小さな風小僧に吹き飛ばされて一匹の蟻ん子が、坂を転がっていた。 「あらあら可哀想に。」 「どうしたの?」 「蟻が、風に飛ばされて。この坂を転げ落ちているわ。」 「それがどうしたの?」 「人間が作った坂には、草も石ころもないから、転がって自動車の潰されてしまうわ。」 「そうだね。」 「残酷だわ。」 「そうだね。蟻のことまで考えては作らないからね。」 「やっぱり、ここは妖精たちの住めないところだわ。」 「まあね…」 「偉い人間はいないのかしら?」 「いるんじゃないの?」 「さっきの、将棋の名人みたいな。」 「羽生名人か…」 「そう。深く考える思いやりのある、とてもとってもいい目をしていたわ。」 「あの人は天才だからね。」 「みんな天才になればいいのに。」 「そうだね。」 「偉い人は、どこが違うのかしら?」 「偉い人は、最初っから違うんだよ。」 「小さいときから?」 「そう。」 機械仕掛けの犬のマックが、ワンワンと怒鳴っていた。 「マックが怒鳴っているわ。マックドナルドのフライドポエトは美味しいわ。」 「食べたいの?」 「今日はいいわ。また内緒で食べましょうよ。」 「そうだね。内緒で食べると美味しいね。」 「えへへ〜〜。」 「おかしな返事。」 「フライドポテトは、ソフトクリームをつけて食べると、美味しいのよ。」 「え〜〜?」 「熱いフライドポテトに冷たいソフトクリームをつけて食べるの。」 「そうなの?」 「けんけん姉さんが、教えてくれたの。熱くて冷たくって、とってもとっても美味しかったわ〜。」 「今度、やってみよう!」 「それが、きっといいわ。」 森の公園に辿り着くと、大勢の亡霊や妖怪たちが歩いていた。妖精たちが楽しそうに飛んでいた。 「やっぱり、ここはいいわあ。」 「そうだねえ。」 一平は、来た道を走って行こうとした。スミレちゃんが指差した。 「遠回りになるわ。あっちから行きましょう!」 「あっちから?あっちのほうが遠回りになるんじゃないの?」 「遠くならないわ。」 「あっ、そう。」 「あなたは、お喋りだから、こっちのほうが近いわ。」 「どういうこと?」 遠くで、中国語会話のお姉さんが、二人を発見して、手を振っていた。一平は気づいて、手を振った。 「あ〜〜あ、やっぱりあっちを走ったほうが良かったじゃん。」 「急ぎましょう!」 「あ〜〜あ、レッスン2をやりたかったなあ〜。」 「人生は短いわ。早く行きましょう〜!」 「僕は、まだ若いんだよ。」 「人生は、あ〜〜〜っと言う間に終わってしまうわ。」 「なあんだ、遠回りになるって、このことだったのか?」 三匹の、よ〜いどん妖怪たちが、四十五度の角度で上空に向かって、びょ〜〜んと飛び出して行った。鳩や小鳥たちが驚いて逃げていった。森の公園は、平和で満ちていた。 スミレちゃんは、意地悪く微笑んで楽しそうに歌いだした。 「ろ〜れん、ろ〜れん、ろ〜〜れん♪」
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