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作品名:シュールミント 作者:毬藻

第90回   時空間無線機
「明日は、明日の風が吹く!」
「そうだねえ〜!」
「明日は明日の、南無阿弥陀仏!」
「なんだ、そりゃあ?」
「今、作ったの。」
「明日も天気がいいかなあ?またサイクリングに行こうね!」
「明日になったら、明日は明日に逃げて行くわ。決して、明日には逢えないわ。」
「そうだねえ。」
「明日は、いつも一つだけ先にいて、おいでおいでをしてるの。明日は卑怯だわ。」
「そうだねえ。」
砂浜で、肩からハンディ無線機をかけて、マイクに向かって話している男がいた。
「あっ、片倉のおじさんだ〜!」
おじさんは、スミレちゃんに気が付いて、手を振った。
「スミレちゃ〜〜〜ん!」
スミレちゃんは、一平に命じた。
「止まって!」
一平は止まった。
おじさんは、にこにこしながらやって来た。
「スミレちゃん、おめでとう!」
「あけましておめでとうございま〜〜す!」
一平も頭を下げて挨拶した。
「あけましておめでとうございます!」
片倉のおじさんは、自転車を見ていた。
「これ、いい自転車だねえ〜。」
「お父さんが、ちょちょいのちょいで作ったの。」
「これ、作ったの?凄いなあ〜!」
「お父さんは、何でも作る発明家なの。」
「そんなこと、知ってるよ。」
「こんなところで、何してるの?今日は、鳥と話せる機械は持ってこなかったの?」
「今日は、別の面白いこと。」
「別の面白いことって?」
「昔の自分を呼び出していたんだよ。」
「え〜〜〜!?」
「この無線機で呼び出していたんだよ。」
「むせんきで?」
「ああ、そうだよ。この無線機は、昔の人と話せるんだよ。」
「え〜〜〜!?」
「僕が発明した、時空間無線機って言うんだよ。」
「じくうかん、むせんき?」
一平は、思い出したように尋ねた。
「あのう、ひょっとして、時空間無線理論で有名な、片倉由一博士ですか?」
「ああ、そうだよ。よく知ってるね。」
「ああやっぱり、お会いできて光栄です!」
「大した博士じゃないよ。」
スミレちゃんは、疑いの寄り目で質問してきた。
「ほんとうに、昔の人と話せるの?」
片倉のおじさんは、一歩下がって、右手の人差し指を立てた。
「鋭い質問!」
「返事は来たんですか?」
「実はねえ、今ここで待ってたんだよ。」
「で、返事は来たんですか?」
「それがね、まだ来ないんだよ。」
「やっぱりね。」
「何だよ、やっぱりね、とは?」
「誰からの返事を待ってるの?」
「自分からの、昔の自分からの。」
「昔の自分からの返事をもらって、どうするの?」
「大切なことを教えてね、人生を変えるんだよ。運命を変えるんだよ。」
「え〜〜〜!?」
一平も驚いていた。スミレちゃんは、片倉おじさんの顔を下から覗いた。
「ちょっと、やってみて。」
「ああ、いいよ。」
片倉おじさんは、肩にかけてるカバンのようなハンディ無線機のマイクを握ると、話し出した。
「こちら、JH1OHZ、片倉由一、応答せよ、JH1OHZ、片倉由一…」
応答は無かった。
「駄目?」
「やっぱり、駄目みたいだなあ…」
「そんなことしないほうがいわよ。」
「どうして?」
「そんなことしたら、運命が変わってしまうわ。運命が変わって、ここから消えてしまうわ。」
「それでいいんだよ、それで…」
片倉おじさんは、遠くの海を見ていた。


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