「浦賀源内先生の家は、どこにあるの?」 「平成町の先の、縄文台にあるわ。」 平成町は、海を埋め立てた新しい町だった。潮の匂いのする風が吹いていた。 歩道は広く、多くの人やカラフルな自転車が往来していた。 「大きな町だなあ。」 「遠くの空が、真っ赤に燃えているわ。」 「どこかなあ?」 「日本と反対側の空よ。沢山の人々が焼けているわ。」 「大変だ…」 「人々が、森の木を切っているわ。動物たちが逃げているわ。可哀想だわあ。」 「動物たちも死んじゃうね。」 「このままだと、日本も夏になったら、たくさんの人々が焼け死んでしまうわ。」 「早く二酸化炭素を減らさないと、大変なことになるね。」 「どうしたら減るのかしら。」 「きっと、人間が多すぎるんだよ。」 向うの山の方で、雷神(らいじん)が狂ったように、どっかんどっかんと稲妻を落としているわ。」 「近くなの?」 「とっても遠くの空よ。」 「こっち来るの?」 「怒りん坊の雷神(らいじん)に聞かないと、分からないわ。」 「そうか…」 「あそこの招き雷が立っている柳屋を過ぎると、縄文台よ。」 「まねきかみなり…、あっ、ほんとだ!」 一平は、目を凝らして見た。 「雷神が、大時計を持って、手招きしている。面白いなあ〜。」 一階建ての大きくって白い柳屋の上の招き雷の時計は、二時半を指していた。 「お昼になると、立ち上がって、歌を唄うの。」 「え〜〜〜、ほんと!どんな歌を歌うの?」 「こんな歌よ。」
神鳴りゴロゴロゴロゴロ 涙雨 神鳴りゴロゴロゴロゴロ 涙雨 昔の青空どこ行った 神鳴りゴロゴロゴロゴロ 涙雨
「なんだか、悲しい歌だなあ。」 「浦賀源内先生が、からくりを考えたのよ。」 「たいしたもんだなあ。歌は誰がつくったの?」 「わたしが作ったの。」 「スミレちゃんが、作ったの!?」 「ええ、そうよ。」 「たいしたもんだな〜!」 「雷神さんの前で止めて。」 一平は、言われるままに三輪自転車スミレ号を止めた。 「柳屋の社長さんは、アイデア上手なの。」 「UFOみたいなのが、屋上に乗っかってるよ。」 「社長さんの事務所よ。」 「今にも飛んで行きそうだね。」 「飛んだら面白いわ。」 スミレちゃんは、手を合わせた。 「雷神さま、どうか馬鹿な人間たちを許してください。」 一平も、手を合わせた。 「馬鹿な人間たちを許してください。」 「さあ、行きましょう!」 後ろから、男の声が聞こえた。 「俺も、お参りして行くか。」 男は、目を閉じ手を合わせ、頭を下げていた。 「馬鹿な人間を許してください。」 スミレちゃんは、男の顔を見た。 「あっ、漁師の寅次郎さん。」 「よっ、スミレちゃん、おめでとう。」 「あけましておめでとうございます。」 「ちっとも、おめでたくないけどね。」 漁師の寅次郎は、一平を見て尋ねた。 「こっちの人は?」 「お客様の、高坂一平さんです。」 一平は、頭を下げた。 「あけまして、おめでとうございます。」 「おめでとう。遊びで来たの?」 「まあ、そうです。」 「いいねえ。」 漁師の寅次郎は、長靴を履いていた。 「こちとら、朝から船の掃除だよ。いい自転車に乗ってるねえ。」 「お父さんに作ってもらったの。」 「かっこいいなあ。」 「寅次郎さんは、仕事なの?」 「それだったら、いいけどね。油が高くて漁に行けないんだよ。」 「そんなに高いの?」 「ああ、大変だよ。それに、行っても、ろくなの獲れないしね。」 「どうして?」 「海水温が上がってて、クラゲや売れない変な魚ばっかりだよ。」 「そうなんだ。」 「エイとかも出てくるし、困ったもんだよ。」 「エイって、飛行機みたいなやつね。」 「そうだよ。あいつは、尾っぽで刺すから怖いんだよ。」 「とっても大変そうね。」 「あっ、そうだ。博士のお父さん、ソーラー漁船を作れないかなあ?」 「そーらーぎょせん?」 「テレビで見たんだよ。屋形船(やかたぶね)みたいなやつで、太陽で動くんだよ。」 「さ〜、どうかしら。」 「駄目かなあ。」 「行って、聞いてみるといいわ。」 「そうしよう。じゃあね、スミレちゃん。」 漁師の寅次郎は、百鬼夜行海岸の方に向かって歩き出した。 「わたしたちも、行きましょう!」 「そうだね。」 「れっつ、ご〜〜!」 スミレ号は、縄文台に向かって走り出した。
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