんとアニーは、カートから降りて、歩いて行く女性と子供を隠れて見ていた。
「どこに行くんでしょうね?」
「ニワトリ小屋じゃないんですか。さっきからニワトリの鳴き声がしていましたから。」
「あ〜、そうですね。」
アニーは空を見上げた。
「何だか雲行きが怪しくなってきましたよ。」
姉さんも見上げた。
「あっ、ほんとだ。」
「降ってきそうですね。」
「そうですねえ。」
アニーは、手さげ袋から芝生模様のビニールの覆面を取り出した。
「降ってきたら、お面を外して、これをかぶってください。」手渡した。
「はい。」
雨が、ぱらぱらと降ってきた。
「あっ、降ってきたわ!」と言いながら、アニーは覆面をかぶった。姉さんもかぶった。「座ってると、ジーンズが濡れるわ。」二人は、腰を上げた。
「この姿勢、疲れますね。」
「そうですね〜。」
雨が、自然のリズムを刻んで覆面に当たっていた。姉さんは、双眼鏡を覗きながら、アニーに言った。
「でも、なんだか、ロマンチックな音ですねえ〜。」
「そうですか?」
「アニーさんは?」
「センメンタルに聞こえています。」
「センチメンタル?」
「ええ、とっても。」
「雨音は、ショパンの調べですね。」
「ええ、そういう感じです。」
「小林麻美の歌ですよね?」
「そうですね。」
姉さんは、小さな声で歌いだした。
「耳をふさぐ〜指をくぐり〜心痺(しび)らす〜甘い調べ〜♪」
「よく覚えてますねえ〜。」
姉さんは、ここまでで止めた。
「これ以上は忘れました。わたしの父が好きだったんです。」
「お父様は、ロマンチストだったんですね?」
「はい、とっても。」
アニーは雲を見ていた。
「なんだか、本格的に降ってきそうだわ。」
「そうですか?」
「風も吹いてきたし。小屋に非難しましょうか?」
「小屋って?」
「あそこの小屋です。」
小屋は、左斜め後ろに見えていた。
「入れるんですか?」
「はい。鍵を持ってます。」
「あ〜、そうなんですか?」
「じゃあ、行きましょう!」
二人は、急いで小屋に向かった。アニーは鍵を開けて中に入った。姉さんも入った。
中は長方形の十二畳くらいの部屋だった。姉さんはアニーに質問した。
「ここは、誰でも入れるんですか?」
「いいえ、限られた人しか入れません。」
「わたしたちは?」
「限られた人ということですね。大丈夫です、管理人の許可をいただいていますから。」
「さっきの管理人の方ですか?」
「はい。ですから大丈夫です。天軸山に来る前に、山田さんに頼んでおいたんです。」
「あ〜、そうなんですか。山田さんって、どういう方なんですか?」
「お手伝いの方なんですけど、高野山を警備されてる方みたいです。詳しいことは知らないんです。」
「とにかく、わたしたちの味方なんですね。」
「書類では、高野山警察委託の警備会社の社員ということになっています。」
「ああ、そうなんですか。」
「何か?」
「いや、ちょっと。動作が特殊だったもので。」
「動作が特殊?」
「身動きが、訓練されたような感じだったもので。」
「訓練されたような感じ?」
「はい。何か武術をやってるような、そういう感じです。」
「そうですか、わたしも、最初に会ったときから、多少感じてました。」
「で、以前に忍者隊月光かも知れないとか言ったんですね?」
「はい、そうです。」
「確かに、そういう感じですねえ。」
窓際には、椅子とテーブルがあった。
「あそこの椅子に座りましょう!」
「はい。」
二人は座った。アニーは座ると、手さげ袋から、ポットと紙コップを取り出した。
「温かい緑茶が入ってます。飲みます?」
「いいですねえ〜。飲みます飲みます!」
アニーは、紙コップに緑茶を注いだ。
「はい、どうぞ!」
「ありがとうございます。この窓とテーブル、まるで人間村を眺めるために作ってあるみたいですねえ?」
「そう言われれば、そうですね。」
「この窓ガラス、外からは見えないガラスですよね。」
「確かに、そうです。」
二人は、人間村を眺めながら、温かい緑茶を飲み始めた。雨は降っていた。雨音は、ショパンの調べのように聞こえていた。



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