「ちょっと、待っててください。」 「はい。」 紋次郎は、報告のために集会所に立ち寄った。 「保土ヶ谷さん!」 保土ヶ谷龍次は居なかった。一休さんが一人居て、おいしそうに茶を飲みながら、テレビを観ていた。 「龍次さんだったら、隼人さんと新しく来た花岡さんと、どっかに行ったよ。」 「ああ、そうですか。」 「何か用?」 「じゃあ、もし逢えたら、無事に帰ったと伝えておいてください。」 「分かった!」 紋次郎は戻ると、再びリアカーを引いて母と子のドームハウスに向かった。 夕陽の沈む方向から、誰かが手を振りながらやってくるのが見えた。伊賀十兵衛だった。 「紋次郎く〜〜ん!」 「十兵衛さん!」 十兵衛は、紋次郎の前で止まった。 「あれっ、脚どうしたの?」 「直してもらったんです。」 「誰に?」 「江来(えらい)博士という人です。」 「江来(えらい)博士に!?」 「知ってるんですか?」 「勿論、知ってるよ。ロボットの業界では有名な人だから。博士がどうして、君を?」 「私の主人の友人だったんです。」 「ああ、そうなの。どうやって逢ったの?」 「博士は、近くに住んでいたんです。」 「ああ、そう。」 「ハンプティ・ダンプティの家があって、博士はそこに住んでいるんです。」 「ああ、その名前の家知ってる、どこにあるかは知らなかったけど。高野山にあったんだ。」 「十兵衛さんは、どちらに行かれたんですか?」 「ダチョウ牧場。」 「ダチョウ牧場?」 「知らないの?」 「はい。」 「面白いとこたっだよ。ダチョウがサッカーをやってたよ。今度一緒に行こう。」 「はい、おねがいします。」 「まだ、仕事やってるの?」 「はい。」 「この人たちは?」 「新しい村の仲間です。よろしくおねがいします。」 「ああそうなの。こちらこそ、よろしく。」 礼子が頭を下げて挨拶した。 「五十嵐礼子です。息子の正男です。よろしくおねがいします!」 正男も頭を下げた。 「よろしくおねがいします!」 伊賀十兵衛も、頭を下げて挨拶した。 「伊賀十兵衛です。わたしも、昨日、この村の仲間にして頂いたんですよ。よろしくおねがいします。」 「あ〜〜、そうなんですか!」 伊賀十兵衛は、正男の頭を撫でた。 「正男くんって言うのか、よろしくな!」 「名前、もう一度言って。」 「伊賀十兵衛。」 「いが、じゅうべえ。」 「そう!」 正男は、小さな声で何度も繰り返していた。 伊賀十兵衛は、紋次郎の方を叩いた。 「じゃあ、頑張ってね。」 十兵衛は、去って行った。 紋次郎たちは、母と子のドームハウスに辿り着くと、紋次郎を先頭にハウスのなかに入って行った。 「ただいま〜!」 ポンポコリンは、台所で何かをやっていた。 「あら、紋ちゃん、遅かったわねえ。」 「いろいろと廻ったもので。」 「そうだったの。」 紋次郎の後ろから、五十嵐親子が入って来た。 「今、帰りました〜!」正男も真似をして同じ言葉を繰り返した。 「いま、かえりました〜!」 ポンポコリンは、お米をライスボックスの中に入れていた。 「お帰りなさ〜〜い!」 紋次郎は、玄関のドアを閉め、荷物を持って突っ立っていた。親子は、中に入ると、ダイニングルームのテーブルの前に座った。正男が、紋次郎を呼んだ。 「もんちゃんも入んなよ!」 紋次郎は入って来た。荷物をテーブルの上に置いた。でも座らなかった。 「立ってたら疲れるよ。」 「大丈夫です。ロボットは疲れませんから。」 「ふ〜〜ん、そうなの。」 ポンポコリンが、礼子に聞いた。 「いい物、ありました?」 「はい。八百屋さんとか、魚屋さんとかもあるんですね。みかんとか野菜とかも買って来ました。ここは、いいところですねえ。」 「それは良かったですね。」 「でも、お米がありませんでした。」 「お米ですか、お米だったら、わたしのを使って下さい。」 「いいんですか?」 「いいですよ。そうだ!わたし今から、お料理しますけど、一緒に食べましょう!」 「えっ、いいんですか?」 「いいですよう、最初ですから。好き嫌いは無いんでしょう?」 「はい、ありません。」 ポンポコリンは、正男に顔を向けた。 「正男くんは、何でも食べる?」 正男は、大きな声で答えた。 「はい、何でも食べま〜〜す!」 とても大きな声だった。ポンポコリンは笑った。 「元気いいわねえ。」 「はぁ〜〜〜い!」 正男は、お姉ちゃんの料理が食べられることが嬉しかった。 「この子、私や主人以外の人の料理は、初めてなんです。」 正男の目は、らんらんと輝いていた。ポンポコリンは張り切った。 「よ〜〜〜し、ほっぺたが落ちるような、おいしいものを作るぞお〜!」 「ほっぺたが落ちるような、ってなあに?」 「あら、知らない言葉だったかな?」 ロボットの紋次郎も、首を傾げた。 「ほっぺたが落ちたら、大変ですよ。病院に行かなきゃ!」 ポンポコリンと礼子は、顔を見合わせて大笑いしていた。
|
|