「いてててててて…!」 木から落ちた卵型の体型のハンプティ・ダンプティは、なかなか起き上がろうとはしなかった。起き上がれなかった。一番最初に駆けつけたのはスミレちゃんだった。 「あらららら、大丈夫ですか?卵のおじさん?」 「卵のおじさん、じゃあねえってんだよ!いててて〜!」 卵のおじさんは、とっても大きかった。背は三メートルほどで、体重は二百キロほどあった。スミレちゃんは、みんな手招きで呼んだ。 「仕方がないわねえ、みんなで起こしましょう!」 けんけん姉さんと一平がやって来た。仰向けに横たわっているハンプティ・ダンプティを起こそうとした。一平が溜息をついた。 「だめだ、重すぎるよ〜!」 スミレちゃんが、ハンプティ・ダンプティに怒った。 「あんた、重いわよ!自分で落ちたんだから、自分で起きなさいよ!」 「俺様は偉いんだ、自分で起きるに決まっているだろう!」 「よっこいしょ!」 起き上がれなかった。 スミレちゃんが、ハンプティ・ダンプティに力強く言った。 「手伝うから、もう一度頑張って!」 「ああ、そうかい。」 「せ〜〜〜の!」みんなで起こした。ハンプティ・ダンプティも頑張った。 起き上がった。卵のおじさんは、お尻を、両手で押さえていた。 「あ〜〜〜、痛かった!」 「割れなくて良かったね、卵のおじさん!」 「卵のおじさんじゃないってんだ!ハンプティ・ダンプティという立派な名前なの!」 「言いにくいから、卵のおじさんでいいでしょう!」 「なんだってえ!?」 「じゃあ、卵っち!いいでしょう?」 「たまごっち…?」 姉さんも、スミレちゃんの意見に同意した。 「それ、いいわねえ!」 一平も、多いに賛成した。 「それいいなあ〜、さすがスミレちゃん!」 ハンプティ・ダンプティが、笑いながら怒った。 「何を言ってるんだ、お前たちは?」 「どうせ、夜になったら、虫になって飛んで行くんでしょう?」 「ああ、そうだよ。」 「じゃあ、そこで大好物のソーセージでも食べながら、人間見物でもしてなさいよ。」 「ああ、そうするよ。人間は面白いからなあ〜。」 スミレちゃんは、姉さんの顔を見た。 「姉さん、行きましょう!」 「そうね。」 一平が、スミレちゃんに尋ねた。 「いいの、このままで?」 「いいのよ、卵おじさんは、昼は太陽の光で大きくなってるけど、夜になって光が無くなると、しぼんでしまって、本の虫になるの。どっかに飛んでいくの。」 「もしかして、鏡の国?」 「そんな国は、どこにもないわ。卵おじさんは、鏡の国のアリスを読んで、真似してるだけの、妖怪なの。物語妖怪なの。」 「物語妖怪?」 「物語に出てくる者の真似をする妖怪なの。」 「あ〜〜、そんなのがいるんだ?」 「桃太郎妖怪とかね。」 「そんなのもいるの?」 「物語に出てくるのなら、何でもいるわ。」 「ふ〜〜〜ん。」 「物語妖怪は、夜になると、しぼんで本の虫になって、どこかに飛んでいくの。」 「ああ、そうなの?」 「でも、ドラキュラの妖怪は、逆だわ。」 ハンプティ・ダンプティが、二人を除き込んでいた。スミレちゃんを手招きで呼んだ。スミレちゃんは、彼に近づいた。 「何ですか?」 「何を話してるんだい?」 「…何でもないわ。」 「教えてくれよ〜。友達だろう?」 「あんたなんかとは、友達なんかじゃないわ。」 「ああ、そうなの!」 「鏡の国のアリスは、一緒じゃないの?」 「鏡の国のアリス?そんなとてつもなく愚かな名前の奴は知らないねえ。」 「アリスを知らないの?」 「暖炉の前で、仔猫と空想遊びをしているアリスなんて知らないねえ。」 ハンプティ・ダンプティは、胸のポケットから大きなソーセージを出して食べ始めた。 「一人で食べたいから、もうどっかに行っていいよ。邪魔だから。」 「あっそう。じゃあ、ばいば〜〜い!」
|
|