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作品名:シュールミント 作者:毬藻

第82回   浦賀源内からくり屋敷
黄色い交番が見えた。
「あそこの交番を、左に曲がると、縄文台に登る縄文坂よ。」
「縄文坂ね、オーライ!」
交番には、おまわりさんが帽子を深くかぶり、黙って立っていた。自転車は、交番を過ぎると左に曲がった。
「おまわりさんも、立ちっぱなしで大変ねえ。」
「午前と午後で交代で立ってるので、大丈夫だよ。」
「そうなの。詳しいわねえ。おまわりさんって何でも知ってるけど、大学出てるの?」
「交番にいるのは、高校出の巡査って言うの。」
「じゅんさ?」
「おまわりさんのことだよ。」
「ふ〜ん、詳しいのねえ。」
一平は、目の前の坂道に驚いた。
「ぅわ〜、長そうだなあ、この坂!」
「だいじょうぶ?」
若者は、自動電動アシストの三輪自転車スミレ号は、自動で坂道アシストモードに切り替わった。
「お〜〜、凄いな、これ!」
「だいじょうぶ?」
「これは、凄い自転車だなあ〜!」
「らくちん?」
「らくちん、らくちん!」
自転車は、あっと言う間に高台に辿り着いた。
「わ〜〜、眺めがいいなあ〜!」
「町が、すべて見えるわ。」
高台には、絵本から出たような、おもちゃのような家々が争うように建っていた。まだ土地だけのところがあり、売られていた。
「人間は、勝手に山の木々を切り倒し、他の動物たちを追い出して、土地を売ったり買ったりしているわ。大地は、人間だけのものではないわ。」
「そうだね。」
「大地は、だれのものでもないわ。」
「そうだね。」
「こんなことをしてたら、きっと神様の罰(ばち)があたるわ。」
「もう、罰があたっているんだよ。この汚い空を見てよ。」
「ほかの動物たちには、ひどい迷惑だわ。」
「そうだね。人間は、人間のことだけしか考えていないんだよ。」
「法律を作ればいいんだわ。」
「法律はあるけど、それは人間だけの法律だよ。」
「だったら、やっぱり人間は、自然界の悪だわ。」
「そうだね。」
「悪は、きっと滅びるわ。」
「きっと、人間は百年後にはいなくなっているよ。」
高台の高いところに、大きな鉄塔が見えていた。
「あそこよ。」
「あの鉄塔のところ?」
「そうよ。レッツ・ゴー!」
「ここには、妖精も妖怪もいないねえ?」
「こんなところにはいないわ。」
「どうして?」
「こんなところには来ないわ。」
「どうして?」
「こんな、何もない寂しい禿山には来ないわ。」
「何もない禿山?ふ〜〜〜ん、そうなの?」
スミレ号は、間もなく鉄塔の近くに着いた。
二メートルほどの金網の向こうに、鉄塔はそびえていた。
「高いなあ〜、十階建てくらいはあるね。これ何なの?」
「カミナリを拾ってるの。」
「カミナリを拾ってる?カミナリ避けの避雷針じゃないの?」
「カミナリの電気を拾って、集めているの。」
「電気を集めてる?」
「鉄塔の隣の建物に、電気を集めているの。」
鉄塔の隣には、三メートルくらいの真四角の窓のない黄色い建物があった。大きく、<危険>と書いてあった。
「集めて、どうするの?」
「カミナリの電気を集めて、みんなに安くで売るの。」
「ほんと〜〜!?」
「ほんとよ。」
「凄いねえ〜。超エコだねえ〜。」
「でも、ときどき集めるのに失敗して、爆発して建物が燃えるの。」
「それは危ないなあ〜。」
「だから、建物の周りに水鉄砲があるの。」
「あ〜〜、あれで、放水して火を消すんだね?」
「そうなの。」
金網の向こうは、ゴルフ場みたいに芝生になっていた。所々に木が植えられていた。
遠く離れたところに、二階建ての家があった。
「あそこが、浦賀源内先生の住んでいる家よ。」
「ここから百メートルはあるよ。」
「爆発して危ないから、離して建ててあるの。」
「じゃあ、あそこまで行こう。」
大きな門があった。呼び鈴がついていた。
「ここだね。呼び鈴を押そうか?」
「それは偽者よ。押すと、ロボットの犬が吠えながら出てくるだけだわ。」
「えっ、じゃあどうするの?」
「ちょっと待って。」
スミレちゃんは、門の向こうの金網を覗き込んだ。大きな声で叫んだ。
「たのも〜〜う!」
「頼もう…、まるで時代劇だなあ。」
「あっ、浦賀源内先生が、唄いながら庭で柔軟体操をやってるわ。」

 右見て 左見て 柔軟体操やわらか体操
  上見て 下見て 柔軟体操やわらか体操
    身体と心が硬くなったら 人生終わりだ 柔軟体操やわらか体操



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