カール・マルクスは立ち去ろうとした。 スミレちゃんが叫んで呼び止めた。 「ちょおっと、待った〜ぁ!マルクスのおじさん!」 スミレちゃんは、三輪自転車スミレ号から飛び降りた。スミレちゃんの気迫に一平は、びっくりした。 カール・マルクスは、何事かと振り向いた。 「なにか、ご用かな?」 スミレちゃんは、マルクスの前に、すたすたと歩み寄った。 「人は皆、自由の刑に処せられている!なぜ人を責める!?」 マルクスは、首を傾げた。そして、スミレちゃんを微笑みながら見た。 「自由の刑に処せられている?」 「そうだ!人は皆、自由の刑に処せられている!」 「ほほほ〜〜、面白いことを言うねぇ、君は!」 「なぜ、人を責める!?人の欲望を責める!?」 「おもしろいなあ〜!気に入った!名は何という?」 「スミレでぇえ〜す!」 「スミレちゃんか。君は妖精かな?」 「そうで〜〜す!」 「もし、欲望を自由というなら…」 「なら、どうする!?」 スミレちゃんは、必死で応戦していたが、自分でも言ってる意味が分からなかった。ただ、無意識に立ち向かっていた。何かが、スミレちゃんを突き動かしていた。 マルクスの目は鋭く光っていた。 「欲望を満足させても、自由は得られないよ。」 スミレちゃんの目は、寄り目になっていた。 「じゃあ、自由とは、何とする!?カール・マルクス!?」 「自由とは…」 「自由とは!?亡霊らしく、はっきりと正直に答えなさい!」 「自由とは…」 「亡霊らしく、見栄を張らずに、正直に答えなさい!」 カール・マルクスは、微笑みながら答えた。 「君は実に面白い!」 「そんなことは、どうでもよい!答えなさい!」 「自由とは…」 「自由とは?何とする!?」 「自由とは、必然性の認識である!以上。」 「……」 「分かったかな?」 スミレちゃんは、寄り目になっていた。深く考え込んでいた。とっても予期しない答えに、スミレちゃんの頭は四方八方に戸惑っていた。マルクスは、とっても笑顔だった。 「おもしろいねぇ、スミレちゃんは〜!」 「カール・マルクスのおじさん。あなた、いったい何者?」 マルクスは、微笑みながら答えた。 「君こそ、変な妖精だねえ。はじめて見たよ。」 「どういたしまして。」 「妖精は、その昔、キリスト教に迫害され、人間に迫害されていたんだろう?」 「ええ、そうです。」 「だったら、いい気味じゃないか。」 マルクスは、微笑みながら優しくスミレちゃんの頭を撫でた。 「またどこかで逢おう、スミレちゃん!」 そう言うと、マルクスは去って行った。 スミレちゃんは、去り行くマルクスの後姿を、暫く睨んでいた。 マルクスが消えようとしたとき、彼は振り返った。 「おもしろい!」 大声で、そう言うと消えて行った。 スミレちゃんは、大きな声に驚いた。 「あ〜〜、びっくりした!なぁに、あの人!?」 スミレちゃんは、暫く消えた場所を睨んでいた。 一平が声をかけた。 「スミレちゃん、何やってんだよ〜!」 「う〜〜ん、あやつ、できる…、いったい何者だ?」 「行くよ!」 「分かったわ!」 アダム・スミスは、肩を落として工事現場を眺めていた。 スミレちゃんは、彼の背中を、ポンと叩いた。 「あなたのせいじゃないわ。きっと、その時代の人々の欲望が、そうさせたのよ。」 彼は、無言だった。 スミレちゃんは、三輪自転車の後ろの、スミレちゃん座席に乗り込んだ。一平が尋ねた。 「何の話、してたの?」 「別に。」 「変なスミレちゃん。まるっきし、行動がちんぷんかんぷんだよ。」 「ときどき、ちんぷんかんぷんになるの。わたしにも分からないの。何かが、こうさせるの。」 「何やってたの?」 「う〜ん、あやつ、なかなか大したもんだ…」 「何が、大したもんなの?」 何が大したものなのか、スミレちゃん自身にも分からなかった。スミレちゃんの目は、空の一点を懸命に睨んでいた。 「カール・マルクスって、誰なの?」 「カール・マルクス…、経済学者だよ。」 「昔の人?有名な人なの?」 「有名な人だよ。共産主義を考え出した人だよ。」 「きょうさんしゅぎ?」 「簡単に言うと、みんな平等っていう考え方だよ。」 「人間が?」 「そう。人間の社会が。」 「じゃあ、社長も社員も同じなの?」 「そうだよ。社長ってのがないんだよ。」 「社長さんがいなかったら、会社は大変だわ〜。」 「会社もないんだよ。」 「え〜〜〜、会社も無いの〜!?」 「国が会社なんだよ。大きな一つの会社なんだよ。会社とは言わないけどね。」 「お役所の人みたい。」 「まあ、そうだね。みんな、お役所の人になるんだよ。」 「みんな、お役所の人になるの?」 「そう。」 「じゃあ、みんな同じ給料なの?」 「少しは違うけど、そうだよ。」 「ふ〜〜〜ん…、とっても難しいことを考えてた人なのね。」 「そうだね。」 「そんな国あるの?」 「あるよ、キューバとかね。」 「そこの国は、みんな平等なの?」 「行ったことないけど、平等なんだろうね。」 「自然界には、みんな平等なんて、どこにも無いわ。」 「そうだね。」 「それは、とっても難しいことだわ。」 「そうだね。」 「その国には、カール・マルクスのような人がいたの?」 「キューバのこと?」 「そう。」 「キューバには、有名な革命家の、チェ・ゲバラがいたんだよ。」 「どうして知ってるの?」 「むかし、チェ・ゲバラという映画を見たんだよ。」 「なあんだ。」 「チェ・ゲバラは戦って、キューバを作ったんだよ。そして戦って死んだんだよ。」 「平等な世の中のために戦って死んだの?」 「そうだよ。それが革命家なんだよ。」 「革命家って、なあに?」 「革命家とは、自分を犠牲にしても世の中を変える人のことだよ。坂本竜馬みたいな。」 「さかもとりょうま?」 「日本を大きく変えた人だよ。日本の未来のために。」 「さかもとりょうま…」
|
|