下には人間村が見えていた。アニーは芝生の上に立て膝で座った。 「ここでいいでしょう!」 「そうですね。」と言って、姉さんも同じように立て膝で座った。 アニーは、ポケットからガムを取り出した。 「ガムです。どうですか?」 「わたし、けっこうです。」 「嫌いなんですか?」 「はい。いらいらしてくるんです。忘れて食べてしまうんです。」 「あ〜〜、そうなの〜?葛城さんらしいわ。」 アニーは笑っていた。小さな蝶々が、ひらひらと舞っていた。 「じゃあ、適当に始めましょう。変なものを発見したら撮影してください。」 「はい。」 五人の男たちが、人間村の方に歩いてやって来るのが見えた。姉さんは「何だろう、あの人たち?」と言って、双眼鏡を覗いた。 「あの人たちは、たぶん中国人と日本の不動産屋です。」 「中国人と日本の不動産屋?」 「最近、よく来るんですよ。中国人が別荘を探しに。」 「そうなんですか。中国人は金持ちなんですねえ。」 「一部の人たちだけですよ。」 「それはどこの国も同じですね。」 「そうですね。アメリカにも有名なスラム街はあるし。」 「どこでも同じです。たとえ共産国だって、優れた人間は優遇されます。」 「そういうことですね。」 「日本も同じですよ。」 「そうですね。」 「結局、差別がないと、人間は満足しないんですよ。闘争本能がありますから。」 「さ〜〜〜すが、葛城さん!クールですねえ!」 「クール?」 「頭がいいということです。」 「アメリカでは、そう言うんですか?」 「はい。」 「わたし、クールなのかなあ?」 「とっても、クールです。」 「はい。これからはクールの時代です。ぼ〜っとしてたら生きて行けません。」 姉さんとアニーは、顔を見合って笑っていた。姉さんは、ぼやいた。 「日本は不景気だと言うのに。羨ましいなあ〜。」 「中国は、レア・アースで儲けてるんですよ。」 「レア・アース?」 「貴重元素です。」 「それって、何に使うんですか?」 「高性能モーターとか、レーザーとかLEDですね。」 「ほとんど、現代の主役ですねえ。」 「そうなんですよ。」 「これがないと駄目なんですよ。そして、産出の九十パーセント以上が中国なんです。」 「じゃあ、ほとんどですねえ。」 「だから、最近の中国は高飛車なんですよ。」 「な〜るほどねえ。」 「他では取れないんですか?」 「まあ、ほとんど駄目なんでしょうねえ。」 「中国独占か〜。」 「大台ケ原レアアースという会社があるんですよ。」 「はい。」 「文字通り、大台ケ原のふもとにあるんですけどね。それが妙なんです。」 「妙?」 「その会社、どう調べても、中国との取引がないんですよ。」 「じゃあどこから?」 「それが分からないんですよ。」 「不明のレア・アース?」 「はい。レア・アースではないかも知れないんです。」 「えっ?」 「例えば、レアムーンとか?」 「レア・ムーン?」 「言葉だけなら、月の希少元素です。」 「月の?」 「中国のというか、地球のレア・アースと成分がかなり違うらしいんですよ。」 「それは不思議ですねえ。でも使えるんでしょう?」 「ええ、ほぼ同じように。」 姉さんは、目を丸くして聞いていた。
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