龍次は、右手で頬を捻った。 「夢じゃないみたいだなあ。ショーケンさんも、昨日見たよね?」 「ああ、見たよ。確かに。」 町長は二人に尋ねた。 「どういうこと?」 龍次が答えた。 「昨夜、九時過ぎだったかなあ〜、来たんですよ、先生が。変な丸い乗り物に乗って。」 「変な丸い乗り物?」 「銀色の走ると緑色に光って走る、球体の乗り物なんですけどね、帰りは転がって去って行ったんですよ。ねえ、ショーケンさん。」 「そうそう、転がってね!」 「毬のように、ころころ転がってですか?」 「そう、ころころ転がって。」 「そんなの見たことがありませんねえ。それは、不思議な乗り物ですねえ。」 「高さは三メートルくらいだったかな〜。」 町長は確認するように尋ねた。 「じゃあ、ほんとうに豊沢先生は亡くなられたんですね。」 「間違いなく、そう言ってました。」 「じゃあ、幽霊かも知れませんね、その昨夜の先生は。」 「幽霊?」 「昨日は、お彼岸の入りでしたからねえ。」 「あっ、そうでしたねえ。」 ショーケンは思い出していた。 「幽霊?まっさか!実にリアルだったよ、先生も乗り物も、今でも、はっきりと覚えているよ。」 龍次も同感だった。 「そうですよね〜、わたしも先生の顔を、はっきりと覚えています。あれは幽霊の顔ではありませんでしたよね。」 「ちゃんと、足で歩いて乗り物に乗ってたよ。」 「そうです、そうです。足取りも、ちゃんとしていました。」 町長が質問した。 「先生は、若かったんですか?おいくつくらいだったんですか?」 「歳は取ってたようでしたが、足腰はしっかりしていたので、八〇前後だったかと…」 ショーケンは違う返事だった。 「え〜〜、そう?俺には、五〇前後に見えたよ。」 町長が答えた。 「じゃあ、やっぱり幽霊です。幽霊は、その人によって違うように見えるのです。」 ショーケンは驚いた。 「え〜〜〜、そうなの?」 龍次も驚いた。 「そうなんですか!?」 「先生は、もっと行ってるはずですよ。百歳くらいは。」 「えっ、そんなに?」 「保土ヶ谷さんが最後に会ったのが、八〇歳くらいだったのでしょう。」 ショーケンが発言した。 「わたしは、一度も会ったことがないんですけど?」 「知らない人には、一番輝いてたころが見えるのです。」 「へ〜〜え。」 「保土ヶ谷さん、聞かなかったんですか?」 「はい。あまりにびっくして。今電話で再度聞いてみます。」 龍次は、再度おなじところに電話をかけた。 「百二歳。あっ、そうですか。度々、ありがとうございます!」 龍次は、電話を切った。 「どうでした?」 「百二歳だったそうです。」 「やっぱり!」 二人は唖然としていた。ショーケンが呟いた。 「じゃあ、あの光る丸い乗り物は何だったんだろう?」 「緑色でしたか?」 「ええ。」 「それは、此岸(しがん)と彼岸を行き来する、龍の玉です。」 「此岸(しがん)と彼岸を行き来する?」 「此岸(しがん)とは、この世のことで、彼岸(ひがん)とは、あの世のことです。」 「え〜〜〜!」 「そして、龍の玉には限られた人しか乗れません。」 ショーケンは、驚いて次の言葉が出なかった。龍次も同様だった。近くで、群生からはぐれた、一輪の赤い彼岸花が、またの名を幽霊花が、ゆらゆらと幽霊のように風に揺れていた。 龍次は、二人に背を向け空を見て泣いていた。 「先生〜〜〜!」 町長は、龍次の背に向かって、 「保土ヶ谷さん、どうもありがとう。いいアイデアだから検討してみますよ。もし決まったら、連絡しますので、そのときは宜しく御願いします。」 町長は、ポンと龍次の肩を叩いた。龍次は、「はい!」と返事した。町長は「龍の玉とは、驚いたなあ〜!」と言いながら、去って行った。 ショーケンの目は、いつものように冷たく醒めていた。 「龍次さん、ありゃあ幽霊なんかじゃないよ。それに、あの乗り物は、人間が作った機械だよ。」 龍次は振り向いた。 「幽霊じゃないとしたら?」 「クローンかも知れない。」 「クローン?もしクローンだったら、誰が見ても同じに見えるんじゃあ?」 「まあ、そういうことになるけど…」 「やっぱり幽霊だよ、あれは。」
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