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作品名:シュールミント 作者:毬藻

第86回   見栄張り妖怪
見た目のいい背広を着た妖怪が歩いていた。一平は、イチゴを食べながら目を向けた。
「随分と立派な妖怪だなあ?」
スミレちゃんは、イチゴを食べ終わってから答えた。
「あれは、表だけよ。」
「表だけって、どういうこと?」
「表だけ綺麗な、見栄張り妖怪よ。」
「見栄張り妖怪?」
「今に分かるわ。」
見栄張り妖怪の後ろ姿が見えた。綺麗な背広は、前だけで、後ろは普段着だった。
「な〜〜んだ、立派なのは、前だけか!」
「分かった?」
一平は笑っていた。
「変な妖怪!おっかしいなあ〜。前だけ買ったのかな〜?」
「前だけは売ってないわ。そんなのは、どこにも売ってないわ。自分で作ったのよ。」
「お金がないから?」
「そう。」
「わざわざ自分で、あんな面倒なものを?馬鹿みたいだなあ〜。」
「人間の真似をしてるの。」
「ってことは、このあたりには、見栄っ張りが多いってこと?」
「そうかもね。」
見栄張り妖怪の他には、妖怪は歩いてはいなかった。
「見栄っ張りは、見栄を張れる高いところが好きなの。」
「よく言うよね、何とかと何とかは高い所が好きだって。」
「山の上は、鳥たちが生きるところよ。人間の住むところではないわ。」
「そうだねえ。こんなところ、不便だよねえ。」
「子供や老人には大変だわ。」
「そうだよねえ。」
大きな海の上では、亡霊のクジラが潮を吹いていた。
「あっ、まぁた鯨だ!」
スミレちゃんは、立ち上がった。
「さあ、みんなが待ってる憩(いこ)いの家に帰りましょう!」
「憩(いこ)いの家?スミレちゃんは、ずいぶんと古臭い言葉を知ってるねえ〜。」
「あら、そうかしら?」
一平も「あ〜、美味しかった!」と言って、立ち上がった。
スミレちゃんは、大事そうに、ポットをピクニックバスケットの中に入れた。
「内緒で食べると、とっても美味しいわ!」
「えっ、そうなの!?」
「妖精は、内緒で食べるのが、一番好きなの。」
「そんなずるいことが好きなんだ?」
「そうなの!昔からそうなの。」
「昔からって?」
「何万年も昔から、一番好きなの。」
「ふ〜〜〜ん?じゃあ二番めは?」
「泥棒して食べるのが好きなの。」
「え〜〜〜、ほんとう!?」
「泥棒して食べると、とっても美味しいわ!」
「え〜〜〜、ほんとう!?」
「妖精の世界は、泥棒しあって、助け合ってるの。」
「泥棒しあって助け合ってる?」
「妖精たちは助け合って生きてるの。とっても大切なことなの。」
「変な助け合い!」
「そうかしら?」
「でも、見つかったら喧嘩になるでしょう?」
「見つかったら喧嘩になるわ。だから、見つからないように泥棒するの。」
「見つかったら?」
「見つかったら逃げていくの。そしたら喧嘩にならないでしょう。」
「それがルールなんだ?」
「そう。大切なルールなの。」
「もし、ルールを破ったら?」
「妖精は、人間と違って、そんな悪いことはしないわ。」
二人は、電動三輪アシスト自転車・スミレ号に乗り込んだ。
「一平〜〜〜、さあ〜〜出発だ〜〜〜!」
「お〜〜〜!」
一平は、ペダルを踏み込んだ。スミレちゃんは歌いだした。
「ろ〜〜れん、お〜れん、ろ〜〜れん♪」
「なあに、それ?」
「きゃるびん、たるびん、さるびん、なるびん!」
「な〜に、それ?」
「ろ〜は〜いど〜!」
「なんだ、そりゃあ?」
スミレちゃんは、マイペースだった。
横断歩道を渡ろうとしたら、ワゴン車が合図もしないで、左折しようとした。スミレちゃんは叫んだ。
「危ない!」
一平は、急ブレーキをかけた。
「危ないなあ〜!」
運転してるのは、太った婦人だった。何事も無かったかのように走り過ぎて行った。
一平は怒っていた。
「ひどい奴だなあ〜!」
「道路は怖いわ!」
「ああいうのに、免許を与えるから事故が起きるんだよ!」
「交通事故で、ああいう馬鹿が死んで滅びるまでは我慢したほうがいいわ。」
「何を我慢するの?」
「道路を走るのは、我慢したほうが利口だわ。」
「なあるほど!」
「デブになると、反射神経が鈍くなるんだわ。デブの運転はとっても怖いわ。」
「なあるほど!スミレちゃんは、面白いことを言うねえ!」
「そうかしら?」
「あのデブおばさん、気が付いてなかったのかなあ〜?」
「そうかも知れないわ。」
「お〜〜、怖!」
「あの人、デブだから、きっと歩けないんだわ。今に、病気で死んじゃうわ。」
「お〜〜、怖!」


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