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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第123回   極限正義党
その頃、猿人間キーキーたちは、キーキー言いながら、御飯のオカズに網で焼いた御殿(おど)川で獲れた川魚(あまご)とカブの一夜漬けを食べていた。
「やっぱり、カブは最高だなあ〜。」
カブを美味しそうに、かぶかぶと食べていた。
「そうだな〜、高野山で取れたカブは最高だな〜。」
「なんだ、あんたもカブが好きなのかい?」
「あ〜、大好きだよ!」
「不思議なもんだなあ、俺たちみんな好きだなんて!」
「俺たち、似てるんだな〜〜。」
「ここはいいな〜、頭の変な連中がいなくって!」
「下界の連中は、頭がおかしいからなあ〜。特に警官は!」
「おかしいって、どうしたんだい?」
「一円玉を拾ったから、俺、嘘をつくのはいけなから、正直に交番に届けたんだよ。そしたら、何と言ったと思う?」
「褒められた?」
「とんでもない!怒られちゃったよ!」
「どうして?」
「忙しいのに、一円玉くらいで、いちいち届けるな!って。ひどい話だろう?」
「そりゃあ、ひどいなあ〜。学校で習ったよな、お金を拾ったら、ちゃんと届けろ!って。」
「そうだよな〜。嘘は泥棒の始まり!まったく、どうなってるんだ、世の中?」
「正しいことをやる警官が、公然と間違ったことをやっているだからな〜。まったくひどい話しだよ〜。」
「この国は、もう駄目だな、自分勝手な連中ばかりで!」
今まで、黙って聞いていた猿人間キーキーも話に加わった。
「俺なんか、もっとひどいよ。」
「もっとって?」
「一円玉じゃなくって、十円玉だよ。」
「ほんとかよ〜〜〜!?」
「俺、正しいよな?間違っていないよな?」
「その通り、あんたは正しい!間違っていない!」
「まったく、下界は間違った変な連中ばっかだよ。嘘をついたら、即刻罰則だよ!」
「一円を笑うものは一円に泣く!一円を馬鹿にしちゃあ、いけないよ!」
「俺なんか、横断歩道で手を上げて渡ろうとしたら、タクシーが止まってよ。」
「で、どうしたんだよ?」
「紛らわしいことするな〜!って怒鳴られちゃった!」
「え〜〜〜、そりゃあ、ひどい話しだな〜〜!」
「あの運ちゃん、心の病気だな!と思って、黙ってたよ。」
「まったく、気が狂ってる世の中だよな〜。下界は変な連中ばっかだよ。」
「下界は、うつ病みたいな連中ばっかりだな!」
「下界では、うつ人間たちが、うつつを抜かしているからな〜。」
「はっはっはっは、それは傑作だ!」
下らない駄洒落に大喜びする彼らであった。温泉ホームレスの三人は違う話しをしていた。
「今年は、熱中症で死ぬかと思ったよ〜!」
「俺もだよ。」
「俺もだよ。自動車は、突然火を噴いて燃え上がるし。」
「自動車には近づかないほうがいいぞ。」
「道路の脇の歩道は、歩かないほうがええぞ!」
「そうだな〜。でも、もう危険な下界に戻ることはないだろう。」
「ありゃあ、走る棺桶だな。」
「まったくだ。」
「下界では、今も沢山の棺桶が走っていると思うと、ぞっとするよ。」
「お〜〜、気持ち悪い!」
「来年は、もっと熱中症で死ぬだろうな〜。」
「お〜〜、怖い怖い!」
「高野山は、下界と比べると涼しいなあ〜。」
「まるで天国だな〜。」
「ほんとにいいところだな〜ここは、近くには温泉も湧いてるし。」
「ほんとにいいところだ!」
彼らは、合計十人の集団だった。
地主がやってきた。
「やってるね〜、君たち!」
「やあ、地主さん!」
「開墾は進んでいるみたいだねえ〜。」
「はい!開墾したら、ほんとうにくれるんですか、この土地を?」
「ああ、あげるよ。荒れ果てて、困ってたんだよ。助かったよ!」
「この辺りの草は、ほとんど刈ってあります。不便なので、道も作りました。」
「ああ、大したもんだ!」
「地主さんが、いろいろな機械を貸してくれたもので、かなり進んでますよ。」
「そのようだね。何か足りない物があったら言ってくれ。持ってくるから。」
「ありがとうございます。」
「いつまでも、テントじゃあ辛いでしょう。もうすぐ、プレハブの小屋を持ってくるよ。」
「いろいろとありがとうございます!今のところ、テントでも大丈夫です。地主さんから頂いた虫除けの蚊帳(かや)もあるし。」
「持ってきたら、自分たちで組み立ててね。」
「はい!」「は〜〜い!」
「君たちは、こうやって話していると、いい奴なんだけどな〜。」
「そうなんです、わたしたち普通なんです。世間の連中が間違っているんです。」
「そうかも知れんな。」
「知れんなじゃなくって、そうなんです!」
地主は、それ以上は逆らわなかった。
「そうだな!君たちは正しい!また来るよ!」
鼻を噛みつかれたら大変なので、地主はさっさと帰って行った。
一人の男が、『極限の正義』という本を読んでいた。みんなに提案した。
「俺たちを、極限正義党と名づけよう!」
みんなは、「賛成〜〜!」と言って、拍手した。彼らは常に、単純明快だった。複雑な、地球温暖化の風が、強くなったり弱くなったりを繰り返して吹いていた。



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