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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第102回   炭酸ガスを撒き散らせ〜!
「う〜〜〜ん、とってもグッドだわ。」
「えっ?」
「最初は爽やかに甘く、後で少し辛く感じるの。」
「そうなんですか〜。」
「そっちは、どう?」
「とってもとっても、高野山らしい味で、いいですよ〜。お茶も、さっぱりしていて、とってもいいです。」
「そうですか。」
「わたし、高級なものは、あまり好きじゃないんです。なんだか余計な味がして。」
「余計な味?」
「その分、余計な味の分、貧しい国の子供たちの顔が浮かんで来るんです。」
「…」
「食べるのが辛くなってくるんです。」
アニーは、少し目頭が熱くなった。
「なるほどね〜。」
「変ですか?」
「とんでもない!」
姉さんは、リーズナブルなものを美味しそうに食べていた。
「葛城さんって、とっても心が豊かなんですね。」
「紅流の教えなんです。」
「すばらしい教えだわ。」
「幸せは、身近なところにあるんです。」
「悟りは常に脚下にあり!」
「はい!」
二人は、二の橋の交差点の見える窓際の席で食べていた。
大門の方から、十台の暴走族らしいガソリン自動車が、交通ルールを守って、ゆっくりと走ってやってきて、二の橋交差点の信号で止まった。十台の自動車は、わざわざエンジン爆音の電子音を鳴らしていた。先頭の自動車には御旗がなびいていた。

 迷惑こそ我らが快感! メリーゴーランド!

「あっ、アニーさん、メリーゴーランドだわ!」
「わざと、擬似爆音を鳴らしているわ。」
「この前のメリーゴーランドかしら?」
「そうかも知れませんねえ。」
「わざと、エンジンをふかしているわ。」
「迷惑こそ我らが快感ってやつかしら?」
「そうなんでしょうね。」
「保土ヶ谷龍次の地球環境主権論でも見せてあげたいわ。」
「そんなのは読まないでしょう。」
「そうですね。でも、インテリっぽい顔をしてましたよ。」
「そうですか?」
「落とした詩の内容も繊細だったし。」
「そうですか?」
先頭車に乗って運転していたのは、この前のメリーゴーランドだった。彼はハンディ無線機を持って怒鳴っていた。
「ふかせ、ふかせ〜!炭酸ガスを撒き散らせ〜!」
ダッシュボードには、保土ヶ谷龍次の、地球環境主権論の本が載っていた。
信号が青になった。彼らは、タイヤを鳴らし、物凄い勢いで龍神スカイラインに向かって走り出した。
姉さんは、タイヤを見ていた。
「あ〜〜〜あ、もったいない!」
アニーは、冷静に彼らを見ていた。
「ただ暴走して遊んでいるんじゃなくって、それ以上の何かを感じるの…」
「はっ?」
「メリーゴーランド…、彼の目は虚しく悲しい目をしていたわ。」
「理由なき反抗のジェームス・ディーンのようなですか?」
「そう、それ!」
「そうかなあ〜。た〜だ、だらしないだけですよ。」
「だらしない?」
「紅流では、ああいう横着な人間は、自分に対してだらしない!と言います。」
「横着な人間?自分に対してだらしない。ですか…」
「そうです!まったく、だらしない!自分をコントロールできない人間を、だらしない人間と言います!」


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