龍次の携帯無線機が鳴った。 「なに?」 … 「じゃあ、御社(みやしろ)の前に届けてくれる。」 龍次は、無線機を切った。 ショーケンが尋ねた。 「なに?」 「弁当、どこに届けたらいいかって。」 「あっ、そうか。今日から、みんなに直接に食堂から届けるんだ。」 「そうです。」 アキラは、ちゃんと聞いていた。 「じゃあ俺が取りに行ってくるよ。どこまで持ってくるの?」 「御社(みやしろ)の前です。」 「御社(みやしろ)って、どこ?」 「あそこです。赤い鳥居のあるところです。」 「赤い鳥居…あっ、あれ!」 「そうです。」 御社(みやしろ)は、百メートルほど離れたところにあった。 「じゃあ、ここにいれば分かるね。」 「そうですね。」 ショーケンが尋ねた。 「鳥居って、あれ神社なの?」 「はい、そうです。」 「高野山にも、神社があったの?」 「丹生(にう)明神、高野(たかの)明神、高野山の真言密教の守り神です。」 「ってことは、お寺よりも古いってこと?」 「そういうことですね。」 「へ〜〜、凄いなあ〜。」 アキラが皆を呼んだ。 「お〜〜〜い!あっちに行くぞ〜!」 みんなはやってきた。 「龍次さん、ちょうど今行こうと思ってたんですよ。」 「あっ、そう。それは良かった。」 みんなは、御社(みやしろ)に向かって歩き出した。 龍次が、鳥居の前で立ち止まると、みんなは、そこから仕事を始めた。五十嵐礼子も一緒に動き出した。 「わたしもやります!」 龍次が「がんばって!」と言って励ました。 アキラが龍次に質問した。 「ここに来るの?」 「はい。食堂のみっちゃんが、電動自動車で持ってきます。」 「へ〜〜え、電動自動車?うちにそんなのあったの?」 「ありましたよ。調子が悪かったんで、修理に出してたんですよ。」 「あ〜、そうなの。」 「遅いなあ…」 ショーケンは竹箒を持っていた。龍次は、その姿を、まじまじと見ていた。 「ショーケンさん、悪いね。ロック界のカリスマを。」 「ただのクローンですから。ここには誰が祭られているんですか?。」 「丹生(にう)明神と高野(たかの)明神です。左側が丹生(にう)明神で、正式な名を、丹生都比売大神(にうつひめのおおかみ)と言います。天照大神(あまてらすおおみかみ)の妹です。」 「天照大神(あまてらすおおみかみ)の妹!」 「中央は、高野(たかの)明神または狩場明神(かりばみょうじん) と言って、丹生明神の子供です。」 「天照大神(あまてらすおおみかみ)の妹と、その子供!それにしても、なんだか最近できたみたいで綺麗だな〜。」 「国の重要文化財で、二十一年ごとに屋根替と修理が行われているんです。」 「あ〜、そうなんだ〜。ここの神様は何の神様なんですか?」 「レアアースの神様です。」 「レアアース?」 「レアメタルとも言いますね。貴重金属のことです。」 「貴重金属?」 「昔は、水銀が貴重で、丹生(にう)明神は水銀の神様だったんです。」 「水銀の神様?」 「金や銀は、水銀に溶けるんですよ。それを塗って熱で乾かすと、水銀だけが蒸発して、金や銀だけが残るんです。」 「メッキ!」 「そうです。古代のメッキ方法です。」 「そうやって、メッキしてたんだ〜〜!」
|
|