20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:シュールミント 作者:毬藻

第85回   イチゴの味
一平は、からくり狸のロボットの入っている箱を、自転車の前籠に入れようとした。
「あれ、スミレちゃん、これ何だっけ?中に何が入っているの?」
前籠には、ピクニックバスケットが入っていた。
「その中は、玄米茶の入っているポットが入っているのよ。」
「玄米茶?」
「暖かい玄米茶が入っているのよ。」
「玄米茶が好きなんだ?」
「とってもとっても美味しい玄米茶なの。」
「ああ、そう?」
「それ、取ってちょうだい。わたしが持つから。」
一平は、ピクニックバスケットを、スミレちゃんに渡した。
「はい。」
一平は、からくり狸の箱を、前籠に丁寧に入れた。スミレちゃんが注意した。
「網をかけておいたほうがいいわ。」
「あっ、そうだね。」
日頃、自転車に乗っていない一平は気が付かなかった。
「じゃあ、行きましょう!」
「よし、行こう!」
一平は、ペダルを軽く踏み込んだ。電動アシスト自転車はスムーズに走り出した。
「お〜〜〜、この自転車、軽快だなあ〜!」
「だって、日本一の発明家のお父さんが作ったんだもん!」
「そうだねえ〜!」
スミレちゃんは大きな声で歌いだした。
「ろ〜れん、ろ〜れん、ろ〜〜れん♪」
「何、それ?」
「きゃるびん、たるびん、さるびん、なるびん!」
「な〜に、それ?」
「ろ〜は〜いど〜!」
「なんだ、そりゃあ?」
スミレちゃんは、マイペースだった。
「あっちに行けば、海の見える公園があるの。とってもとっても海が見えるの。」
「そこに行くの?」
「そう、そこに行くの。」
公園は二百メートルほどのところにあった。
「ちょっと待って!」
スミレちゃんの声に、一平は、自転車を止めた。小さなスーパーがあった。スミレちゃんは降りると、バスケットを座席に置いて、スーパーの中に入って行った。何かを買って戻ってきた。にやっと笑って自転車に乗り込んだ。
「行きましょう!」
「何買ってきたの?」
「イチゴよ!」
「苺?」
自転車は、海の見える公園に入って行った。
「ここでいいわ。」
ちょっと高台の、ベンチのあるところで止まった。二人は、自転車を降りた。一平は、海を見た。
「わ〜〜〜、眺めがいなあ〜〜、こんなところがあったのかあ〜!」
「いいでしょう。」
「ああ、素晴らしい眺めだよ。」
「けんけん姉さんと、浦賀先生のところに来るときには、いつもここの公園に来るの。」
「ああ、そうなの。」
「そして、ここでイチゴを食べるの。」
「ここで、苺を食べるの?」
「ここで、海を見ながら食べると、とってもとっても美味しいの。」
「あ〜〜、そうなの。」
スミレちゃんは、レジ袋からイチゴを取り出した。イチゴは軽いプラスチックの容器に入っていた。
「さあ、食べましょう!」
「僕も食べていいの?」
「あたりまえでしょう!」
「じゃあ、食べようっと!」
二人は、仲良く食べだした。一平は、一つ掴むと、ぱくりと一口で食べた。
「わ〜〜〜、おいしいなあ〜!」
「でしょう!?」
風を感じながら食べるイチゴは、妙に美味しかった。
「そうか、イチゴは、こうやって外で食べるんだなあ〜。」
一平は、妙に新鮮に感じるイチゴの味に感心しながら、自分に言い聞かせるように食べていた。
「うん、おいしいなあ〜。新発見だあ〜!」
「でしょう〜!」
スミレちゃんは、ピクニックバスケットからポットを取りだした。
「あなたも、飲みます?」
「えっ、玄米茶?」
「ええ。」
「僕はいいよ。」
スミレちゃんは、ポットの蓋に玄米茶を注ぐと、美味しそうに飲み始めた。スミレちゃんは、一平を不気味に睨みながら、楽しそうに楽しそうに飲んでいた。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 16821