見た目のいい背広を着た妖怪が歩いていた。一平は、イチゴを食べながら目を向けた。 「随分と立派な妖怪だなあ?」 スミレちゃんは、イチゴを食べ終わってから答えた。 「あれは、表だけよ。」 「表だけって、どういうこと?」 「表だけ綺麗な、見栄張り妖怪よ。」 「見栄張り妖怪?」 「今に分かるわ。」 見栄張り妖怪の後ろ姿が見えた。綺麗な背広は、前だけで、後ろは普段着だった。 「な〜〜んだ、立派なのは、前だけか!」 「分かった?」 一平は笑っていた。 「変な妖怪!おっかしいなあ〜。前だけ買ったのかな〜?」 「前だけは売ってないわ。そんなのは、どこにも売ってないわ。自分で作ったのよ。」 「お金がないから?」 「そう。」 「わざわざ自分で、あんな面倒なものを?馬鹿みたいだなあ〜。」 「人間の真似をしてるの。」 「ってことは、このあたりには、見栄っ張りが多いってこと?」 「そうかもね。」 見栄張り妖怪の他には、妖怪は歩いてはいなかった。 「見栄っ張りは、見栄を張れる高いところが好きなの。」 「よく言うよね、何とかと何とかは高い所が好きだって。」 「山の上は、鳥たちが生きるところよ。人間の住むところではないわ。」 「そうだねえ。こんなところ、不便だよねえ。」 「子供や老人には大変だわ。」 「そうだよねえ。」 大きな海の上では、亡霊のクジラが潮を吹いていた。 「あっ、まぁた鯨だ!」 スミレちゃんは、立ち上がった。 「さあ、みんなが待ってる憩(いこ)いの家に帰りましょう!」 「憩(いこ)いの家?スミレちゃんは、ずいぶんと古臭い言葉を知ってるねえ〜。」 「あら、そうかしら?」 一平も「あ〜、美味しかった!」と言って、立ち上がった。 スミレちゃんは、大事そうに、ポットをピクニックバスケットの中に入れた。 「内緒で食べると、とっても美味しいわ!」 「えっ、そうなの!?」 「妖精は、内緒で食べるのが、一番好きなの。」 「そんなずるいことが好きなんだ?」 「そうなの!昔からそうなの。」 「昔からって?」 「何万年も昔から、一番好きなの。」 「ふ〜〜〜ん?じゃあ二番めは?」 「泥棒して食べるのが好きなの。」 「え〜〜〜、ほんとう!?」 「泥棒して食べると、とっても美味しいわ!」 「え〜〜〜、ほんとう!?」 「妖精の世界は、泥棒しあって、助け合ってるの。」 「泥棒しあって助け合ってる?」 「妖精たちは助け合って生きてるの。とっても大切なことなの。」 「変な助け合い!」 「そうかしら?」 「でも、見つかったら喧嘩になるでしょう?」 「見つかったら喧嘩になるわ。だから、見つからないように泥棒するの。」 「見つかったら?」 「見つかったら逃げていくの。そしたら喧嘩にならないでしょう。」 「それがルールなんだ?」 「そう。大切なルールなの。」 「もし、ルールを破ったら?」 「妖精は、人間と違って、そんな悪いことはしないわ。」 二人は、電動三輪アシスト自転車・スミレ号に乗り込んだ。 「一平〜〜〜、さあ〜〜出発だ〜〜〜!」 「お〜〜〜!」 一平は、ペダルを踏み込んだ。スミレちゃんは歌いだした。 「ろ〜〜れん、お〜れん、ろ〜〜れん♪」 「なあに、それ?」 「きゃるびん、たるびん、さるびん、なるびん!」 「な〜に、それ?」 「ろ〜は〜いど〜!」 「なんだ、そりゃあ?」 スミレちゃんは、マイペースだった。 横断歩道を渡ろうとしたら、ワゴン車が合図もしないで、左折しようとした。スミレちゃんは叫んだ。 「危ない!」 一平は、急ブレーキをかけた。 「危ないなあ〜!」 運転してるのは、太った婦人だった。何事も無かったかのように走り過ぎて行った。 一平は怒っていた。 「ひどい奴だなあ〜!」 「道路は怖いわ!」 「ああいうのに、免許を与えるから事故が起きるんだよ!」 「交通事故で、ああいう馬鹿が死んで滅びるまでは我慢したほうがいいわ。」 「何を我慢するの?」 「道路を走るのは、我慢したほうが利口だわ。」 「なあるほど!」 「デブになると、反射神経が鈍くなるんだわ。デブの運転はとっても怖いわ。」 「なあるほど!スミレちゃんは、面白いことを言うねえ!」 「そうかしら?」 「あのデブおばさん、気が付いてなかったのかなあ〜?」 「そうかも知れないわ。」 「お〜〜、怖!」 「あの人、デブだから、きっと歩けないんだわ。今に、病気で死んじゃうわ。」 「お〜〜、怖!」
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