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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第132回   一輪の彼岸花
龍次は、右手で頬を捻った。
「夢じゃないみたいだなあ。ショーケンさんも、昨日見たよね?」
「ああ、見たよ。確かに。」
町長は二人に尋ねた。
「どういうこと?」
龍次が答えた。
「昨夜、九時過ぎだったかなあ〜、来たんですよ、先生が。変な丸い乗り物に乗って。」
「変な丸い乗り物?」
「銀色の走ると緑色に光って走る、球体の乗り物なんですけどね、帰りは転がって去って行ったんですよ。ねえ、ショーケンさん。」
「そうそう、転がってね!」
「毬のように、ころころ転がってですか?」
「そう、ころころ転がって。」
「そんなの見たことがありませんねえ。それは、不思議な乗り物ですねえ。」
「高さは三メートルくらいだったかな〜。」
町長は確認するように尋ねた。
「じゃあ、ほんとうに豊沢先生は亡くなられたんですね。」
「間違いなく、そう言ってました。」
「じゃあ、幽霊かも知れませんね、その昨夜の先生は。」
「幽霊?」
「昨日は、お彼岸の入りでしたからねえ。」
「あっ、そうでしたねえ。」
ショーケンは思い出していた。
「幽霊?まっさか!実にリアルだったよ、先生も乗り物も、今でも、はっきりと覚えているよ。」
龍次も同感だった。
「そうですよね〜、わたしも先生の顔を、はっきりと覚えています。あれは幽霊の顔ではありませんでしたよね。」
「ちゃんと、足で歩いて乗り物に乗ってたよ。」
「そうです、そうです。足取りも、ちゃんとしていました。」
町長が質問した。
「先生は、若かったんですか?おいくつくらいだったんですか?」
「歳は取ってたようでしたが、足腰はしっかりしていたので、八〇前後だったかと…」
ショーケンは違う返事だった。
「え〜〜、そう?俺には、五〇前後に見えたよ。」
町長が答えた。
「じゃあ、やっぱり幽霊です。幽霊は、その人によって違うように見えるのです。」
ショーケンは驚いた。
「え〜〜〜、そうなの?」
龍次も驚いた。
「そうなんですか!?」
「先生は、もっと行ってるはずですよ。百歳くらいは。」
「えっ、そんなに?」
「保土ヶ谷さんが最後に会ったのが、八〇歳くらいだったのでしょう。」
ショーケンが発言した。
「わたしは、一度も会ったことがないんですけど?」
「知らない人には、一番輝いてたころが見えるのです。」
「へ〜〜え。」
「保土ヶ谷さん、聞かなかったんですか?」
「はい。あまりにびっくして。今電話で再度聞いてみます。」
龍次は、再度おなじところに電話をかけた。
「百二歳。あっ、そうですか。度々、ありがとうございます!」
龍次は、電話を切った。
「どうでした?」
「百二歳だったそうです。」
「やっぱり!」
二人は唖然としていた。ショーケンが呟いた。
「じゃあ、あの光る丸い乗り物は何だったんだろう?」
「緑色でしたか?」
「ええ。」
「それは、此岸(しがん)と彼岸を行き来する、龍の玉です。」
「此岸(しがん)と彼岸を行き来する?」
「此岸(しがん)とは、この世のことで、彼岸(ひがん)とは、あの世のことです。」
「え〜〜〜!」
「そして、龍の玉には限られた人しか乗れません。」
ショーケンは、驚いて次の言葉が出なかった。龍次も同様だった。近くで、群生からはぐれた、一輪の赤い彼岸花が、またの名を幽霊花が、ゆらゆらと幽霊のように風に揺れていた。
龍次は、二人に背を向け空を見て泣いていた。
「先生〜〜〜!」
町長は、龍次の背に向かって、
「保土ヶ谷さん、どうもありがとう。いいアイデアだから検討してみますよ。もし決まったら、連絡しますので、そのときは宜しく御願いします。」
町長は、ポンと龍次の肩を叩いた。龍次は、「はい!」と返事した。町長は「龍の玉とは、驚いたなあ〜!」と言いながら、去って行った。
ショーケンの目は、いつものように冷たく醒めていた。
「龍次さん、ありゃあ幽霊なんかじゃないよ。それに、あの乗り物は、人間が作った機械だよ。」
龍次は振り向いた。
「幽霊じゃないとしたら?」
「クローンかも知れない。」
「クローン?もしクローンだったら、誰が見ても同じに見えるんじゃあ?」
「まあ、そういうことになるけど…」
「やっぱり幽霊だよ、あれは。」


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