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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第105回   馬鹿は自分に甘い!
「いいか紋次郎、よく聞けよ。」
「はい。」
「人間ってのはなあ、親は子を思い、子は親を思って、そして社会のことも考えながら生きているの。一人で生きているのではないの。」
「はい。」
「おまえの質問はな、理屈なんだよ。人間は理屈で生きているんじゃないの。」
「はい。」
「お互いに思いやりながら生きているんだよ。人間は一人では生きられないだよ。」
「はい。」
「人間は自分のためではなくって、子や兄弟や親のため、周りの人のために生きているんだよ。それが、さっきの、人間は何のために生きているのか?の答えだ。」
「自分のためにではないんですか?」
「そういうことだ。人間は自分のためにだけ生きてたらなあ、誰にも相手にされなくなって、孤立して虚しくなって心の病気になって、自分から滅んでしまう。そういう動物なんだよ。」
「先生!」
「なんだい、いきなり先生なんて?」
「分かりました!今やっと悟りました!ありがとうございます!」
「オーバーなやつだな〜。」
「ありがとうございます!」
「それになあ、人間は自分に甘いと、他人に馬鹿にされて、子供扱いされて必ず滅びる。」
「自分に甘いと、子供扱いされるんですか?」
「自分に甘いのは、子供の証拠だよ。馬鹿の証拠。」
「先生!」
「なんだなんだ?」
「心を教えてください!」
「心…」
「はい!」
「心とは、思いやりから生まれる。だから、思いやりのことだな。」
「思いやりが、心なんですね!」
「そういうこと!」
「はい、分かりました!大先生!」
「今度は、大先生かよ。」
紋次郎は、熊さんを尊敬の眼差しで見ていた。
「保土ヶ谷さんは、高野山に来てから、酒も煙草もやらなくなった。なぜだと思う?」
「どうしてですか?」
「もし自分に何かあったら、みんなが路頭に迷うからだよ。思いやりからだよ。」
「自分を大切にすることが、みんなに対する思いやりなんですね。」
「そういうことだな。」
「いろいろと教えていただいて、ありがとうございます!」
紋次郎は、深く頭を下げて、お辞儀をした。
「もういいのかよ?」
「はい!」
熊さんは、今から張る金網を見ていた。
「あっ、困ったな〜。」
「どうしたんですか?」
「金網が足んねえや。」
「どのくらいですか?」
「畳二枚分くらいかな〜。」
「大先生、わたしがコンビニに行って買って来ます!」
「コンビニには、そんな物は売ってないよ。」
「どこに売ってるんですか?」
「マツヤマ金物屋って、知ってる?」
「知りません。どこにあるんですか?」
「石田医院の傍(そば)だよ。分かるかな?」
「あっ、石田医院なら知ってます!じゃあ行ってきます!」
紋次郎は行こうとした。
「おいおいおい!」熊さんは慌てて止めた。
「お金!」
「あっ、そうですね。」
熊さんは、財布から一万円札を抜いて渡した。紋次郎は受け取ると、口に入れた。熊さんは驚いた。
「何だよ、口なんかに入れて?」
「ここが財布なんです。」
「変な財布だなあ。」
「すみません。」
「鳥小屋に使う二十番の亀甲金網っていうやつだからな。」
「鳥小屋に使う二十番の亀甲金網。記憶しました!」
「ちゃんと、領収書をもらってこいよ。」
「分かりました。じゃあ行ってきます!」
紋次郎は出発した。
集会所の外で、事務のサキちゃんが窓ガラスを拭いていた。紋次郎に気が付いた。
「紋ちゃ〜〜ん!どこに行くの〜?」
「大先生に頼まれて、金網を買いに行きま〜す!」
「大先生?」
サキちゃんは、首をひねった。質問しようとしたが、紋次郎の足は速かった。さっさと行ってしまった。
「大先生って、誰だろう?」



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