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作品名:シュールミント 作者:毬藻

第88回   神様の贈り物理論
森の公園の海側の出口の近くで、着物風のドレスを着た小野節子が立っていた。
「血の巡(めぐ)りの良くなる、心のジュース<ハッカ入り娘>は如何(いかが)ですかあ?!?」
赤い帽子をかぶり、帽子にはソフトドリンクの会社<駒コーラ>のロゴが入っていた。
「身体もすっきりしますが、頭も心もすっりりして、目が覚めますよ〜!」
一平は、手を振った。
「心の優れない方に、ぴったりのハッカの入った、リフレッシュ・ジュースですよ〜!」
一平は、彼女に近づこうとした。スミレちゃんが叫んだ。
「時間が無いわ、あっちに行っちゃあ駄目!」
一平は、仕方なく通り過ぎて行った。
森の公園の海岸側のバス停の傍の椎の木が声を掛けた。
『やあ、スミレちゃん!』
「椎の木の精霊さん、ご機嫌はいかが?」
『いつものとおりだね。』
「ば〜〜〜い!」
『またね〜!』
お地蔵さんの近くのゴミ置き場に、お婆さんと栗坊と立っていた。
「止まれ〜!」
一平は、自転車を止めた。
「何してるの?」
栗坊が、指をさしながら返事をした。
「スミレちゃん、これ使えるかなあ?」
車のついたキャリバッグだった。一平が降りてきた。
「どれどれ…」
一平は持ち上げると、地面に下ろし引いて見た。
「なあ、ちゃんと使えるよ。」
一平は、バッグの中を開いて見た。
「綺麗だねえ、きっと使わないから捨てたみたいだねえ。」
スミレちゃんも自転車から降りて、キャリーバッグを触ってみた。
「もったいないわねえ。これ使ったほうがいいわ。きっと、神様の贈り物だわ。神様がここに置いたんだわ。」
いつもの、スミレちゃんの神様の贈り物理論だった。スミレちゃんの理論に感化されつつある一平も、大きく頷いた。
「きっと、そうだね!」
お婆さんが、二人に尋ねた。
「じゃあ、これ持って行ってもいいのかしら?」
一平が、警察官のように敬礼して優しく答えた。
「大丈夫です。」
栗坊は喜んだ。
「わ〜〜〜〜い!」
お婆さんは、買い物籠を持っていた。一平が、キャリーバッグを大きく開いた。
「それ、全部入りますよ。入れてあげましょうか?」
「はい、おねがいします。」
一平は、買い物籠の中のものを、全部丁寧に入れた。
「はい、入りました!」
栗坊は喜んだ。
「わ〜〜〜〜、入った〜〜!」
スミレちゃんが、栗坊に言った。
「これだったら、栗坊にも運べるよ。」
栗坊は「うん!」と言って、引いた。
「わ〜〜、軽い軽い!」
栗坊は、一人でどんどん引いて行った。お婆さんは、「どうもありがとうございました。」と言って頭を下げると、空の買い物籠を持って、栗坊を追い掛けて行った。
海岸に、とってもとっても優しい潮風が吹いていた。
『えいっほ!えいっほ!』
突然の掛け声に、二人は今来た道を振り向いた。お猿の籠屋だった。
「あっ、妖怪お猿の籠屋だわ。」
それは、小さな妖怪猿が担ぐ小さな籠屋だった。なぜか籠には誰も乗せてはいなかった。前の妖怪猿が、「こんなところに変な乗り物置いて、ぼ〜〜っと突っ立ってんじゃねえよ〜!」
と言い残し、去って行った。
一平は、きょとんとしていた。
「誰も乗せてなかったねえ?」
「重いから、いつも誰も乗せていないの。」
「変なの。」
「かっこうだけなの。」
「遊んでるの?」
「妖怪は遊びが好きだから、そうかも知れないわ。」
「あの籠屋、どこに行くの?」
「ただ走ってるだけなの。目的地はないの。」
「ただ走ってるだけ?」
妖怪大学の過激派の三体の学生がやって来た。叫びながら。
 < 目的を殺せ! 我々は自由の刑に処せられている! >



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