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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第109回   レディ・バグ
「あっ、レディ・バグが止まっているわ!」
「レディ・バグ?」
アニーは、姉さんの右肩を優しく、ポンポンと右手の指先で叩いた。
「飛んでいったわ。」
「レディ・バグって何ですか?」
「天道虫(てんとうむし)。西洋では、幸せを運んでくる虫なんです。」
「えっ、そうなんですか?」
「きっと、葛城さんに幸せを運んで来たんだわ。」
「わ〜〜、嬉しい!どうして、レディなんですか?」
「レディは、聖母マリア様を意味しているんです。だから、殺してはいけない虫なんです。」
「そうなんですか。」
奥の院の参道を出たところに、大きな高野槙の木があった。姉さんは、思わず見上げた。
「うわ〜〜〜、この木いいわ〜〜!」
「高野槙(こうやまき)です。高野山の神木です。何がいいんですか?」
「強そうで、背が高くって大きくって!」
「日本固有の木で、世界三大造園木の一つで、貴重な木なんです。水に強くて腐りにくい木なんです。昔は、船とか橋とかに使っていたんです。」
「これ売ってるんですか?」
「売ってるって、木全体ですか?」
「はい。」
「小さな苗木は売ってると思いますが、どうするんですか?」
「家の周りに植えるんです。そしたら木陰になって涼しくなるんじゃないかと思って。」
「涼しくなるとは思いますけど、家よりも高くなるには、そうとうに年月が掛かりますよ。」
「あ〜〜、そうですか。どのくらい?」
「少なくとも、百年以上は。」
「百年以上〜!じゃあ、日本も地球も、そして私も終わっていますね〜。」
「そういうことになりますね。」
「な〜〜んだ、がっかり!」
「それに、高野槙は暑さには弱いんですよ。きっと下界の暑さでは育ちません。」
「そうですか〜〜。ってことは、やっぱり高野山暮らしになっちゃうのかな〜〜。」
「ほんとうに引っ越しを考えているんですか?」
「はい。」
一の橋の前の、大通りに向かう道を、紋次郎が駆けていた。
「あっ、紋次郎だわ!」
紋次郎の後から、男が追いかけていた。
「何だろう?」
アニーが促した。
「とにかく早く帰りましょう。」
「そうですね。」
二人は、ログハウスに向かって、早足で歩き出した。



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