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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第14回   ほっぺたが落ちる
「ちょっと、待っててください。」
「はい。」
紋次郎は、報告のために集会所に立ち寄った。
「保土ヶ谷さん!」
保土ヶ谷龍次は居なかった。一休さんが一人居て、おいしそうに茶を飲みながら、テレビを観ていた。
「龍次さんだったら、隼人さんと新しく来た花岡さんと、どっかに行ったよ。」
「ああ、そうですか。」
「何か用?」
「じゃあ、もし逢えたら、無事に帰ったと伝えておいてください。」
「分かった!」
紋次郎は戻ると、再びリアカーを引いて母と子のドームハウスに向かった。
夕陽の沈む方向から、誰かが手を振りながらやってくるのが見えた。伊賀十兵衛だった。
「紋次郎く〜〜ん!」
「十兵衛さん!」
十兵衛は、紋次郎の前で止まった。
「あれっ、脚どうしたの?」
「直してもらったんです。」
「誰に?」
「江来(えらい)博士という人です。」
「江来(えらい)博士に!?」
「知ってるんですか?」
「勿論、知ってるよ。ロボットの業界では有名な人だから。博士がどうして、君を?」
「私の主人の友人だったんです。」
「ああ、そうなの。どうやって逢ったの?」
「博士は、近くに住んでいたんです。」
「ああ、そう。」
「ハンプティ・ダンプティの家があって、博士はそこに住んでいるんです。」
「ああ、その名前の家知ってる、どこにあるかは知らなかったけど。高野山にあったんだ。」
「十兵衛さんは、どちらに行かれたんですか?」
「ダチョウ牧場。」
「ダチョウ牧場?」
「知らないの?」
「はい。」
「面白いとこたっだよ。ダチョウがサッカーをやってたよ。今度一緒に行こう。」
「はい、おねがいします。」
「まだ、仕事やってるの?」
「はい。」
「この人たちは?」
「新しい村の仲間です。よろしくおねがいします。」
「ああそうなの。こちらこそ、よろしく。」
礼子が頭を下げて挨拶した。
「五十嵐礼子です。息子の正男です。よろしくおねがいします!」
正男も頭を下げた。
「よろしくおねがいします!」
伊賀十兵衛も、頭を下げて挨拶した。
「伊賀十兵衛です。わたしも、昨日、この村の仲間にして頂いたんですよ。よろしくおねがいします。」
「あ〜〜、そうなんですか!」
伊賀十兵衛は、正男の頭を撫でた。
「正男くんって言うのか、よろしくな!」
「名前、もう一度言って。」
「伊賀十兵衛。」
「いが、じゅうべえ。」
「そう!」
正男は、小さな声で何度も繰り返していた。
伊賀十兵衛は、紋次郎の方を叩いた。
「じゃあ、頑張ってね。」
十兵衛は、去って行った。
紋次郎たちは、母と子のドームハウスに辿り着くと、紋次郎を先頭にハウスのなかに入って行った。
「ただいま〜!」
ポンポコリンは、台所で何かをやっていた。
「あら、紋ちゃん、遅かったわねえ。」
「いろいろと廻ったもので。」
「そうだったの。」
紋次郎の後ろから、五十嵐親子が入って来た。
「今、帰りました〜!」正男も真似をして同じ言葉を繰り返した。
「いま、かえりました〜!」
ポンポコリンは、お米をライスボックスの中に入れていた。
「お帰りなさ〜〜い!」
紋次郎は、玄関のドアを閉め、荷物を持って突っ立っていた。親子は、中に入ると、ダイニングルームのテーブルの前に座った。正男が、紋次郎を呼んだ。
「もんちゃんも入んなよ!」
紋次郎は入って来た。荷物をテーブルの上に置いた。でも座らなかった。
「立ってたら疲れるよ。」
「大丈夫です。ロボットは疲れませんから。」
「ふ〜〜ん、そうなの。」
ポンポコリンが、礼子に聞いた。
「いい物、ありました?」
「はい。八百屋さんとか、魚屋さんとかもあるんですね。みかんとか野菜とかも買って来ました。ここは、いいところですねえ。」
「それは良かったですね。」
「でも、お米がありませんでした。」
「お米ですか、お米だったら、わたしのを使って下さい。」
「いいんですか?」
「いいですよ。そうだ!わたし今から、お料理しますけど、一緒に食べましょう!」
「えっ、いいんですか?」
「いいですよう、最初ですから。好き嫌いは無いんでしょう?」
「はい、ありません。」
ポンポコリンは、正男に顔を向けた。
「正男くんは、何でも食べる?」
正男は、大きな声で答えた。
「はい、何でも食べま〜〜す!」
とても大きな声だった。ポンポコリンは笑った。
「元気いいわねえ。」
「はぁ〜〜〜い!」
正男は、お姉ちゃんの料理が食べられることが嬉しかった。
「この子、私や主人以外の人の料理は、初めてなんです。」
正男の目は、らんらんと輝いていた。ポンポコリンは張り切った。
「よ〜〜〜し、ほっぺたが落ちるような、おいしいものを作るぞお〜!」
「ほっぺたが落ちるような、ってなあに?」
「あら、知らない言葉だったかな?」
ロボットの紋次郎も、首を傾げた。
「ほっぺたが落ちたら、大変ですよ。病院に行かなきゃ!」
ポンポコリンと礼子は、顔を見合わせて大笑いしていた。



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