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作品名:シュールミント 作者:毬藻

第96回   ぺタル
「急げ、急げ!急がないと人生は、あっという間に何もしないで棺桶行きだわ!」
一平がスミレちゃんに言った。
「あっ、また死神がいるよ!」
いちょうの木に隠れて、死神が棺桶に座って、こっちに手を振っていた。
「手を振っちゃあ駄目!」
「分かってるよ。」
「見ちゃ駄目よ!」
「分かってるよ。」
死神は、大きな鎌を持っていた。
「自殺する人を待っているんだわ。」
「恐ろしいなあ〜。」

『心の眠気をスッキリ!駒コーラの心すっきりコーヒーは、いかがですか〜〜?』

昨日の駒コーラの彼女・小野節子だった。一平とスミレちゃんに手を振った。一平も、軽く手を振った。スミレちゃんは、見て見ない振りをしていた。
「缶コーヒーって、どうして美味しいのかなあ〜?」
「美味しいと思ってるから美味しいのよ。」
「えっ?」
スミレちゃんは、右手で一平の肩をポンと叩いた。
「右に曲がって、チューリップ花壇を通って行きましょう。」
「どうして?」
「近道なのよ。」
「そうかなあ?」
「早く!」
「分かったよ。」
一平は、仕方なく右に曲がった。けんけん姉さんも、「どうして、そっちに曲がるの〜?」と言いながら、ついて来た。小野節子の向こうでは、昨日の中国語会話の彼女が手を振っていた。
「あっ、昨日の中国語の人だ。」
「早く行きましょう!」
「分かってるよ。でも、缶コーヒーは、どうして美味しいのかなあ?」
「缶コーヒーは、インスタントコーヒーの味にはならないわ。インスタントコーヒーのほうが美味しいと思えば美味しいわ。」
「うん?」
「缶コーヒーのほうが、美味しいと思い込んでるだけよ。」
「そうかなあ?」
チューリップの花壇には、チューリップは咲いていなかった。一平は、ぼやいた。
「花も咲いてないのに…」
スミレちゃんも、ぼやいた。
「ここに、チューリップなんか植えるからいけないのよ。」
「どうして?」
「いざというときに、チューリップは毒があるから食べられないわ。」
「ああ、そういうことか。」
「これからは、地球温暖化で大変なことになるわ。だいこんとかを植えたほうがいいわ。だいこんは、みんな食べられるわ。だいこんの花は綺麗だわ。」
「そうだねえ。でも、オランダ人は、チューリップを食べるんだよ。」
「え〜〜〜、ほんと!?」
「食べられるチューリップだけどね。」
「そんなチューリップがあるの?」
「球根が甘くて美味しいらしいよ。食べたことないけどね。」
「それはいいわねえ。」
「花も食べられるらしいよ。」
「え〜〜〜!?」
けんけん姉さんが追い越して行った。そしてゴミ入れの前で止まった。ゴミ入れの前に、チラシが落ちていた。姉さんは、自転車から降りて拾おうとした。風でチラシが舞い、一平の電動アシスト三輪自転車・スミレ号の前輪が、そのチラシを踏みつけた。一平は自転車を止めた。スミレちゃんが降りてきた。そして、チラシを拾った。
「あ〜あ、お父さんが発明した、水に溶けたら肥料になる、せっかくのスーパーのチラシがしわくちゃだわ。」
「どうするの、捨てるの?」
「なんとか、しわくちゃ!」
「はっ?」
「えへへ〜!だじゃ丸くんになっちゃった!」
姉さんが取りに来た。スミレちゃんは、埃をはたいて渡した。
「はい!」
「何の話をしてたの?」
「食べられるチューリップのはなし。」
「あるわよ。ペタルって言うの。」
「ぺタル?」
「花びらに厚みがあって、シャキシャキしてて、サラダやデザートに食べるの。」
「どこに売ってるの?」
「スーパーじゃあ売ってないわね。インターネットとかでないとね。」
「ふ〜〜〜ん、でも高いんでしょう?」
「そうね。まだ高いわね。」
そんなことには興味のない一平は、ぼんやりと空を見ていた。


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