黄色い交番が見えた。 「あそこの交番を、左に曲がると、縄文台に登る縄文坂よ。」 「縄文坂ね、オーライ!」 交番には、おまわりさんが帽子を深くかぶり、黙って立っていた。自転車は、交番を過ぎると左に曲がった。 「おまわりさんも、立ちっぱなしで大変ねえ。」 「午前と午後で交代で立ってるので、大丈夫だよ。」 「そうなの。詳しいわねえ。おまわりさんって何でも知ってるけど、大学出てるの?」 「交番にいるのは、高校出の巡査って言うの。」 「じゅんさ?」 「おまわりさんのことだよ。」 「ふ〜ん、詳しいのねえ。」 一平は、目の前の坂道に驚いた。 「ぅわ〜、長そうだなあ、この坂!」 「だいじょうぶ?」 若者は、自動電動アシストの三輪自転車スミレ号は、自動で坂道アシストモードに切り替わった。 「お〜〜、凄いな、これ!」 「だいじょうぶ?」 「これは、凄い自転車だなあ〜!」 「らくちん?」 「らくちん、らくちん!」 自転車は、あっと言う間に高台に辿り着いた。 「わ〜〜、眺めがいいなあ〜!」 「町が、すべて見えるわ。」 高台には、絵本から出たような、おもちゃのような家々が争うように建っていた。まだ土地だけのところがあり、売られていた。 「人間は、勝手に山の木々を切り倒し、他の動物たちを追い出して、土地を売ったり買ったりしているわ。大地は、人間だけのものではないわ。」 「そうだね。」 「大地は、だれのものでもないわ。」 「そうだね。」 「こんなことをしてたら、きっと神様の罰(ばち)があたるわ。」 「もう、罰があたっているんだよ。この汚い空を見てよ。」 「ほかの動物たちには、ひどい迷惑だわ。」 「そうだね。人間は、人間のことだけしか考えていないんだよ。」 「法律を作ればいいんだわ。」 「法律はあるけど、それは人間だけの法律だよ。」 「だったら、やっぱり人間は、自然界の悪だわ。」 「そうだね。」 「悪は、きっと滅びるわ。」 「きっと、人間は百年後にはいなくなっているよ。」 高台の高いところに、大きな鉄塔が見えていた。 「あそこよ。」 「あの鉄塔のところ?」 「そうよ。レッツ・ゴー!」 「ここには、妖精も妖怪もいないねえ?」 「こんなところにはいないわ。」 「どうして?」 「こんなところには来ないわ。」 「どうして?」 「こんな、何もない寂しい禿山には来ないわ。」 「何もない禿山?ふ〜〜〜ん、そうなの?」 スミレ号は、間もなく鉄塔の近くに着いた。 二メートルほどの金網の向こうに、鉄塔はそびえていた。 「高いなあ〜、十階建てくらいはあるね。これ何なの?」 「カミナリを拾ってるの。」 「カミナリを拾ってる?カミナリ避けの避雷針じゃないの?」 「カミナリの電気を拾って、集めているの。」 「電気を集めてる?」 「鉄塔の隣の建物に、電気を集めているの。」 鉄塔の隣には、三メートルくらいの真四角の窓のない黄色い建物があった。大きく、<危険>と書いてあった。 「集めて、どうするの?」 「カミナリの電気を集めて、みんなに安くで売るの。」 「ほんと〜〜!?」 「ほんとよ。」 「凄いねえ〜。超エコだねえ〜。」 「でも、ときどき集めるのに失敗して、爆発して建物が燃えるの。」 「それは危ないなあ〜。」 「だから、建物の周りに水鉄砲があるの。」 「あ〜〜、あれで、放水して火を消すんだね?」 「そうなの。」 金網の向こうは、ゴルフ場みたいに芝生になっていた。所々に木が植えられていた。 遠く離れたところに、二階建ての家があった。 「あそこが、浦賀源内先生の住んでいる家よ。」 「ここから百メートルはあるよ。」 「爆発して危ないから、離して建ててあるの。」 「じゃあ、あそこまで行こう。」 大きな門があった。呼び鈴がついていた。 「ここだね。呼び鈴を押そうか?」 「それは偽者よ。押すと、ロボットの犬が吠えながら出てくるだけだわ。」 「えっ、じゃあどうするの?」 「ちょっと待って。」 スミレちゃんは、門の向こうの金網を覗き込んだ。大きな声で叫んだ。 「たのも〜〜う!」 「頼もう…、まるで時代劇だなあ。」 「あっ、浦賀源内先生が、唄いながら庭で柔軟体操をやってるわ。」
右見て 左見て 柔軟体操やわらか体操 上見て 下見て 柔軟体操やわらか体操 身体と心が硬くなったら 人生終わりだ 柔軟体操やわらか体操
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