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作品名:シュールミント 作者:毬藻

第80回   ペペロンチーノ
コンビニの前だった。りゅうじ達不良グループ三人は、その前に腰を落として座っていた。
着飾った婦人が歩いてきた。
「あ〜〜ら、不潔。下品な人たちねえ。」
りゅうじが、婦人を眉を吊り上げて見上げた。強い香水の臭いに、りゅうじはむせた。
「なんだと?ガソリンばばあ!」
婦人は、首を少し傾げた。いつもの、婦人の仕草だった。
「ま〜〜、下品な言葉!」
「旦那の金で、一日中、外車乗り回して、ガソリン臭えんだよ!」
りゅうじの隣の、うんこ座りの茶髪の娘が、婦人を睨んだ。
「どっちが、不潔で下品なんだよ〜!」
「僻んでいるのね。」
茶髪の若い女は、ガムを噛んでいた。
「ば〜〜か。」
「可哀想な人たちねえ。」
「どっちが、可哀想なんだよ。」
ホームレスのおじさんが、婦人の横を通り過ぎて行った。
「ま〜不潔。今に、ああいう風に人間の屑になっちゃうわよ。」
「どっちが、人間の屑なんだよ。」
「他人に迷惑をかけちゃあ、駄目よ。」
と言い残し、婦人は、コンビニの駐車場に止めてある銀色のジャガーに乗り込むと、二酸化炭素を吐き出して、歩行者と地球に迷惑をかけながら走り去って行った。近くにいた喘息の七歳くらいの子供が、苦しそうに咳をしていた。
りゅうじは、子供に駆け寄った。
「坊や、大丈夫か?」
「だいじょうぶ!ごほん、ごほん!」
りゅうじは、子供の背中をさすってやった。
「どっちが迷惑をかけてんだよ!」
頭脳警察のパトロールカー・パンタが通り過ぎて行った。

 え〜〜〜、こちら頭脳警察
  社会に迷惑をかける 人間のクズ 人間のクズがありましたら〜
 直ちに 直ちに お伺いにまいります〜


その頃、スミレちゃんは、森の公園の西出口近くを走っていた。遠くの空を見ていた。
「大空の泣き声が聞こえるわ。遠くの空が、狂って暴れているわ。」
「どのあたり?」
「とっても遠くよ。早くなんとかしないと、こっちまでやってくるわ。」
「…もう遅いよ。」
「遠くの大地で、キリンが燃えながら歩いているわ。とってもとっても怖い風景だわ。」
「…燃えるジラフ、サルバドール・ダリの世界だ。」
「みんな、風と暑さで死んでしまうわ。」
「もう駄目だよ。もう遅いよ。」
「木を植えましょうよ。」
「大きくなるまで、百年はかかるよ。」
「そうですね。」
「壊すのは簡単だけど、作るのは大変だよ。」
「そうですね。」
「もう、終わりだな。」
「死んでもいいの?」
「しょうがないね。自業自得だよ。」
「一平さんも死ぬのよ。」
「人間、いつかは死ぬんだよ。」

 人々は 満たされぬ心を宿したまま ひたすらに彷徨い歩き続ける
  疲れた大地の上を 汚れた大気のなかを いったいどこに行くのだろう
   欲望の果て もうここには 人々の住む場所はない あの頃の 綺麗な大地は 澄んだ青空は

 もうここにはない

二人は、公園を出た。
公園の近くには、有名な高級イタリアンレストランがあった。
一平は、三輪自転車スミレ号を止めた。
「かっこいい建物だなあ!」
「有名なイタリア料理のレストランよ。」
「値段、高そうだね。」
「入ったこともないし、食べたこともないから、知らないわ。」
「帰りに入ってみようか?」
「こんなところ、入りたくないわ。」
「ああ、そう。」
一平は、再び走り出そうとした。スミレちゃんが止めた。
「あっ、ちょっと待って!」
「どうしたの?」
「ガソリンばばあだ。」
駐車場で、婦人が手を振っていた。近づいて来た。
「スミレちゃん。あけまして、おめでとう。」
スミレちゃんは、頭をペコリと下げた。
「あけまして、おめでとうございます。」
「この方は?」
「高坂一平さんです。お客様です。」
「ああ、そうなの。」
一平も、スミレちゃんのように頭を下げた。
「あけまして、おめでとうございます。」
婦人は、微笑んだ。
「なかなかの、イケメンじゃない。」
スミレちゃんは、一平の顔を覗き込んだ。
「そうかしら?」
「スミレちゃんも食べていかない?」
「けっこうです。お腹いっぱいです。」
「ペペロンチーノだったら、食べられるんじゃない。」
「ペペロンチーノ?」
「ペペロンチーは、イタリアの、お茶漬けみたいなものよ。」
「ふ〜〜ん。」
「食べていかない?」
「けっこうです。急いでいるので。」
「じゃあ、今度ね。」
スミレちゃんは、一平に命令した。
「さあ、行きましょう。一平さん。」
三輪自転車スミレ号は、平成町に向かって走り出した。



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