きょん姉さんは、ログハウスを見ていた。 「福之助、大丈夫かなあ〜、ちゃんと料理できてるかな〜。」 「電話では張り切っていましたよ。」 「張り切ってるときが、一番危ないんですよ。」 「何を作ってるんでしょうね?」 「福之助が得意なのは、まぜ御飯とチャーハン。」 真由美ちゃんの家の前に、小型の電動ワゴン車が止まっていた。 姉さんは、何だろうと思って見ていた。 「宅配の車かしら?」 「高野町の給食配達車です。」 「給食配給車。そういうのがあるんですか?」 「はい、買い物や食事に困ってる家庭に、高野町役場が届けているんです。」 「無料でですか?」 「家庭の経済状態によって、支払うようになっています。収入のないところは無料です。」 「いいですねえ。」 「高野山は、少子化対策として、介護対策として、町全体で援助しているんです。」 「なるほど…」 「みんなは一人の為に、一人はみんなの為にってやつですね。」 「そうですね。」 「大変いいことだと思います。」 「みんな平均生活なんです。だから、極端に富んでいる人も、貧しい人もいないんです。」 「みんな、適欲なんですね。」 適欲の言葉に、アニーは微笑んで答えた。 「はい!」 「とっても、人間らしくていいことだわ。」 「そうですね。」 「差別は憎しみを生むわ。」 「そうですね。」 「今の世の中、地球環境も狂ってますけど、人間も社会も狂ってます。」 「そうですね。」 「何が悪いんでしょう?」 「アメリカの行き過ぎた個人主義が、人間の心を狂わせ、社会を狂わせているかも知れません。」 「アメリカにいるアニーさんが、そんなことを思っているんですか?」 「アメリカにいると、余計に感じるんですよ。そして、ここに来ると特に。」 「わたしは、結局は個人の問題だと思うんですけど。」 「そうですかねえ〜?」 「個人個人が適欲でしっかりしていれば、社会だって変えられるし、地球環境だって変えられます。」 「そうですかねえ〜?」 「お腹も空いてるし、難しい話しは後でしましょう。」 「そうしましょう。食事前で血糖値が下がっていますから。」 姉さんは、ログハウスまでもう少しのところで急に立ち止まった。 「どうしたんですか?」 「アニーさん、ちょっと覗いてみましょう。今何やってるか?」 「それは面白いですね。」 二人は、好奇心旺盛の意地悪なハートの妖精になっていた。静かに、ログハウスに近寄って行った。姉さんは手招きをした。ハイテク案山子の置いてあるほうに廻った。二人は、童話の魔法使いの老婆のように、そおっと窓から覗いた。いったい何をしてるのかな… 「あれっ、いない。」 アニーは小さな声で答えた。 「葛城さん、あそこにいるわ。」 福之助は、壁にもたれて何やら必死になって、左腕を右手でいたわるように動かしていた。 「どうしたんだろう?」 「左腕が変ですよ。」 「そうですね。」 「葛城さん、行きましょう!」 二人は慌ててログハウスのなかに鍵を開けて入って行った。姉さんは怒鳴った。 「福之助、どうした〜〜!?」 福之助は、しくしくと泣き出した。 「どうした〜、福之助!?」 「どうしたの、福ちゃん?」
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