アキラは怒った。 「だらしねえな〜〜!なんだい、このホウキの置き方は!」 ホウキは、投げ捨てられたように、地面に置いてあった。 近くにいた男がやってきた。 「あっ、すみません!」 「人が踏むだろう〜!」 「すみません!」 男は、近くの木に立て掛けた。男は、ゴミ詰めの作業に戻った。 ショーケンは、アキラの隣にいた。 「お〜〜〜、怒ったね〜!」 「だらしないの、嫌いなの!」 ショーケンは、アキラが几帳面なのを知っていた。 「ああいうの放っておくと駄目なの。一事が万事って言うでしょう。」 「そういうこと。さっすが!」 彼らは、高さ四十八メートル強の根本大塔の近くにいた。龍次が、五十嵐礼子と一緒にやってきた。 「遠くから見てましたよ。何かあったんですか?」 アキラが答えた。 「大事な仕事道具のホウキを人の通る地面に置いてあったもんでね。叱ったんですよ。」 アキラは分かれた組の、五人の臨時責任者だった。 「ああ、そうだったんですか。森君は?」 「あっち。」 アキラは指差した。 「みんな、アキラさんのこと褒めてましたよ。」 「えっ?」 「器用で、仕事が速いって。」 「そうかなあ?」 ショーケンが、無表情に言った。 「アキラは器用だよ。それに、だらしねえのは大嫌いだもんな。」 「まあね。」 龍次が尋ねた。 「潔癖症なんですね?」 「潔癖症ってほどではないけど。だらしないのは嫌いだね。」 「やっぱり、潔癖症なんですよ。」 「うちの親父が、だらしなかったから、その反動かな?はっは!」 「自分なりに悟るなんて、偉いです!」 「別に偉くは無いよ。人間として当たり前のことだよ。」 「偉いことですよ。」 「だらしないと、他人(ひと)に迷惑をかけるでしょう。」 「そういうことが分からない人が、最近は多いんですよ。」 「そうなの〜?」 「そうなんですよ。自分の権利ばっかり主張してね。」 「口先ばっかりって奴ね。あ〜〜、そういうの最低!」 「アキラさんは、真面目なんですね〜。酔っ払いとか嫌いでしょう?」 「あ〜〜、大っ嫌い!親父が、そうだったから!」 「そうだったんですか?」 「酔っ払って、だらしなくって、大嫌いだったよ。」 「実は、日本人だけなんですよ。」 「えっ?」 「ああやって、よたよたと酔っ払いが、公共の道を歩くのは。」 「そうなの〜?」 「外国じゃあ、だらしない行為なんです。恥ずかしい行為なんです。」 「そうなんだ。」 「それに、外国であんなことしたら、強盗にあいます。」 「そうだろうね。」 「日本人は、島国で安全でしたから、甘えているんですよ、安全な社会に。外国は、そうはいきません。国はつながっているし、多人種多言語の人々が、競い合って生活していますから、油断すると襲われます。」 「そうだよね〜〜。」 「だらしなかったら、すぐに襲われます。」 「そうだよね〜。」 アキラの目が鋭く光った。 「だらしない奴らは、親父狩りにでも遇えばいいんだ!」 「そうですね。」 龍次の、意外な返答に、アキラは思わずにやっと笑った。 「あれ〜〜〜、龍次さん、親父狩りの味方なの?」 「味方ってことじゃないけど、少しは薬になるんじゃないかな?」 「おっもしれ〜〜〜!龍次さんみたいなこと言う大人は、なっかなかいないよ!」 「そうかなあ?」 「さっすが、カリスマの龍次さん!おっもしれ〜〜!」 「そっお?」 「そんなアラ還、なっかなかいないよ〜!」 「嵐寛(あらかん)?なんで僕が、嵐寛壽郎(あらし かんじゅうろう)なの?」 「あらし かんじゅうろう?おっもしれ〜〜!」
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