「う〜〜〜ん、とってもグッドだわ。」 「えっ?」 「最初は爽やかに甘く、後で少し辛く感じるの。」 「そうなんですか〜。」 「そっちは、どう?」 「とってもとっても、高野山らしい味で、いいですよ〜。お茶も、さっぱりしていて、とってもいいです。」 「そうですか。」 「わたし、高級なものは、あまり好きじゃないんです。なんだか余計な味がして。」 「余計な味?」 「その分、余計な味の分、貧しい国の子供たちの顔が浮かんで来るんです。」 「…」 「食べるのが辛くなってくるんです。」 アニーは、少し目頭が熱くなった。 「なるほどね〜。」 「変ですか?」 「とんでもない!」 姉さんは、リーズナブルなものを美味しそうに食べていた。 「葛城さんって、とっても心が豊かなんですね。」 「紅流の教えなんです。」 「すばらしい教えだわ。」 「幸せは、身近なところにあるんです。」 「悟りは常に脚下にあり!」 「はい!」 二人は、二の橋の交差点の見える窓際の席で食べていた。 大門の方から、十台の暴走族らしいガソリン自動車が、交通ルールを守って、ゆっくりと走ってやってきて、二の橋交差点の信号で止まった。十台の自動車は、わざわざエンジン爆音の電子音を鳴らしていた。先頭の自動車には御旗がなびいていた。
迷惑こそ我らが快感! メリーゴーランド!
「あっ、アニーさん、メリーゴーランドだわ!」 「わざと、擬似爆音を鳴らしているわ。」 「この前のメリーゴーランドかしら?」 「そうかも知れませんねえ。」 「わざと、エンジンをふかしているわ。」 「迷惑こそ我らが快感ってやつかしら?」 「そうなんでしょうね。」 「保土ヶ谷龍次の地球環境主権論でも見せてあげたいわ。」 「そんなのは読まないでしょう。」 「そうですね。でも、インテリっぽい顔をしてましたよ。」 「そうですか?」 「落とした詩の内容も繊細だったし。」 「そうですか?」 先頭車に乗って運転していたのは、この前のメリーゴーランドだった。彼はハンディ無線機を持って怒鳴っていた。 「ふかせ、ふかせ〜!炭酸ガスを撒き散らせ〜!」 ダッシュボードには、保土ヶ谷龍次の、地球環境主権論の本が載っていた。 信号が青になった。彼らは、タイヤを鳴らし、物凄い勢いで龍神スカイラインに向かって走り出した。 姉さんは、タイヤを見ていた。 「あ〜〜〜あ、もったいない!」 アニーは、冷静に彼らを見ていた。 「ただ暴走して遊んでいるんじゃなくって、それ以上の何かを感じるの…」 「はっ?」 「メリーゴーランド…、彼の目は虚しく悲しい目をしていたわ。」 「理由なき反抗のジェームス・ディーンのようなですか?」 「そう、それ!」 「そうかなあ〜。た〜だ、だらしないだけですよ。」 「だらしない?」 「紅流では、ああいう横着な人間は、自分に対してだらしない!と言います。」 「横着な人間?自分に対してだらしない。ですか…」 「そうです!まったく、だらしない!自分をコントロールできない人間を、だらしない人間と言います!」
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