「職人の世界はなあ、教わるもんじゃあないんだよ。見て考えながら自分なりに覚えるもんなんだよ。」 「ただ真似るだけではいけないんですか?」 「まあ、自分がそれで良けりゃあ、それでもいいけど、それぞれに個性があるだろう。完全に真似はできないだろう。自分流にアレンジしないとな。」 「自分流にアレンジ?」 「自分のものにしないと駄目なんだよ。最初は真似てもいいけどな。」 「分かりました。自分流にアレンジします!」 「すぐには出来ないよ。ぼちぼちとな。」 「はい!」 ポンポコリンと正男が、歩いてやってきた。 「熊さん、こんにちわ。大変ねえ。」 「大したことないよ、こんなの。」 「紋ちゃんも頑張ってるわねえ。」 紋次郎は「はい!と言ったっきりだった。 正男が紋次郎に尋ねた。 「紋ちゃん、何してるの〜?」 「お仕事をしています。」 ポンポコリンが説明した。 「ニワトリの家を作っているのよ。」 「にわとり?」 「ほら、あそこにいるでしょう。」 彼女は指差した。 「あれが、にわとりなの〜!?」 「そうよ。」 「近くに行って見てもい〜い?」 熊さんが答えた。 「ああいいよ。」 ポンポコリンは、正男の手を引いて鳥小屋の前まで連れて行った。 十羽のニワトリが、コッココッコと言い合いながら平たい箱に入ってる餌を仲良くつんばみ合っていた。 「わ〜〜、こっこっこって言ってる。」 「仲がいいでしょう。」 「うん!」 「毎朝、卵を産むのよ。」 「すごいなあ〜。」 ポンポコリンは、木のテーブルに置いてある焦げた食パンに目が行った。 「熊さん、テーブルの上の食パン、どうかしたの?」 熊さんは近くにいた。 「朝、焦がちゃったんだよ。一枚は食べたけどね、一枚は食べられなかった。後で、ニワトリに細かく刻んでからやろうと思ってね。」 「あれと同じように焦げてたの?」 「そうだよ。」 「あんなの食べたら、身体に悪いわよ。」 「平気だよ。昔の人は食べてたんだろう。」 「昔の人って?」 「大昔の人だよ。焼いて焦げたのを平気で食べてたんだろう。」 「まあ、そうだけど?」 「じゃあ、平気だよ。」 「どうして?」 「大昔の人の、食べても大丈夫というDNAを受け継いでいるんだから、大丈夫だよ。」 「なあるほど、そういう理屈か。熊さんらしいわ。」 ポンポコリンは感心していた。 紋次郎も、熊さんの話しを聞いていた。 「さすが、大先生!」 正男の声がした。 「わ〜〜、面白〜い!」 みんなが声のしたほうを振り向くと、正男は消えていた。 「正男くん、どこ!?」 「ここだよ!」 正男の背丈よりちょっと大きなダンボールが動いた。 「この中だよ。」 「あらあら、どうしたの?」 「これをかぶって、ニワトリさんを驚かそうと思って。」 「そんなんじゃあ、驚かないわよ。」 熊さんがやってきた。 「それじゃあ、見えないだろう。ど〜れ!」 熊さんは、ダンボールを、ぽんと持ち上げて取った。 カッターを持ってきてくりぬいた。再び、正男にかぶせた。 「どうだ!」 「わ〜〜、よく見える〜!」 正男は歩き出した。急に雨が降ってきた。ポンポコリンと熊さんは、急いで作りかけの鳥小屋に入った。屋根だけは完成していた。紋次郎は、まだ何かをやっていた。 「紋次郎!おまえも入れ!」 「わたしは大丈夫です。防水ボディですから。」 「濡れたら仕事にならないだろう。いいから入れって!」 「はい。」 紋次郎も小屋に入った。正男だけが、雨の中ではしゃいでいた。 「わ〜〜〜、雨だ〜〜!」 ポンポコリンが正男に大声で言った。 「正男くん、こっちに来なさ〜い〜!中に入んなさ〜い!」 「ぼく、大丈夫だよ!」 正男は、ダンボールの中で面白がっていた。熊さんが「子供は、ああいうのが好きなんだよ。」と言った。雨が、ダンボールをパラパラポンポンと打ち叩いていた。
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