「血の巡(めぐ)りの良くなる、心のジュース<ハッカ入り娘>は如何(いかが)ですかあ〜!?」 着物風のドレスを着た女性が、やってきた。 赤い帽子をかぶり、帽子にはソフトドリンクの会社<駒コーラ>のロゴが入っていた。 「身体もすっきりしますが、頭も心もすっりりして、目が覚めますよ〜!」 若者は足を止めた。 「心の優れない方に、ぴったりのハッカの入った、リフレッシュ・ジュースですよ〜!」 さっきと同じ売り子だった。 「心は優れていますか?」 「こころ…」 「ええ、こころです。これを飲むと心が癒されますよ。」 「ほんとに?」 「ええ、心が不愉快だと損をしますよ。」 「じゃあ、それください。」 「一つ二百円です。」 「一つください。」 「どうもありがとうございます!」 「たいへんだね。何時までやってるの?」 「五時までやってます。」 若者は缶を開け、一口飲んだ。 「あっ、ほんとだ。心がすかっとしてきた!」 「ほんとですか。」 二人は、顔を見合わせ笑った。 「あっ、そうだ。ハッシーって知ってます?」 「知ってますよ。案内してあげます。ちょうど移動しようと思っていたんです。」 「ああ、どうもありがとう。」 胸に名札がぶら下がっていた。小野節子と書いてあった。 「遠いんですか。」 「すぐそこです。」 二人は仲良く歩き出した。 彼女の後を追って、缶ジュースを載せた電子頭脳電動オートカートが動き出した。 ビュ〜〜〜 突然、枯葉を巻き上げながら、荒ぶった突風が二人を襲った。 「きゃ〜〜!」ドレスがめくれあがった。彼女は必死で押さえた。 「うわ〜〜、なんだこの風は!」 「まるで、邪魔してるみたいだわ。」 人の形をした黒い影が現れた。子供ほどの大きさで、メラメラした大きな赤い目玉が一つあった。 耳の近くまで裂けた紫色の口はあったが、鼻は無かった。 背中には、ゴキブリのような、あぶらあぶらした羽が生えていた。 「うわ〜〜〜、化け物だあ!」 四肢は昆虫のように細く、太い毛が生えていた。とても臭かった。 「うわ〜〜〜、なんだこいつぅ!」 「えっ、何か見えるんですか!?」彼女には見えていなかった。 「うわ〜〜〜、気持ち悪い!」 彼女は口を押さえた。「なに、この臭い!」 若者は叫んだ。 「とにかく、この場から逃げましょう!」 二人は風に向かって走り出した。
寒いよ〜〜〜 寒いよ〜〜〜 心が寒いよ〜〜〜 誰か一緒に 遊ぼうよ〜〜〜 寒くて死にそうなんだよ〜〜〜 こっちを向いて遊んでくれよ〜〜〜 一緒に鬼ごっこしようよ〜〜〜 僕はもう 息ができないくらい 退屈なんだよ〜〜〜 退屈で寒くて 心が寒くて 今にも死にそうなんだよ〜〜〜 枯葉で 死神のトランプ遊び しようよ〜〜〜
「あ〜、びっくりした〜〜!」 若者は後ろを見た。 赤い目玉の黒い化け物は、赤い息を吐き、バッタのように飛び跳ねながら追いかけてきた。 「ぅわ〜〜〜!」 「どうしたの?」 「妖怪、妖怪!」 若者は彼女の手を強く握ると、またも風に向かって走り出した。
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