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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第137回   レア・ムーン
下には人間村が見えていた。アニーは芝生の上に立て膝で座った。
「ここでいいでしょう!」
「そうですね。」と言って、姉さんも同じように立て膝で座った。
アニーは、ポケットからガムを取り出した。
「ガムです。どうですか?」
「わたし、けっこうです。」
「嫌いなんですか?」
「はい。いらいらしてくるんです。忘れて食べてしまうんです。」
「あ〜〜、そうなの〜?葛城さんらしいわ。」
アニーは笑っていた。小さな蝶々が、ひらひらと舞っていた。
「じゃあ、適当に始めましょう。変なものを発見したら撮影してください。」
「はい。」
五人の男たちが、人間村の方に歩いてやって来るのが見えた。姉さんは「何だろう、あの人たち?」と言って、双眼鏡を覗いた。
「あの人たちは、たぶん中国人と日本の不動産屋です。」
「中国人と日本の不動産屋?」
「最近、よく来るんですよ。中国人が別荘を探しに。」
「そうなんですか。中国人は金持ちなんですねえ。」
「一部の人たちだけですよ。」
「それはどこの国も同じですね。」
「そうですね。アメリカにも有名なスラム街はあるし。」
「どこでも同じです。たとえ共産国だって、優れた人間は優遇されます。」
「そういうことですね。」
「日本も同じですよ。」
「そうですね。」
「結局、差別がないと、人間は満足しないんですよ。闘争本能がありますから。」
「さ〜〜〜すが、葛城さん!クールですねえ!」
「クール?」
「頭がいいということです。」
「アメリカでは、そう言うんですか?」
「はい。」
「わたし、クールなのかなあ?」
「とっても、クールです。」
「はい。これからはクールの時代です。ぼ〜っとしてたら生きて行けません。」
姉さんとアニーは、顔を見合って笑っていた。姉さんは、ぼやいた。
「日本は不景気だと言うのに。羨ましいなあ〜。」
「中国は、レア・アースで儲けてるんですよ。」
「レア・アース?」
「貴重元素です。」
「それって、何に使うんですか?」
「高性能モーターとか、レーザーとかLEDですね。」
「ほとんど、現代の主役ですねえ。」
「そうなんですよ。」
「これがないと駄目なんですよ。そして、産出の九十パーセント以上が中国なんです。」
「じゃあ、ほとんどですねえ。」
「だから、最近の中国は高飛車なんですよ。」
「な〜るほどねえ。」
「他では取れないんですか?」
「まあ、ほとんど駄目なんでしょうねえ。」
「中国独占か〜。」
「大台ケ原レアアースという会社があるんですよ。」
「はい。」
「文字通り、大台ケ原のふもとにあるんですけどね。それが妙なんです。」
「妙?」
「その会社、どう調べても、中国との取引がないんですよ。」
「じゃあどこから?」
「それが分からないんですよ。」
「不明のレア・アース?」
「はい。レア・アースではないかも知れないんです。」
「えっ?」
「例えば、レアムーンとか?」
「レア・ムーン?」
「言葉だけなら、月の希少元素です。」
「月の?」
「中国のというか、地球のレア・アースと成分がかなり違うらしいんですよ。」
「それは不思議ですねえ。でも使えるんでしょう?」
「ええ、ほぼ同じように。」
姉さんは、目を丸くして聞いていた。



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