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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第141回   高野山の次元の窓
ガソリン暴走族のメリーゴーランドから分かれた彼らは、アナーキーな永ちゃんのヒットナンバー<黒く塗りつぶせ>を歌いながら普通に走っていた。無政府主義者と化した彼らには、ぴったり曲だった。

そうさ 朝から晩まで ナイト アン デイ いつも働きっぱなし〜 ♪
まるで犬コロみたいさ ナイト アン デイ なのに文無し ナイト アン デイ〜 ♪
シャクな〜この世界だぜ〜 みんな黒く塗り潰せ〜〜〜 ♪
シャクな〜金持ちどもを〜 みんな黒く塗り潰せ〜〜〜 ♪
いつか おいらのハートはハリケーン 闇を切り裂くハリケーン ♪
荒れる竜巻 光る稲妻 闇を切り裂くハリケーン ♪
シャクな〜恋の夢など〜 みんな黒く塗り潰せ〜〜〜 ♪
古い夢見るやつら〜 みんな〜 黒く塗り潰せ〜〜〜 ♪

「あっ、ボスたちの自動車だ!」
彼らの前を、雇い人たちの銀色のマイクロバスが走っていた。
彼らは、クラクションを鳴らすと、助手席側の窓を開け、追い越しざま「先導しま〜〜す!」と叫んで、マイクロバスの前に出て行った。マイクロバスの運転手は驚いた。
「なんだ、あいつら。余計なことしやがって。真面目に炭酸ガスを撒き散らし走り回って仕事してろ!」
後ろに座ってる隊長が言った。
「まあ、いいじゃないか。前方を守ってやってるんだろう。」
「わたしの運転だけで大丈夫ですよ〜。」
「こっちが大丈夫でも、ときどき逆走してくる老人がいるからなあ〜。地球人は何をするか分からん。」
「まあ、そうですけど。」
「いいじゃないか、数少ない地球人の仲間なんだから。」
マイクロバスは、大台ケ原に向かっていた。
運転手の後ろの席には、隊長と副隊長が座っていた。
「昨夜は驚いたなあ〜。」
「隊長、何のことですか?」
「豊沢会長だよ。突然現れて、びっくりしたよ。」
「そうですねえ〜。」
「一昨日(おととい)やっと完成して、あの世とやらに送ったばかりなのになあ。」
「私も驚きました。」
「会長は新しい物が好きだからなあ〜。よっぽど嬉しかったんだろうなあ〜、」
「あの世に行っても同じですねえ〜。さすがですねえ〜。」
「オロロン星の最新科学で作ったものです。あれは最高傑作ですよ。」
「そうだな、龍の玉伝説を参考にして上手く作ったもんだ。」
「会長には、特許出願で色々と世話になったからな〜。ほんの御礼だよ。」
「そうですねえ、会長がいなかったら、レアアースの会社は無かったでしょうねえ。」
「地球の法律はややこしからな。今、儲かってるのは、会長のおかげだよ。」
「発明学会には、足を向けては眠れませんな〜。」
「そうだな。」
「地球温暖化で、学会は大丈夫でしょうか?」
「大丈夫だよ。あの人達は発明のプロだから。普通の地球人とは違うよ。」
隊長は、空を見た。
「高野山の次元の窓から、見たこともない龍の玉と発明界の天才がやってきて、きっと空海もびっくりしているだろうな〜。」
「そうですね〜〜、さぞかしびっくりしていますよ。」
「憎っくき空海め、はっははははは!」
「隊長、あの世とかに、空海はいるんですか?」
「それは分からんなあ〜。そんなところには行ったこともないしなあ〜。生きて高野山にいると言うが、そんなことはありえないしなあ〜。」
「人間は死んだら、あの世とかに行くんですよね?」
「人間どもは、そう言ってるな。」
「だったら、あの世は死人で一杯になるんじゃないですか?」
「なんでも、あの世では百年以内に、また戻ってくるらしいよ、この世に。輪廻転生とか言ってな。うまくできてるだろう。」
「りんねてんしょう?うまく考えたもんですすな〜。」
「考えた?」
「地球の坊さんたちですよ。」
「考えたんじゃなくって、ほんとうにあるんだと。だから、会長が戻って来たんだろう。」
「あっ、そうか!」
「聖人を除いてな。」
「聖人?」
「空海のような人間を聖人と言うんだよ。」
「じゃあ、聖人の空海は、あの世に今も生きて残ってるんですか?」
「生きてはいないよ。残っているかも知れんけど、そんなことは分からん!」
「じゃあ、あの世とかで空海は、死んで生きているんですね。」
「死んで生きてる?なんだそりゃあ?」
「空海は、なぜそんなところに残っているんですか?」
「あの世の迷える魂を救っているそうな。お節介なやつだよなあ。」
「まったくですねえ。」
「人間の魂なんか救って、どうするんだよな〜。どろどろした人間の魂なんか救って。」
「まったくですねえ。理解に苦しみますねえ。」
「地球人の魂は、我々オロロン星人の魂みたいに清らかじゃないからな〜。」
「まったくです、まったくです!」
「地球人の汚れて腐った魂なんか、犬にでも食わしてしまえ!」
「まったくです、まったくです!」


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