20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:シュールミント 作者:毬藻

第79回   カール・マルクス
カール・マルクスは立ち去ろうとした。
スミレちゃんが叫んで呼び止めた。
「ちょおっと、待った〜ぁ!マルクスのおじさん!」
スミレちゃんは、三輪自転車スミレ号から飛び降りた。スミレちゃんの気迫に一平は、びっくりした。
カール・マルクスは、何事かと振り向いた。
「なにか、ご用かな?」
スミレちゃんは、マルクスの前に、すたすたと歩み寄った。
「人は皆、自由の刑に処せられている!なぜ人を責める!?」
マルクスは、首を傾げた。そして、スミレちゃんを微笑みながら見た。
「自由の刑に処せられている?」
「そうだ!人は皆、自由の刑に処せられている!」
「ほほほ〜〜、面白いことを言うねぇ、君は!」
「なぜ、人を責める!?人の欲望を責める!?」
「おもしろいなあ〜!気に入った!名は何という?」
「スミレでぇえ〜す!」
「スミレちゃんか。君は妖精かな?」
「そうで〜〜す!」
「もし、欲望を自由というなら…」
「なら、どうする!?」
スミレちゃんは、必死で応戦していたが、自分でも言ってる意味が分からなかった。ただ、無意識に立ち向かっていた。何かが、スミレちゃんを突き動かしていた。
マルクスの目は鋭く光っていた。
「欲望を満足させても、自由は得られないよ。」
スミレちゃんの目は、寄り目になっていた。
「じゃあ、自由とは、何とする!?カール・マルクス!?」
「自由とは…」
「自由とは!?亡霊らしく、はっきりと正直に答えなさい!」
「自由とは…」
「亡霊らしく、見栄を張らずに、正直に答えなさい!」
カール・マルクスは、微笑みながら答えた。
「君は実に面白い!」
「そんなことは、どうでもよい!答えなさい!」
「自由とは…」
「自由とは?何とする!?」
「自由とは、必然性の認識である!以上。」
「……」
「分かったかな?」
スミレちゃんは、寄り目になっていた。深く考え込んでいた。とっても予期しない答えに、スミレちゃんの頭は四方八方に戸惑っていた。マルクスは、とっても笑顔だった。
「おもしろいねぇ、スミレちゃんは〜!」
「カール・マルクスのおじさん。あなた、いったい何者?」
マルクスは、微笑みながら答えた。
「君こそ、変な妖精だねえ。はじめて見たよ。」
「どういたしまして。」
「妖精は、その昔、キリスト教に迫害され、人間に迫害されていたんだろう?」
「ええ、そうです。」
「だったら、いい気味じゃないか。」
マルクスは、微笑みながら優しくスミレちゃんの頭を撫でた。
「またどこかで逢おう、スミレちゃん!」
そう言うと、マルクスは去って行った。
スミレちゃんは、去り行くマルクスの後姿を、暫く睨んでいた。
マルクスが消えようとしたとき、彼は振り返った。
「おもしろい!」
大声で、そう言うと消えて行った。
スミレちゃんは、大きな声に驚いた。
「あ〜〜、びっくりした!なぁに、あの人!?」
スミレちゃんは、暫く消えた場所を睨んでいた。
一平が声をかけた。
「スミレちゃん、何やってんだよ〜!」
「う〜〜ん、あやつ、できる…、いったい何者だ?」
「行くよ!」
「分かったわ!」
アダム・スミスは、肩を落として工事現場を眺めていた。
スミレちゃんは、彼の背中を、ポンと叩いた。
「あなたのせいじゃないわ。きっと、その時代の人々の欲望が、そうさせたのよ。」
彼は、無言だった。
スミレちゃんは、三輪自転車の後ろの、スミレちゃん座席に乗り込んだ。一平が尋ねた。
「何の話、してたの?」
「別に。」
「変なスミレちゃん。まるっきし、行動がちんぷんかんぷんだよ。」
「ときどき、ちんぷんかんぷんになるの。わたしにも分からないの。何かが、こうさせるの。」
「何やってたの?」
「う〜ん、あやつ、なかなか大したもんだ…」
「何が、大したもんなの?」
何が大したものなのか、スミレちゃん自身にも分からなかった。スミレちゃんの目は、空の一点を懸命に睨んでいた。
「カール・マルクスって、誰なの?」
「カール・マルクス…、経済学者だよ。」
「昔の人?有名な人なの?」
「有名な人だよ。共産主義を考え出した人だよ。」
「きょうさんしゅぎ?」
「簡単に言うと、みんな平等っていう考え方だよ。」
「人間が?」
「そう。人間の社会が。」
「じゃあ、社長も社員も同じなの?」
「そうだよ。社長ってのがないんだよ。」
「社長さんがいなかったら、会社は大変だわ〜。」
「会社もないんだよ。」
「え〜〜〜、会社も無いの〜!?」
「国が会社なんだよ。大きな一つの会社なんだよ。会社とは言わないけどね。」
「お役所の人みたい。」
「まあ、そうだね。みんな、お役所の人になるんだよ。」
「みんな、お役所の人になるの?」
「そう。」
「じゃあ、みんな同じ給料なの?」
「少しは違うけど、そうだよ。」
「ふ〜〜〜ん…、とっても難しいことを考えてた人なのね。」
「そうだね。」
「そんな国あるの?」
「あるよ、キューバとかね。」
「そこの国は、みんな平等なの?」
「行ったことないけど、平等なんだろうね。」
「自然界には、みんな平等なんて、どこにも無いわ。」
「そうだね。」
「それは、とっても難しいことだわ。」
「そうだね。」
「その国には、カール・マルクスのような人がいたの?」
「キューバのこと?」
「そう。」
「キューバには、有名な革命家の、チェ・ゲバラがいたんだよ。」
「どうして知ってるの?」
「むかし、チェ・ゲバラという映画を見たんだよ。」
「なあんだ。」
「チェ・ゲバラは戦って、キューバを作ったんだよ。そして戦って死んだんだよ。」
「平等な世の中のために戦って死んだの?」
「そうだよ。それが革命家なんだよ。」
「革命家って、なあに?」
「革命家とは、自分を犠牲にしても世の中を変える人のことだよ。坂本竜馬みたいな。」
「さかもとりょうま?」
「日本を大きく変えた人だよ。日本の未来のために。」
「さかもとりょうま…」


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 16821