福之助は、しくしくと泣いていた。 「左腕が動かないんです〜〜!」 姉さんは、福之助の左腕を触った。 「どうしたんだよ?」 アニーも心配そうに尋ねた。 「どうしたの〜?」 「栗御飯を仕込んで、まだかな〜と思って、外に出て見てたら、男の人が変なことを尋ねてきたので、答えたら、急に怒り出して両手で突き飛ばされたんです。倒れたら、左腕がおかしくなっちゃったんです。」 「変なことって、何を尋ねてきたたんだよ?」 「わたしの行き場所を教えてください?って言うので、そんなことは知りません、一人前の人間だったら、自分で考えてください。って答えたら、ロボットのくせに生意気で不親切だな〜!と言って、突然に突き飛ばされたんです。」 「なんだってぇ〜!?で、その男は?」 「逃げて行きました。」 「逃げて行った〜、どこに!?」 「大踊りの方向でした。」 アニーが思い出したように尋ねた。 「白いシャツを着た中年の人だったでしょう?」 「はい。」 「葛城さん、舞姫公園であった人じゃない?ほら、変なこと言ってた変な人。」 「あ〜〜、そうだそうだ。同じようなことを言ってましたねえ。」 「きっと、あの変な男ですよ。」 「どうなってるんだ?いきなりかよ?」 「はい。」福之助は、まだ腕を押さえていた。 「ぜんぜん動かないののかよ?」 「はい。」 「気が狂ってるのかなあ?」 「最近の、切れる大人っていうんじゃない?ほら、よく駅員が殴られるっていう。」 「切れる大人?」 「最近多いんですってよ。」 「おっかない世の中になったな〜。」 「福ちゃん、ちょっと立ってみて。立てる?」 「はい。」 福之助は、ゆっくりと左手をかばいながら立ち上がった。 「椅子に座ってみてくれない?」 「はい。」 福之助は近くの椅子に座った。アニーは福之助の背後に回った。 「ぜんぜん、動かないの?」 「肘までは動くんです。肘から下が動かないんです。」 「…肘のジョイントかなあ?」 姉さんがアニーに尋ねた。 「ロボットに詳しいんですか?」 「いや、まったく詳しくはありません。」 「まったく、ひどい人間だなあ〜。かよわい、やっと動いてるロボットをこんなめにあわせて!」 福之助は怒った。 「やっと動いてるって、何ですか!」 アニーは、冷静に福之助のボディを見ていた。 「おかしいわねえ、左腕が少し曲がっているよ。」 「えっ?」 姉さんも背後から確認した。 「ほんとだ!」 福之助も同様な返事をした。 「そういえば、肘が外側に曲がっていますねえ…」 姉さんは、腕を組んだ。 「人間の脱臼だったらなあ〜、なんとか治せるんだけどな〜。」 アニーはびっくりした。 「そういうこと、できるんですか?」 「柔術の練習中に、よく外れるんですよ。」 「え〜〜、そうなの。怖〜〜い!」 「ひょっとすると、ロボットも治るかな?福之助!床に足を出して座ってみろ!」 「はい。」 福之助は、おとなしく座った。姉さんは、福之助の左側に行き、福之輔の左腕を、膝を曲げた中に入れて腰を落とした。両手で、福之助の手首を持った。 「行くぞ!」 「はい!」 姉さんは、「キェ〜〜〜イ!」と言って、福之助の左腕を引いた。ゴキッっと音がした。 「入ったかな?」 姉さんは立ち上がった。 「福之助、立って動かしてみろ。ゆっくりとな。」 「はい。」 福之助は、立って、ゆっくりと動かそうとした。 「駄目です。動きません。」 「やっぱり、駄目か…」 姉さんは、怒りが込み上げてきた。 「お前の敵(かたき)はとってやる!大通りに行ったんだな?」 「はい。」 姉さんは、ドアに向かった。アニーは尋ねた。 「どこに行くんですか?」 「敵討ちです。とっ捕まえて、同じ目にあわせてやります!」 「えっ!?」 福之助が叫んだ。 「姉さん!動きました!」 姉さんは振り返った。
|
|