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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第111回   どうした〜、福之助!?
きょん姉さんは、ログハウスを見ていた。
「福之助、大丈夫かなあ〜、ちゃんと料理できてるかな〜。」
「電話では張り切っていましたよ。」
「張り切ってるときが、一番危ないんですよ。」
「何を作ってるんでしょうね?」
「福之助が得意なのは、まぜ御飯とチャーハン。」
真由美ちゃんの家の前に、小型の電動ワゴン車が止まっていた。
姉さんは、何だろうと思って見ていた。
「宅配の車かしら?」
「高野町の給食配達車です。」
「給食配給車。そういうのがあるんですか?」
「はい、買い物や食事に困ってる家庭に、高野町役場が届けているんです。」
「無料でですか?」
「家庭の経済状態によって、支払うようになっています。収入のないところは無料です。」
「いいですねえ。」
「高野山は、少子化対策として、介護対策として、町全体で援助しているんです。」
「なるほど…」
「みんなは一人の為に、一人はみんなの為にってやつですね。」
「そうですね。」
「大変いいことだと思います。」
「みんな平均生活なんです。だから、極端に富んでいる人も、貧しい人もいないんです。」
「みんな、適欲なんですね。」
適欲の言葉に、アニーは微笑んで答えた。
「はい!」
「とっても、人間らしくていいことだわ。」
「そうですね。」
「差別は憎しみを生むわ。」
「そうですね。」
「今の世の中、地球環境も狂ってますけど、人間も社会も狂ってます。」
「そうですね。」
「何が悪いんでしょう?」
「アメリカの行き過ぎた個人主義が、人間の心を狂わせ、社会を狂わせているかも知れません。」
「アメリカにいるアニーさんが、そんなことを思っているんですか?」
「アメリカにいると、余計に感じるんですよ。そして、ここに来ると特に。」
「わたしは、結局は個人の問題だと思うんですけど。」
「そうですかねえ〜?」
「個人個人が適欲でしっかりしていれば、社会だって変えられるし、地球環境だって変えられます。」
「そうですかねえ〜?」
「お腹も空いてるし、難しい話しは後でしましょう。」
「そうしましょう。食事前で血糖値が下がっていますから。」
姉さんは、ログハウスまでもう少しのところで急に立ち止まった。
「どうしたんですか?」
「アニーさん、ちょっと覗いてみましょう。今何やってるか?」
「それは面白いですね。」
二人は、好奇心旺盛の意地悪なハートの妖精になっていた。静かに、ログハウスに近寄って行った。姉さんは手招きをした。ハイテク案山子の置いてあるほうに廻った。二人は、童話の魔法使いの老婆のように、そおっと窓から覗いた。いったい何をしてるのかな…
「あれっ、いない。」
アニーは小さな声で答えた。
「葛城さん、あそこにいるわ。」
福之助は、壁にもたれて何やら必死になって、左腕を右手でいたわるように動かしていた。
「どうしたんだろう?」
「左腕が変ですよ。」
「そうですね。」
「葛城さん、行きましょう!」
二人は慌ててログハウスのなかに鍵を開けて入って行った。姉さんは怒鳴った。
「福之助、どうした〜〜!?」
福之助は、しくしくと泣き出した。
「どうした〜、福之助!?」
「どうしたの、福ちゃん?」


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