「その、英知の人って、どのような人なんですかねえ?」 「さっきの話しですか?」 「はい。」 「そうですねえ、おそらく…」 「おそらく…」 「おそらく、たとえ生活苦でも、ロマンを追求している人でしょうねえ〜。」 「矢沢永吉みたいに?」 「ちょっと違うけど、そうかも知れない。」 「あの人、悪ぶってるけど、本心は真面目でロマンの人なんですよ。」 「悪ぶってる、そうですねえ。目を見れば分かります。」 「人間は、目を見れば分かりますよね。」 「はい、分かります。子供でも分かります。」 「子供でも?」 「子供の方が分かるのかな?子供はよく目を見るでしょう。」 「はい。」 「本能なんですよ。目を見て人の心が分かるんですよ。」 「そういえば、犬も人の目を見ますね。」 「そうです。動物の本能なんです。敵意のある人は、すぐに見破られます。」 「凄いですね、そういう直感って。」 「最近は、そういう直感のない人が多いんですよ。」 「空気の読めないっていう人ですか?」 「はい。おそらく、文明に毒されているんでしょうね、そういう人は。」 「どうすれば?」 「ネイチャーセラピーと言って、一年間ほど自然のなかで、動物たちと生活していると治る場合が多いみたいです。」 「ネイチャーセラピー?」 「動物は、心のない言葉は通用しませんから。」 「なるほど。」 「英知の人は、たとえどんなに生活苦でも、ロマンと真理を探求してるような人でしょうねえ。坂本龍馬のように。」 「坂本龍馬のように。」 「つまり、大きいんですよ、心が。きっと、そいう人は、生も死も一体なんです。いつでも、死を覚悟して生きているんですよ。」 「死を覚悟して生きている…」 「ネイチャーセラピー、高野山でもやってますよ。」 「え〜〜〜、高野山って、何でもやってるんですね〜。」 「はい。ここは、英知の人々の集まりですから。」 「じゃあ、ここにいるんですねえ、英知の人は。」 「そうですねえ。」 姉さんは、アニーに察しられないように、寂しそうに舞姫公園内のレストランを横目で見ていた。アニーは気付いていた。 「あそこで、ちょっと休憩しましょう!」 アニーは指差した。 「えっ!?」 「コーヒーブレーク!」 「コーヒーですか?」 「アメリカでは、コーヒーを飲まなくても、休憩はコーヒーブレークって言うんです。」 「あ〜〜、そうですか!いい言葉ですね〜〜!」 レストランの隣には、高さが五メートルほどの龍の作り物があった。 「わ〜〜、動いている!」 「風で静かに動くんです。」 「よく見ると、光っているわ!」 「風の力で発光してるんです。夜だと綺麗に見えますよ。」 「なんだか、ハイテクなオブジェだなあ〜。」 二人は、レストランに入って行った。姉さんは、子供のようにニコニコしていた。 入口には、高野山精進ランチの看板が掛かっていた。 アニーは素通りしたが、姉さんは立ち止まった。いつものように、食情報には立ち止まる姉さんであった。ヘルシーなだけでなく、心のなかからピュアになれるランチです。と書かれてあった。 「まさに、そういう感じだなあ…」 その横には、ごま豆腐スイーツというのが描かれてあった。 「ごま豆腐スイーツ…」 弘法大師の大日茶の写真があった。 「こっれか〜〜、弘法大師の大日茶って言うのは!」 「姉さんは、レストランの階段を駆け上がった。 「アニーさん、アニーさん!」 アニーは上がりきったところで、ガラス越しに蝋細工のレプリカで飾ってある料理やスイーツや飲み物を見ていたが、姉さんの声に振り向いた。 「どうしたんですか?」 「ありました、ありました!」 「何が?」 「弘法大師の大日茶です!ごま豆腐スイーツに合うと書いてありました!」 「そうですか。」 「わたし、それにします!いいですか!?」 「はい、いいですよ。」 「アニーさんは?」 「わたし、もう決めました。」 「わ〜〜〜、何だろう?」 「これです。」 アニーは指差した。姉さんは、子供のように無邪気な声で読み上げた。 「辛口スイーツ・閻魔大王!わ〜〜、何これ!?食べたことあるんですか?」 「いいえ、初めてです。」 未知なるものが大好きな両者であった。 アニーは、それ以上は何も言わずにレストランの中に入って行った。姉さんは、ニコニコしながら、子供のような足取りで入って行った。 高野山には、心を癒すフィトンチッドの空気が漂っていた。
|
|