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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第101回   未知なる味
「その、英知の人って、どのような人なんですかねえ?」
「さっきの話しですか?」
「はい。」
「そうですねえ、おそらく…」
「おそらく…」
「おそらく、たとえ生活苦でも、ロマンを追求している人でしょうねえ〜。」
「矢沢永吉みたいに?」
「ちょっと違うけど、そうかも知れない。」
「あの人、悪ぶってるけど、本心は真面目でロマンの人なんですよ。」
「悪ぶってる、そうですねえ。目を見れば分かります。」
「人間は、目を見れば分かりますよね。」
「はい、分かります。子供でも分かります。」
「子供でも?」
「子供の方が分かるのかな?子供はよく目を見るでしょう。」
「はい。」
「本能なんですよ。目を見て人の心が分かるんですよ。」
「そういえば、犬も人の目を見ますね。」
「そうです。動物の本能なんです。敵意のある人は、すぐに見破られます。」
「凄いですね、そういう直感って。」
「最近は、そういう直感のない人が多いんですよ。」
「空気の読めないっていう人ですか?」
「はい。おそらく、文明に毒されているんでしょうね、そういう人は。」
「どうすれば?」
「ネイチャーセラピーと言って、一年間ほど自然のなかで、動物たちと生活していると治る場合が多いみたいです。」
「ネイチャーセラピー?」
「動物は、心のない言葉は通用しませんから。」
「なるほど。」
「英知の人は、たとえどんなに生活苦でも、ロマンと真理を探求してるような人でしょうねえ。坂本龍馬のように。」
「坂本龍馬のように。」
「つまり、大きいんですよ、心が。きっと、そいう人は、生も死も一体なんです。いつでも、死を覚悟して生きているんですよ。」
「死を覚悟して生きている…」
「ネイチャーセラピー、高野山でもやってますよ。」
「え〜〜〜、高野山って、何でもやってるんですね〜。」
「はい。ここは、英知の人々の集まりですから。」
「じゃあ、ここにいるんですねえ、英知の人は。」
「そうですねえ。」
姉さんは、アニーに察しられないように、寂しそうに舞姫公園内のレストランを横目で見ていた。アニーは気付いていた。
「あそこで、ちょっと休憩しましょう!」
アニーは指差した。
「えっ!?」
「コーヒーブレーク!」
「コーヒーですか?」
「アメリカでは、コーヒーを飲まなくても、休憩はコーヒーブレークって言うんです。」
「あ〜〜、そうですか!いい言葉ですね〜〜!」
レストランの隣には、高さが五メートルほどの龍の作り物があった。
「わ〜〜、動いている!」
「風で静かに動くんです。」
「よく見ると、光っているわ!」
「風の力で発光してるんです。夜だと綺麗に見えますよ。」
「なんだか、ハイテクなオブジェだなあ〜。」
二人は、レストランに入って行った。姉さんは、子供のようにニコニコしていた。
入口には、高野山精進ランチの看板が掛かっていた。
アニーは素通りしたが、姉さんは立ち止まった。いつものように、食情報には立ち止まる姉さんであった。ヘルシーなだけでなく、心のなかからピュアになれるランチです。と書かれてあった。
「まさに、そういう感じだなあ…」
その横には、ごま豆腐スイーツというのが描かれてあった。
「ごま豆腐スイーツ…」
弘法大師の大日茶の写真があった。
「こっれか〜〜、弘法大師の大日茶って言うのは!」
「姉さんは、レストランの階段を駆け上がった。
「アニーさん、アニーさん!」
アニーは上がりきったところで、ガラス越しに蝋細工のレプリカで飾ってある料理やスイーツや飲み物を見ていたが、姉さんの声に振り向いた。
「どうしたんですか?」
「ありました、ありました!」
「何が?」
「弘法大師の大日茶です!ごま豆腐スイーツに合うと書いてありました!」
「そうですか。」
「わたし、それにします!いいですか!?」
「はい、いいですよ。」
「アニーさんは?」
「わたし、もう決めました。」
「わ〜〜〜、何だろう?」
「これです。」
アニーは指差した。姉さんは、子供のように無邪気な声で読み上げた。
「辛口スイーツ・閻魔大王!わ〜〜、何これ!?食べたことあるんですか?」
「いいえ、初めてです。」
未知なるものが大好きな両者であった。
アニーは、それ以上は何も言わずにレストランの中に入って行った。姉さんは、ニコニコしながら、子供のような足取りで入って行った。
高野山には、心を癒すフィトンチッドの空気が漂っていた。



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