一平は、からくり狸のロボットの入っている箱を、自転車の前籠に入れようとした。 「あれ、スミレちゃん、これ何だっけ?中に何が入っているの?」 前籠には、ピクニックバスケットが入っていた。 「その中は、玄米茶の入っているポットが入っているのよ。」 「玄米茶?」 「暖かい玄米茶が入っているのよ。」 「玄米茶が好きなんだ?」 「とってもとっても美味しい玄米茶なの。」 「ああ、そう?」 「それ、取ってちょうだい。わたしが持つから。」 一平は、ピクニックバスケットを、スミレちゃんに渡した。 「はい。」 一平は、からくり狸の箱を、前籠に丁寧に入れた。スミレちゃんが注意した。 「網をかけておいたほうがいいわ。」 「あっ、そうだね。」 日頃、自転車に乗っていない一平は気が付かなかった。 「じゃあ、行きましょう!」 「よし、行こう!」 一平は、ペダルを軽く踏み込んだ。電動アシスト自転車はスムーズに走り出した。 「お〜〜〜、この自転車、軽快だなあ〜!」 「だって、日本一の発明家のお父さんが作ったんだもん!」 「そうだねえ〜!」 スミレちゃんは大きな声で歌いだした。 「ろ〜れん、ろ〜れん、ろ〜〜れん♪」 「何、それ?」 「きゃるびん、たるびん、さるびん、なるびん!」 「な〜に、それ?」 「ろ〜は〜いど〜!」 「なんだ、そりゃあ?」 スミレちゃんは、マイペースだった。 「あっちに行けば、海の見える公園があるの。とってもとっても海が見えるの。」 「そこに行くの?」 「そう、そこに行くの。」 公園は二百メートルほどのところにあった。 「ちょっと待って!」 スミレちゃんの声に、一平は、自転車を止めた。小さなスーパーがあった。スミレちゃんは降りると、バスケットを座席に置いて、スーパーの中に入って行った。何かを買って戻ってきた。にやっと笑って自転車に乗り込んだ。 「行きましょう!」 「何買ってきたの?」 「イチゴよ!」 「苺?」 自転車は、海の見える公園に入って行った。 「ここでいいわ。」 ちょっと高台の、ベンチのあるところで止まった。二人は、自転車を降りた。一平は、海を見た。 「わ〜〜〜、眺めがいなあ〜〜、こんなところがあったのかあ〜!」 「いいでしょう。」 「ああ、素晴らしい眺めだよ。」 「けんけん姉さんと、浦賀先生のところに来るときには、いつもここの公園に来るの。」 「ああ、そうなの。」 「そして、ここでイチゴを食べるの。」 「ここで、苺を食べるの?」 「ここで、海を見ながら食べると、とってもとっても美味しいの。」 「あ〜〜、そうなの。」 スミレちゃんは、レジ袋からイチゴを取り出した。イチゴは軽いプラスチックの容器に入っていた。 「さあ、食べましょう!」 「僕も食べていいの?」 「あたりまえでしょう!」 「じゃあ、食べようっと!」 二人は、仲良く食べだした。一平は、一つ掴むと、ぱくりと一口で食べた。 「わ〜〜〜、おいしいなあ〜!」 「でしょう!?」 風を感じながら食べるイチゴは、妙に美味しかった。 「そうか、イチゴは、こうやって外で食べるんだなあ〜。」 一平は、妙に新鮮に感じるイチゴの味に感心しながら、自分に言い聞かせるように食べていた。 「うん、おいしいなあ〜。新発見だあ〜!」 「でしょう〜!」 スミレちゃんは、ピクニックバスケットからポットを取りだした。 「あなたも、飲みます?」 「えっ、玄米茶?」 「ええ。」 「僕はいいよ。」 スミレちゃんは、ポットの蓋に玄米茶を注ぐと、美味しそうに飲み始めた。スミレちゃんは、一平を不気味に睨みながら、楽しそうに楽しそうに飲んでいた。
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