ショーケンたちが弁当を食べていると、測量の道具を持った三人の男たちが通り過ぎて言った。 「新しい家でも建つのかな?」 右隣には龍次がいた。 「金持ちの夏場の別荘でしょう。」 左隣にはアキラがいた。 「金のあるやつはいいよな。夏の地獄から、そうやって逃げられるから。結局、下界に残って焼け死ぬのは貧乏人だけってことね。」 龍次は深く頷いた。 「そういうことになりますね。何か、政府が早く手を打たないといけませんね。」 「龍次さん、それでここに来たんだ〜?」 「そういうわけではありませんよ。偶然です。」 上空を渡り鳥が飛んでいた。 「お〜〜すげえ!V字飛行だ!」 「千鳥(チドリ)です。」 「龍次さんは、鳥にも詳しいんだ〜?」 「たまたまですよ。あまり知りません。」 「人間も渡り鳥みたいになるのかなあ〜?」 「どういうことですか?」 「夏は高いところ、冬は低いところ。」 「それは、なかなかいい考えですね。」 「じゃあ、これからは、渡り人の時代だね〜。」 「渡り人か〜、な〜るほど。」 龍次は、渡り人という言葉に、妙に感心していた。五十嵐礼子は、少し離れたところで、一人で食べていた。 「五十嵐さん、どうでしたか、仕事は?」 「はい、少し慣れてきました。」 「そうですか、それは良かった。」 龍次は、それ以上は尋ねなかった。 「ショーケンさん、馴れました、仕事?」 「まあね。」 「それは良かった。」 龍次は、それぞれに気を使っていた。 「俺には尋ねないの、龍次さん?」 「アキラさんは、大分慣れてきましたねえ。」 「そうかな〜〜?」 「なんだか、前からいるような感じですよ。」 「そんな馬鹿な!」 龍次は笑っていた。 「渡り人か〜、不動産屋も沢山来てるし、そうなるのかな〜。」 「これから、別荘が増えるんだ?」 「別荘だけじゃなくって、宅地も増えてますよ。」 「ああ、そうなの?」 「不動産屋が、観光客に『地獄夏の下界から、現世天国の高野山へ!』のチラシを配っていますから。」 「そんなチラシ、配ってるんだ?」 「はい。」 龍次は弁当を食べ終わり、ペットボトルの緑茶を飲んでいた。五十嵐礼子は、何か心配そうな顔をしていたので、龍次が声を掛けた。 「正男くんなら大丈夫ですよ。ポンポコリンが面倒みてますから。今頃は、食堂で食べてますよ。」 「どうもありがとうございます。いろいろと面倒を見ていただいて。」 「困ったときは、お互い様です。みんな弱い人間ですから。」 五十嵐礼子は、涙を流していた。 地球温暖化による人類滅亡の日が、刻一刻と確実に迫っていた。
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