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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第122回   嫌われ者の気持ち
儀式のように泣き終わると、彼らは何事もなかったかのように。ログハウスに入って行った。
「葛城さん、終わったみたいだわ。」
「そうですか。」
姉さんは、とまとプリンを食べ終わり、高野山ニュースを見ていた。
「手伝おうか、福之助?」
「けっこうです。」
福之助は、後片付けをしていた。

 御殿(おど)川、相の浦近くの原野で、猿人間キーキーらしき集団が発見されました。
 彼らは、キャンプを張っており、そこで生活している模様です。
 決して近づかないでください。不用意に近づき会話をしないでください。
 自分の意見に反すると、即座に鼻を噛みつかれます。
 危険ですので、絶対に反対の意見を言わないでください。

姉さんは、不思議そうな顔でニュースを見ていた。
「彼らは、どうして一方的なんでしょうかねえ?」
「思考が単純なんじゃないんでしょうか?」
「思考が単純?」
「彼らの言ってることは、一見正しいんですよ。だからやっかいなんです。」
「一見正しい?だからやっかい?」
「例えば、どんな場合でも、嘘をつくのは正しくない!と判断するんです。でも、時と場合によっては、人間は嘘をつきますよね。つかなければいけない場合もありますよね。」
「はい。」
「それが分からないんですよ。時と場合というのが。」
「な〜るほど。」
「まったく嘘をつかない、嘘をつけない、って言うのも、実は精神障害なんです。」
「え〜〜、そうなんですか?単に、嘘をつく脳がないんじゃないですか?」
「そういう場合もあります。ちゃんとした嘘は、先を読まないとつけませんから。」
「嘘は脳を使いますからね。」
「そして彼らは、迷惑イコール悪い!と判断します。ですから、他人に迷惑をかける病人や障害者を憎みます。」
「病人や障害者を憎むんですか?」
「はい、容赦なく憎みます。」
「そうなんですか〜?」
「時々いるでしょう。病気になった人に不機嫌になったり、怒る人が。これは、普通の人とは逆の反応です。だから、そういう場面で、人の本当の気持ちが分かります。」
「あ〜いますねえ〜、そういう人!」
「思いやるとかいう気持ちが欠如しているんです。」
「いたわりの気持ちがないんですね。」
「そうです。猿でも、傷ついた仲間は助けますよ。」
「どうしてなんでしょうかねえ?」
「ある局面だけを見て、大局を見れないんですよ。」
「囲碁や将棋のようにですか?」
「そうです。囲碁や将棋では、限られた局面が正しくても大局的に見ると間違っていることが多いです。そいうことが分からないんですよ。」
「う〜〜ん、そういうことか。つまり、狭い範囲しか見てないんですね。」
「はい。狭い範囲でしか判断できないんです。」
「な〜るほど。」
「法律に従わないと悪い!ただそれだけなんです。」
「な〜るほどねえ〜。つまり、思考が猿みたいに単純なんですね。」
「そういうことです。」
「だ〜〜から、人の意見を聞かずに怒り出すんだ。」
「そういうことですね。」
「やっかいだなあ〜。」
「本人は、いたって真面目すぎるほど、真面目なんですよ。正しいと思っているんです。」
「なるほどねえ。」
「真面目すぎて、融通が聞かなくって、人から嫌われる。」
「なるほどねえ。そう考えると、可哀想ですねえ。」
「でも、本人は、それが孤独とは思っていませんから。」
「自分が一番正しいと思ってる?」
「はい。」
「でも、ほんとうに正しいことを言うときもあるんじゃあ?」
「一度嫌われると、人間の心理って、正しくても拒否する傾向があるんですよ。特に女性は。」
「いや〜〜、それは益々可哀想だなあ〜。」
「そうなんですけど、あくまでも本人は平気なんですよ。次元が違うんです。」
「つまり、住んでる世界が違う?」
「そういうことですね。下手に同情すると噛みつかれますよ。」
「わ〜〜、やっかいだなあ〜。」
「近づかないことです。」
「結局、そうなっちゃうんですねえ〜。可哀想だなあ〜。」
姉さんは、可哀想可哀想をスーパーの大安売りのように連発していた。
「実に可哀想な人間だなあ〜。みんなから、猿呼ばわりされて。」
福之助が尋ねた。
「可哀想って、わたしのことですか?」
「おまえじゃないよ!おまえは、アホ!」
「何ですって!」
「ごめんごめん!あんたは、クワイタ・ガ〜イ!」
「ありがとうございます!」
「葛城さん、一時になったら、撮ってきた映像を観ましょう!」
「はい!でも彼ら、そんなところで何をやってるんでしょうかねえ?警察に追われてるわけでもないのに?嫌われてるだけで、犯罪者なんかではありませんからねえ。」
「さ〜〜あ?」
「嫌われ者って、いったいどういう気持ちなんでしょうかねえ?」
「さ〜〜あ?」
「人間を恨んでいるんでしょうかねえ?」
「さ〜〜あ?」
「心理学でも分からないんですか?」
「本人の心までは、心理学では分からないんです。客観的に統計的に分析してるだけなんです。よく心理学者が言うでしょう。そのような傾向があるって、その程度なんですよ。」
姉さんもアニーも、嫌われ者になったことがなかったので、嫌われ者の気持ちが、まったく理解できなかった。
「資料によると、彼らはインターネットとカブが好きだそうです。だから、インターネットをしながらカブでもやってるんじゃないですか?」
「つまり、インターネットで株の売買ですか?野っ原でインターネットで株。なんだかシュールな風景だな〜〜。」
「カブです。食べるカブです。彼らの好物は、カブの一夜漬けなんです。」
「カブの一夜漬け?変なの〜〜!」



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