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作品名:シュールミント 作者:毬藻

第91回   けんけん乗り
スミレ号を、妖怪温泉の裏門の脇に止めると、スミレちゃんと一平は、裏口から入って行った。
「ただいま〜〜!」
誰もいなかった。
「あれえ〜?」
一平が、少し遅れて入って来た。ぽんぽこ狸のからくり人形の入った箱を、テーブルの上に置いた。
「誰もいないの?」
「そうみたい。一服しましょう!」
「一服?煙草吸うの?」
「そんなもの、吸うわけないじゃない!」
「ひょっとしたら、妖精は吸うのかな〜〜っと、思っちゃった。」
「妖精は、そんなものは吸わないわ。お酒は飲むけど。」
「お酒は飲むんだ?」
「飲む妖精もいるわ。照れ屋の妖精は、お酒を飲んで唄を歌うの。」
「どんな唄を歌うの?」
「大地の唄を歌うのよ。」
スミレちゃんは、しゃがれた声で歌いだした。

 大地は母よ 大地は優しい母よ わたしたちの母よ〜♪

「それだけ?」
「これだけ。」
スミレちゃんは、ピクニックバスケットから、ポットを出した。
「やっぱり、玄米茶が世の中で一番おいしい飲み物だわ。」
そう言うと、ポットの蓋に注いだ。
「あなたは?」
「僕も飲むよ。」
一平は、台所に湯呑みを取りに行った。
「はい、これに注いで。」
スミレちゃんは、目玉を寄せてポットの玄米茶を湯飲みに注いだ。
一平は、一気に飲み干した。
「お〜〜、いい味だねえ〜!」
「早いわねえ〜!」
「男だから。」
「そうですか。」
一平は、煙草を取り出した。
「玄米茶は、味わって飲まなくっちゃ〜。」
スミレちゃんは、玄米茶の臭いを嗅ぐと、旨そうに飲み始めた。一平は、煙草を気持ちよさそうに吸い始めた。
「じゃあ、スミレちゃんの一番好きな食べ物は何なの?」
「一番好きな食べ物は、イチゴよ。」
「内緒で食べるイチゴ?」
「そう。もう少し、小っちゃな声で言ってよ。」
「あっ、ごめん!」
姉さんが入って来た。一平に尋ねた。
「何が、ごめん!なんですか?」
「いや、何でもありません。」
スミレちゃんが、わざとらしく咳きをした。
「ごほん、ごほん!」
一平が謝った。
「あっ、ごめん!外で吸ってくるよ。」
一平は、裏口から出て行った。姉さんは、出て行く一平を見ていた。
「なあんだ、ごめんって、煙草のことか。」
スミレちゃんが、目玉を寄せて答えた。
「そうなんですよう。」
姉さんは、外出用の帽子をかぶっていた。スミレちゃんは尋ねた。
「けんけん姉さん、どこに行くの?」
「買い物よ。」
「じゃあ、わたしも行くわ〜!」
「じゃあ行こう!」
一平は、裏口の階段に座って、のんびりと煙草を吸っていた。スミレちゃんとケンケン姉さんが出てきた。スミレちゃんが、一平の頭を、ポンと叩いた。
「一平!行きましょう!」
「えっ、また行くの?どこに行くの?」
「お買い物。」
「あっ、そう?」
ケンケン姉さんは、「ちょっと待ってて、わたしの自転車を持ってくるから。」と言って、屋根のある自転車置き場に消えていった。
一平とスミレちゃんが、スミレ号に乗って待ってると、いつものピンクの自転車を引いて出て来た。
「さあ、行きましょう!」
姉さんは、「けんけん!」と言って、片足けんけん女乗りで走り出した。スミレちゃんは喜んだ。
「わ〜〜、けんけん姉さんの、けんけん乗りだ〜!」
一平も走り出した。スミレちゃんは、いつものを歌いだした。
「ろ〜れん、ろ〜れん、ろ〜れん♪」
一平は、片倉博士のいた海岸を見ていた。
「あれ、片倉博士がいなくなってる?」
スミレちゃんも見た。
「あれ、どこに行ったのかしら?」
「運命が変わって、消えてなくなったのかなあ?」
「え〜〜〜〜〜!?」
何度見ても、片倉おじさんの姿は海岸にはなかった。


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