「明日は、明日の風が吹く!」 「そうだねえ〜!」 「明日は明日の、南無阿弥陀仏!」 「なんだ、そりゃあ?」 「今、作ったの。」 「明日も天気がいいかなあ?またサイクリングに行こうね!」 「明日になったら、明日は明日に逃げて行くわ。決して、明日には逢えないわ。」 「そうだねえ。」 「明日は、いつも一つだけ先にいて、おいでおいでをしてるの。明日は卑怯だわ。」 「そうだねえ。」 砂浜で、肩からハンディ無線機をかけて、マイクに向かって話している男がいた。 「あっ、片倉のおじさんだ〜!」 おじさんは、スミレちゃんに気が付いて、手を振った。 「スミレちゃ〜〜〜ん!」 スミレちゃんは、一平に命じた。 「止まって!」 一平は止まった。 おじさんは、にこにこしながらやって来た。 「スミレちゃん、おめでとう!」 「あけましておめでとうございま〜〜す!」 一平も頭を下げて挨拶した。 「あけましておめでとうございます!」 片倉のおじさんは、自転車を見ていた。 「これ、いい自転車だねえ〜。」 「お父さんが、ちょちょいのちょいで作ったの。」 「これ、作ったの?凄いなあ〜!」 「お父さんは、何でも作る発明家なの。」 「そんなこと、知ってるよ。」 「こんなところで、何してるの?今日は、鳥と話せる機械は持ってこなかったの?」 「今日は、別の面白いこと。」 「別の面白いことって?」 「昔の自分を呼び出していたんだよ。」 「え〜〜〜!?」 「この無線機で呼び出していたんだよ。」 「むせんきで?」 「ああ、そうだよ。この無線機は、昔の人と話せるんだよ。」 「え〜〜〜!?」 「僕が発明した、時空間無線機って言うんだよ。」 「じくうかん、むせんき?」 一平は、思い出したように尋ねた。 「あのう、ひょっとして、時空間無線理論で有名な、片倉由一博士ですか?」 「ああ、そうだよ。よく知ってるね。」 「ああやっぱり、お会いできて光栄です!」 「大した博士じゃないよ。」 スミレちゃんは、疑いの寄り目で質問してきた。 「ほんとうに、昔の人と話せるの?」 片倉のおじさんは、一歩下がって、右手の人差し指を立てた。 「鋭い質問!」 「返事は来たんですか?」 「実はねえ、今ここで待ってたんだよ。」 「で、返事は来たんですか?」 「それがね、まだ来ないんだよ。」 「やっぱりね。」 「何だよ、やっぱりね、とは?」 「誰からの返事を待ってるの?」 「自分からの、昔の自分からの。」 「昔の自分からの返事をもらって、どうするの?」 「大切なことを教えてね、人生を変えるんだよ。運命を変えるんだよ。」 「え〜〜〜!?」 一平も驚いていた。スミレちゃんは、片倉おじさんの顔を下から覗いた。 「ちょっと、やってみて。」 「ああ、いいよ。」 片倉おじさんは、肩にかけてるカバンのようなハンディ無線機のマイクを握ると、話し出した。 「こちら、JH1OHZ、片倉由一、応答せよ、JH1OHZ、片倉由一…」 応答は無かった。 「駄目?」 「やっぱり、駄目みたいだなあ…」 「そんなことしないほうがいわよ。」 「どうして?」 「そんなことしたら、運命が変わってしまうわ。運命が変わって、ここから消えてしまうわ。」 「それでいいんだよ、それで…」 片倉おじさんは、遠くの海を見ていた。
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