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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第10回   花・太陽・雨
龍次は、手をポンと叩いた。
「よし、決まった!」
みんなに尋ねた。
「確か、余ってるドームハウス、あったよね?」
隼人が答えた。
「一軒、有ります。」
「綺麗だよね?掃除してあるよね?」
「綺麗です。ちゃんと掃除してあります。」
「じゃあ、そうだなあ、ヨコタンに頼もう、二人を連れてってくれる?」
「はい、分かりました。」
「あっ、そうだ。肝心の名前を聞いてなかった。」
龍次は、母親に尋ねた。
「名前は、何て言うんですか?」
母親は、謝るように答えた。
「わたしたち、籍に入れてなかったものですから、五十嵐礼子です。この子は、正男です。」
「分かりました。じゃあ頼む、ヨコタン!」
「はい!」
龍次は、母親に告げた。
「じゃあ、五十嵐さん。彼女に、ついて行ってください。」
「はい!」
ヨコタンは、正男に「さあ、行こう!」と言って、手招きした。
「どこに行くの?」
「お家よ。」
「わ〜〜〜、今日は、お家で寝れるんだ!」
「そうよ。」
「良かった〜〜ぁ!」
「昨日は、どこで寝たの?」
「電車の中。」
ヨコタンは、二人を連れて出て行こうとした。
「あっ、そうだ、龍次さん!」
龍次は、びっくりした。
「なんだね?」
「もう一人、いるんですよ。」
「えっ?」
「リストラされて、ここに来られてる方が。」
「どこに?」
「集会室に座ってる方です。」
「あ〜〜〜、あの方!」
「よろしくおねがいします。」
「分かった!」
ヨコタンは、集会所から、母と子を連れて出て行った。そして、直ぐに戻って来た。
「龍次さん、雨だわ!」
龍次は振り向いた。
「雨?」
「大しては降ってはいないけど。」
「天気予報では、降らないって言ってたけどなあ。」
「ポンポコリン、傘を三本ちょうだい。」
ポンポコリンは、急いで傘を三本持ってきた。
「子供用の傘、無かったっけ?」
「そんなのないわ。でも、この小さいのだったらさせるんじゃないかしら?」
「そうねえ。」
ヨコタンは、傘をもらうと急いで出て行った。
母と子は、雨を見ながら、入口の軒先で待っていた。
「はい、傘!」
母親は、「ありがとうございます!」と言って、受け取った。正男も、母親を真似するように、「ありがとうございます!」と言って、受け取った。
「さあ、行きましょう!」
三人は歩き出した。小雨だった。
「あの忍者のおじさん、大丈夫かなあ?」
「えっ?」
「さっきのおじさん。」
「あ〜〜、修験道のおじさんね。あのおじさんは強いから、このくらいの雨は大丈夫よ。」
「そうだねえ〜。」
今まで、お日様が当たっていたところに、雨が降っていた。コスモスの花が、風に揺れ雨に濡れていた。小鳥たちが、雨だ雨だと囀(さえず)っていた。
「母ちゃん、帰らなくってよかったねえ。」
「ごめんよ、正男!」母は泣いてるようだった。
「母ちゃん、もう泣かないほうがいいよ。」
「そうだね、正男。」
「僕が、母ちゃんを守ってあげるよ!」
母は、声には出さずに泣いていた。
ヨコタンが、正男の頭を撫でた。
「正男くんは、やっぱり男の子だなあ〜!」
「僕も、忍者のおじさんみたいに、強くなるんだ〜!」
ヨコタンの脳裏に、なぜか、大好きなPYG(ピッグ)の曲、花・太陽・雨が流れていた。

 よろこびの時 笑えない人
 色のない花 この世界
 春の訪れのない 私のこの青春に問いかける

 憎しみだけの 逆さまの愛
 水のない雨 閉ざされた
 暗やみの中での 私のこの青春に呼びかける

 この白い光 あたたかい風と
 ささやかな愛に つつまれた
 あしたを 迎えに

 悲しみの日を よろこびの日に
 太陽もある その世界
 春の花のように 私のこの青春が 目をさます

 あなたの花 あなたの太陽
 あなたの雨 あなたの愛
 花・太陽・雨 花・太陽・雨 花・太陽・雨

『花・太陽・雨』 by PYG
作詞:岸部修三 作曲:井上堯之


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