森の公園の海側の出口の近くで、着物風のドレスを着た小野節子が立っていた。 「血の巡(めぐ)りの良くなる、心のジュース<ハッカ入り娘>は如何(いかが)ですかあ?!?」 赤い帽子をかぶり、帽子にはソフトドリンクの会社<駒コーラ>のロゴが入っていた。 「身体もすっきりしますが、頭も心もすっりりして、目が覚めますよ〜!」 一平は、手を振った。 「心の優れない方に、ぴったりのハッカの入った、リフレッシュ・ジュースですよ〜!」 一平は、彼女に近づこうとした。スミレちゃんが叫んだ。 「時間が無いわ、あっちに行っちゃあ駄目!」 一平は、仕方なく通り過ぎて行った。 森の公園の海岸側のバス停の傍の椎の木が声を掛けた。 『やあ、スミレちゃん!』 「椎の木の精霊さん、ご機嫌はいかが?」 『いつものとおりだね。』 「ば〜〜〜い!」 『またね〜!』 お地蔵さんの近くのゴミ置き場に、お婆さんと栗坊と立っていた。 「止まれ〜!」 一平は、自転車を止めた。 「何してるの?」 栗坊が、指をさしながら返事をした。 「スミレちゃん、これ使えるかなあ?」 車のついたキャリバッグだった。一平が降りてきた。 「どれどれ…」 一平は持ち上げると、地面に下ろし引いて見た。 「なあ、ちゃんと使えるよ。」 一平は、バッグの中を開いて見た。 「綺麗だねえ、きっと使わないから捨てたみたいだねえ。」 スミレちゃんも自転車から降りて、キャリーバッグを触ってみた。 「もったいないわねえ。これ使ったほうがいいわ。きっと、神様の贈り物だわ。神様がここに置いたんだわ。」 いつもの、スミレちゃんの神様の贈り物理論だった。スミレちゃんの理論に感化されつつある一平も、大きく頷いた。 「きっと、そうだね!」 お婆さんが、二人に尋ねた。 「じゃあ、これ持って行ってもいいのかしら?」 一平が、警察官のように敬礼して優しく答えた。 「大丈夫です。」 栗坊は喜んだ。 「わ〜〜〜〜い!」 お婆さんは、買い物籠を持っていた。一平が、キャリーバッグを大きく開いた。 「それ、全部入りますよ。入れてあげましょうか?」 「はい、おねがいします。」 一平は、買い物籠の中のものを、全部丁寧に入れた。 「はい、入りました!」 栗坊は喜んだ。 「わ〜〜〜〜、入った〜〜!」 スミレちゃんが、栗坊に言った。 「これだったら、栗坊にも運べるよ。」 栗坊は「うん!」と言って、引いた。 「わ〜〜、軽い軽い!」 栗坊は、一人でどんどん引いて行った。お婆さんは、「どうもありがとうございました。」と言って頭を下げると、空の買い物籠を持って、栗坊を追い掛けて行った。 海岸に、とってもとっても優しい潮風が吹いていた。 『えいっほ!えいっほ!』 突然の掛け声に、二人は今来た道を振り向いた。お猿の籠屋だった。 「あっ、妖怪お猿の籠屋だわ。」 それは、小さな妖怪猿が担ぐ小さな籠屋だった。なぜか籠には誰も乗せてはいなかった。前の妖怪猿が、「こんなところに変な乗り物置いて、ぼ〜〜っと突っ立ってんじゃねえよ〜!」 と言い残し、去って行った。 一平は、きょとんとしていた。 「誰も乗せてなかったねえ?」 「重いから、いつも誰も乗せていないの。」 「変なの。」 「かっこうだけなの。」 「遊んでるの?」 「妖怪は遊びが好きだから、そうかも知れないわ。」 「あの籠屋、どこに行くの?」 「ただ走ってるだけなの。目的地はないの。」 「ただ走ってるだけ?」 妖怪大学の過激派の三体の学生がやって来た。叫びながら。 < 目的を殺せ! 我々は自由の刑に処せられている! >
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