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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第113回   炭酸ガス入りの冷たい緑茶
「ほんとかよ〜〜!?」
「はい!」
福之助は、ゆっくりと動かしてみせた。
「ほらね!」
「お〜〜〜!普通に動かしてみろ。」
福之助は、普通に動かした。
「動きます!」
「あ〜〜、良かった!」
「良かったわね〜、福ちゃん!」
「はい!」
福之助は、すっかり笑顔になっていた。姉さんも、笑顔になっていた。
「もとのボンクラ顔になって良かった〜!」
「ボンクラ顔とは何ですか!」
「お前は、その顔が似合ってるよ〜。」
「失礼な!」
姉さんは、壁時計を見た。十一時半だった。福之助は突然、思い出したように泣き出した。今度は大きな声で。
「わ〜〜〜ん!おえおえおえ!」
「どうしたんだよ、福之助!?」
「どうしたの、福ちゃん?」
「ありがとうございます、姉さん!」
「うん?腕のことか?」
「はい。それと…」
「それと、何だよ?」
「それと、わたしの敵討ちだなんて!」
「そんなこと言ったっけ?」
「言いました!わたしは感激しました!そこまで、わたしのことを思っていてくれたんですね!」
「…つい、カァ〜〜っとなったんだよ。」
福之助は、また大きな声で泣き出した。
「わ〜〜〜ん!おえおえおえ!」
アニーが慰めた。
「ほんとうに、福ちゃんのことを心配してるのよ。」
「わたしは大丈夫です。機械ですから。あの人は心の病気だったのかも知れません。だから怒らないでください。」
「…そうだな。心の病気だったのかもな。」
「病気を憎んで、人を憎んではいけません。」
「お〜〜〜、お前、偉いこと言うじゃん!」
「そうですか?」
「頭でも打ったか?」
「失礼な!」
姉さんとアニーは、顔を見合えあせて笑った。
姉さんは言った。
「下界は変な人間が増えてきましたねえ〜。」
「人口が多い都会に多いんです。」
「そうなんですか?」
「生物は多すぎると、減らそうとして共食いを始めるそうです。生物の本能なんです。」
「そうなんですか。」
「人間は、共食いじゃなくって、病気になって自殺するのかも知れません。そういうことを唱えてる学者がいるんです。」
「そうかも知れませんねえ。」
「人口は、加速度的に増えています。その分、炭酸ガスも増え、森林は減っています。」
「じゃあ、いい人間だけを残さないといけませんねえ。」
「難しいけど、そうですねえ。今、国連では、世界一人っ子計画を検討しています。」
「そうなんですか。間に合うといいんですけど。」
「炭酸ガスによる地球温暖化ですか?」
「はい。コーラの炭酸ガスはけっこうですけど、地球温暖化の炭酸ガスは真っ平です。」
「はい、その通りです。」
福之助は元気になって動き出した。
「今から、おいしいオカズをつくります!」
その言葉に、姉さんは敏感に反応した。
「おいしいオカズって、何だい!?」
「知りたいですか?」
「あ〜〜、大いに知りたいよ!」
「今、炭酸ガス入りの冷たい緑茶を持ってきますので、椅子に座ってお待ちください。」
「なんだって!?炭酸ガス入りの冷たい緑茶?」
「そうです。」
「え〜〜〜〜〜!?」
アニーも驚いた。
「何、それ?」
福之助は、すぐに持って来た。コップに注いであった。
「どうぞ!」
緑色の緑茶が泡を立てていた。姉さんは黙って飲み始めた。
「大人好みの味でもないし、子供好みの味でもなしし、妙な味だねえ。」
「ほんと、思ったよりも、緑茶っぽくはなくって、初めて経験する味だわ。」
「そうでしょう!」
「なんというか、宇宙人が好みそうな味だな。」
「そういえば、そうですね。」
「そうですか〜〜!」
福之助は、いたく喜んでいた。
「なんだ、あれ!?」
姉さんは、ログハウスの立ち並ぶ側の窓の外を見ていた。
「棺桶の連中、変な踊りをやってるわ!」
アニーも見た。
「何なんでしょう?」
「まるで、宇宙人の踊りみたいだなあ〜。」
「そんなの見たことあるんですか?」
「はい、夢の中で。」




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