サキと熊さんが、水木しげるのアシスタントだという男が去って行くのを見ていると、左の道から観光客風の六人の集団がやって来た。 先頭の男がペコリと頭を下げて、二人の前で挨拶した。 「ニーハオ!」 サキと熊さんも、軽く頭を下げて挨拶した。 「こんにちわ!」「こんにちわ!」 集団は、人間村の奥に向かって去って行った。 「なんだ、中国人か?」 「最近、中国人の観光客が多くなりましたねえ。」 「これからは、中国の時代か〜、アメリカの時代は、もう終わったか〜。」 世界に、地球温暖化の風と、中国の国家資本主義の風が吹いていた。 食堂に入ろうとすると、ポンポコリンと正男と忍が出てきた。 「正男くん、こんにちわ〜!」 正男は元気よく返事をした。 「こんにちわ〜!」 熊さんは、正男を見るのが初めてだった。 「正男くんて言うのか、こんにちわ!」 「こんにちわ!五十嵐正男です!」 「お〜〜、元気いいなあ〜。俺は、熊さんて言うんだ、よろしくな!」 「くまさんて、クマのクマさん?」 「そうだ、熊のクマさんだ。」 サキが説明した。 「ほんとうは、熊田さんって言うのよ。でも、ここでは熊さんでいいの。」 「うん、分かった!」 サキと熊さんは、食堂に入って行った。 「さあ、行こう!ダチョウを見に。」 「わ〜〜〜い!」 ポンポコリンはスライダーカートに乗り込んだ。 「忍さんも行く?」 「俺はいいよ。」 「じゃあ、集会所まで送ろうか?」 「いいよ、すぐそこだから、自分で歩けるよ。」 「ああ、そう。」 忍は、「正男、バイバ〜イ!」と言うと、集会所に向かって歩き出した。 「ばいば〜〜〜い!」 「正男くん、ここに乗って!」 「は〜い!」 正男は、ポンポコリンの隣に座った。スライダーカートは、ダチョウ牧場に向かって、ゆっくりと動き出した。正男は、水車を見ていた。 「あれ、なあに?」 「水車っていうのよ。」 「すいしゃ?」 「くるくる回って、電気を作っているの。」 「ふ〜〜〜ん。」 里芋畑は、人間村の外れにあった。 「正男くん、あれが里芋の畑よ。」 「あそこで売ってるの?」 「売ってるんじゃなくって、あそこでできるの。」 「できるの?」 「あそこで、土の中で大きくなって育つのよ。」 「ふ〜〜〜ん、不思議だねえ。」 「正男くんの近くには、畑はなかったの?」 「なかったよ、工場と家ばっかりで。」 「そ〜〜う。」 「あっ、飛行機みたいなのが飛んでる?」 「トンボよ。」 「とんぼって、なあに?」 「虫よ。昆虫って言うの。」 「こんちゅう。デパートで売ってるカブトムシの仲間?」 「そう、カブトムシの仲間。」 「あれは、オニヤンマっていうのよ。」 「おにやんま。ぅわ〜、かっこいいなあ〜。」 「初めて見るの?」 「うん!」 ポンポコリンは、涙ぐんでいた。 高野山の風は爽やかに吹いていたが、地球温暖化による、人類滅亡の危機は刻一刻と確実に迫っていた。
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