スミレ号を、妖怪温泉の裏門の脇に止めると、スミレちゃんと一平は、裏口から入って行った。 「ただいま〜〜!」 誰もいなかった。 「あれえ〜?」 一平が、少し遅れて入って来た。ぽんぽこ狸のからくり人形の入った箱を、テーブルの上に置いた。 「誰もいないの?」 「そうみたい。一服しましょう!」 「一服?煙草吸うの?」 「そんなもの、吸うわけないじゃない!」 「ひょっとしたら、妖精は吸うのかな〜〜っと、思っちゃった。」 「妖精は、そんなものは吸わないわ。お酒は飲むけど。」 「お酒は飲むんだ?」 「飲む妖精もいるわ。照れ屋の妖精は、お酒を飲んで唄を歌うの。」 「どんな唄を歌うの?」 「大地の唄を歌うのよ。」 スミレちゃんは、しゃがれた声で歌いだした。
大地は母よ 大地は優しい母よ わたしたちの母よ〜♪
「それだけ?」 「これだけ。」 スミレちゃんは、ピクニックバスケットから、ポットを出した。 「やっぱり、玄米茶が世の中で一番おいしい飲み物だわ。」 そう言うと、ポットの蓋に注いだ。 「あなたは?」 「僕も飲むよ。」 一平は、台所に湯呑みを取りに行った。 「はい、これに注いで。」 スミレちゃんは、目玉を寄せてポットの玄米茶を湯飲みに注いだ。 一平は、一気に飲み干した。 「お〜〜、いい味だねえ〜!」 「早いわねえ〜!」 「男だから。」 「そうですか。」 一平は、煙草を取り出した。 「玄米茶は、味わって飲まなくっちゃ〜。」 スミレちゃんは、玄米茶の臭いを嗅ぐと、旨そうに飲み始めた。一平は、煙草を気持ちよさそうに吸い始めた。 「じゃあ、スミレちゃんの一番好きな食べ物は何なの?」 「一番好きな食べ物は、イチゴよ。」 「内緒で食べるイチゴ?」 「そう。もう少し、小っちゃな声で言ってよ。」 「あっ、ごめん!」 姉さんが入って来た。一平に尋ねた。 「何が、ごめん!なんですか?」 「いや、何でもありません。」 スミレちゃんが、わざとらしく咳きをした。 「ごほん、ごほん!」 一平が謝った。 「あっ、ごめん!外で吸ってくるよ。」 一平は、裏口から出て行った。姉さんは、出て行く一平を見ていた。 「なあんだ、ごめんって、煙草のことか。」 スミレちゃんが、目玉を寄せて答えた。 「そうなんですよう。」 姉さんは、外出用の帽子をかぶっていた。スミレちゃんは尋ねた。 「けんけん姉さん、どこに行くの?」 「買い物よ。」 「じゃあ、わたしも行くわ〜!」 「じゃあ行こう!」 一平は、裏口の階段に座って、のんびりと煙草を吸っていた。スミレちゃんとケンケン姉さんが出てきた。スミレちゃんが、一平の頭を、ポンと叩いた。 「一平!行きましょう!」 「えっ、また行くの?どこに行くの?」 「お買い物。」 「あっ、そう?」 ケンケン姉さんは、「ちょっと待ってて、わたしの自転車を持ってくるから。」と言って、屋根のある自転車置き場に消えていった。 一平とスミレちゃんが、スミレ号に乗って待ってると、いつものピンクの自転車を引いて出て来た。 「さあ、行きましょう!」 姉さんは、「けんけん!」と言って、片足けんけん女乗りで走り出した。スミレちゃんは喜んだ。 「わ〜〜、けんけん姉さんの、けんけん乗りだ〜!」 一平も走り出した。スミレちゃんは、いつものを歌いだした。 「ろ〜れん、ろ〜れん、ろ〜れん♪」 一平は、片倉博士のいた海岸を見ていた。 「あれ、片倉博士がいなくなってる?」 スミレちゃんも見た。 「あれ、どこに行ったのかしら?」 「運命が変わって、消えてなくなったのかなあ?」 「え〜〜〜〜〜!?」 何度見ても、片倉おじさんの姿は海岸にはなかった。
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