「たのも〜〜う!」 スミレちゃんの声に気付いた浦賀源内が出てきた。 「おやおや、スミレちゃんじゃないか。どうしたの?」 「ぽんぽこ狸のからくり人形を取りに来たんで〜す。」 「あっ、そうか。今日だったね。」 「そうで〜〜す。」 「ちょっと待って、門を開けるから。」 門の大きな扉が、霧のように消えた。一平はびっくりした。 「わっ、消えた!」 「これ、立体映像なの。」 「立体映像…、だったら、誰でも入れるんじゃないの?」 「入れるけど、警報が鳴って、警備ロボットが出てくるの。」 「なるほどね。」 浦賀源内先生が出てきた。 「入って。」 スミレちゃんは、「はい。」と言って入って行った。若者は、「おじゃまします。」と言って、入って行った。 芝生の庭には、大きな木のテーブルと椅子があった。浦賀源内が、微笑んで二人を迎えた。 「よく来たねえ、スミレちゃん。ここまでどうやって来たの?そちらの方は?」 「お客さまの、高坂さんです。」 一平が、ペコリと頭を下げ挨拶した。 「高坂一平です。」 「この人が運転して、スミレ号で来たんです。」 「スミレ号?」 「お父さんが作ってくれた、電動アシスト自転車スミレ号で来たんです。 「ほ〜〜、どんなん?」 「門の外に止めてあります。」 「持ってきて、見せてくれない?」 「いいですよ。」 一平が、「わたしが持ってきます。」と言って出て行った。すぐに戻ってきた。 スミレちゃんが、にこっと笑って指差した。 「これです。」 「ほほ〜〜〜。なかなか可愛くっていいじゃない。」 「いいでしょう〜〜〜!」 「ほ〜〜〜。ちょっと乗ってもいいかな。」 「いいですよ。」 浦賀源内は、乗る前に三輪自転車スミレ号の下を覗き込んだ。 「三段変則、三六ボルトのモーターかぁ…、なるほど。」 浦賀源内は、スミレ号にまたがった。 「ちょっと、芝生の上を走ってくる。」 走り出した。芝生の先端まで行って、戻ってきた。 「なるほど、負荷が重くなると、自動で電動アシストするんだね。おまけに回生ブレーキだ。」 「なあに、それ?」 「ブレーキで充電するんだよ。」 「ふ〜〜〜ん。」 「これ、気に入った!百万円で譲ってくれない?」 「これは駄目よ〜!」 「じゃあ、お父さんに頼んで、同じものを作ってくれないかなあ。ちょっと大きいのがいいかな。」 「聞いてみないと、分からないわ。」 「じゃあ、聞いてよ。電話持ってくるから。」 浦賀源内は、携帯電話を取りに家の中に戻ろうとした。一平が声を掛けた。 「あっ、電話だったら、ここにあります。」 浦賀源内は、「あっ、そう。」と言って、戻ってきた。 一平は、スミレちゃんに携帯電話を渡した。 「はい。これ使っていいよ。」 スミレちゃんは、浦賀源内に尋ねた。 「何て言えばいいの?」 「出たら、僕が話すよ。」 「分かったわ。ちょっと待っててね。」 スミレちゃんは、電話を掛けた。 「チェックメイトキングツー、チェックメイトキングツー、こちらスミレちゃん…」 浦賀源内は、目の上の空の一点を睨んだ。それから、口を開いた。 「おっかしいよ〜、スミレっちゃ〜ん!自分のことを、ちゃんだなんてぇ〜!」 「あら、そうかしら?」 「そうだよ。」 「チェックメイトキングツー、チェックメイトキングツー、応答せよ…、おう父さん…・」 一平は、思わずのけぞった。 「応答せよ、応答さん?なんだいそりゃあ?」 「…こちら、ボンジョビ。」 「こちら、ボンジョビ?なんのこっちゃあ〜?」 「こちら、ぼんじょびスミレ。」 「ボンジョビ・スミレ?なんのこっちゃあ〜?』 浦賀源内が諭(さと)した。 「スミレちゃん、無線機じゃないんだから、相手が出たら話せばいいんだよ。」 「あっ、そっか!」 源内先生は、首をひねっていた。 「スミレちゃんは、ときどき変なことをするよねえ?戦争にでも行ったのかな?」 スミレちゃんは、不気味に笑っていた。
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