ポロロン星人を乗せたマイクロバスは、国道百六十八号線を大台ケ原に向かって走っていた。信号で止まった。前方には、メリーゴーランドの連中の自動車が止まっていた。信号の下に、アイドリング・ストップ!と書いてあった。 隊長は、嘲笑した。 「まったく、人間って馬鹿だよな。止まってる間だけ炭酸ガスを撒くな!ってよ。どの程度の効果があるんだよ?」 「まったく、そうですなあ〜。地球人の考えてることは理解できませんな〜。」 「まったく、知能の低い人類だな〜。」 「まったく、幼稚な人類ですねえ。」 「こういうのを、奴らの言葉で、焼け石に水って言うらしいよ。」 「焼け石に水ですか?」 「言葉だけは、しっかりしているけどな。はっははっは!」 「まったくです!」 「あ〜〜、無糖のコーヒーが飲みたくなってきた。」 「隊長、コンビニで止めましょうか?」 「ああ、そうしてくれ。」 副隊長は、運転手に命じた。 「おい、次のコンビニで止めてくれ。」 「はい。」 マイクロバスは、コンビニの駐車場で止まった。隊長の後ろに座っている者が言った。 「隊長、わたしが買ってきます。どういうのが?」 「いいよ、俺が直接行くから。」 「だったら、みんなの分を買ってきてくれ。」 「はい。」 副隊長が五千円を手渡した。隊長が出て行くと、その男は、みんなからリクエストを聞いてから出て行った。 駐車場の片隅に一輪の野菊が咲いて、風に揺れていた。それを、中学生の制服を着た少女が音楽プレーヤーを聴きながら佇んでみつめていた。 隊長は直ぐにコンビニから出てきた。 少女のワイヤレスのイヤホンが耳から外れて地面に落ちた。ちょうど隊長の前だった。隊長は拾ってやった。 「落ちたよ。はい。」 「どうも、ありがとうございます!」 イヤホンからは、隊長の好きな地球人のバンドの曲が流れていた。ブームタウンラッツのアイ・ドンット・ライク・マンデイだった。 「ブームタウンラッツの曲だねえ。好きなの?」 「はい。」 少女は、とても寂しそうな表情で答えた。 隊長は気になった。 「学校は終わったの?」 「行かなかったんです。」 「行かなかった?どうして?」 「嫌いなんです。学校は嫌いなんです。特に月曜は。」 「まさに、アイ・ドンット・ライク・マンデイだなあ。」 「だから、この曲が好きなんです。」 「そんなに、学校が嫌いなの?」 「みんなを。鉄砲で撃ち殺したいくらいに嫌いなんです。」 「それは、問題だなあ…」 地球人の大人には厳しくても、子供には優しい隊長であった。 「みんなと、無理に合わせようとするからいけないんじゃないかな?自分は自分らしく生きればいいんだよ。誰が何と言おうと。」 「でも、それだと、仲間はずれにされるんです。」 「いいじゃないか、そんなことはどうでも。気にしすぎるから、そうなっちゃうんだよ。」 「気にしすぎるから?」 「ああ、こっちが思ってるほど、地球人ってのは思ってないんだよ。」 「地球人?」 「あっ、ごめんごめん!人間ってこと。」 「分かりました。」 「好きなようにやってれば、似たのが寄ってくるよ。楽しく考えよう!」 「はい。」 少女は、イヤホンを耳に当て、少し明るい表情で歩き出した。振り向いて「ありがとうございます!」と言いながら。隊長は、手を振って「元気だせよ!」と言った。少女の音楽プレーヤーが、アイ・ドンット・ライク・マンデイを鳴らし続けていた。
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