20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:シュールミント 作者:毬藻

第78回   人間なんて!
スミレちゃんは、大きな声で、チャイナ服の美女に質問した。
「さようならは、何て言うんでしょうか?」
すると、彼女は即座に微笑んで答えた。
「ザイ・ジェンよ。」
スミレちゃんは、手を振った。それから大きな声で言った。
「ザイ・ジェン!」
スミレちゃんは、一平のお尻を叩いた。
「れっつご〜!」
一平は、仕方なくペダルを踏み込んだ。チャイナ服の美女は、慌てて止めた。
「あっ、ちょっと待って!」
カードを、若者に手渡した。若者は、黙って受け取った。
「レッスン1修了カードです。次回これを見せてください。」
「あっ、はい!必ず来ます!」
スミレちゃんは、若者に命令した。「れっつご〜、一平〜!」
三輪自転車スミレ号は走り出した。
「必ず来ますって、ずいぶんと暇ですねえ!」
「あいさつだよ、挨拶。」
「あなたって、気が多いのね。」
森の公園の中央あたりでは、なにやら大きな工事が行われていた。
「凄いクレーンだなあ。」
一平は、思わず自転車を止めた。
「地下工事みたいだなあ…」

 【 猛暑緊急避難用地下シェルター 工事中 】

「猛暑緊急避難用地下シェルター。」
「何に使うの?」
「暑くなったら、ここに非難するんだよ。」
「ふ〜ん。人間は大変ね。」
「スミレちゃんは、大丈夫なの?」
「妖精は、いろんなものに変身できるし、妖精は大地があれば、大地の中に隠れるから、暑くても大丈夫なの。」
「いいねえ。」
「どうして暑くなるの?」
「二酸化炭素が増えるからだよ。」
「どうして?」
「人間が、無闇に物を燃やしたり、無闇に自動車で動き回るからだよ。」
「だったら、お釈迦様のように、ゆっくり考えて、きちんと間違いなく動きましょうよ。」
「偉い人間はできるけど、馬鹿には無理だよ。」
「どうして?」
「そんなの、馬鹿にはできないよ。馬鹿は自己中心で欲望だけで生きているから。」
「無理でもやらなきゃあ。人間はみんな死んでしまうわ。」
「みんなが、お釈迦様になるなんて、そんなことは絶対に無理だよ!」
「なんでなの?」
「なんでなのって…、無理なの!」
「じゃあ、馬鹿は殺しましょうよ。」
「えっ!?スミレちゃんは時々ハードボイルドなこと言うねえ。」
「ハードボイルド?」
「皆殺しの映画がみたいなことを言うねえ。」
「わ〜〜〜、それ面白そうだわ〜!悪い奴は、みんな一人残らず殺せばいいわ!きっと平和な世の中になるわ。」
「残酷な映画だよ。」
「人間は、平気で、牛や豚を殺して食べているわ。そっちのほうが残酷だわ。」
「牛や豚と、人間は違うよ。」
「どこが違うの?」
「どこって、魂が違うよ。人間は利口で尊いんだよ。」
「とうとい?」
「偉いの。」
「そうかしら?無闇に自動車で動き回って、自然や他の生物に迷惑をかけているわ。どこが利口なの?どこが偉いの?」
「まあ、そういう人もいるけどさ。」
「人間は、生物の敵、大地の敵だわ!」
「今、いろいろと学習しているんだよ。」
「学習したら、お釈迦様みたいになれるの?」
「そりゃあ、無理だね。」
「だったら、やっぱり、皆殺しよ!」
「結局、そうなっちゃうんだなあ〜?まるで、ヒットラーみたいだなあ〜。」
「ヒットラー?」
「昔、そういう人がいたんだよ。」
「その人、偉い人だわ〜!」
「ちっとも偉くなんかないよ。気に入らない人間は、皆殺しにしたんだから。」
「きっと、馬鹿を皆殺しにしたんだわ。気持ちがいいことだわ〜!」
「馬鹿じゃなくって、気に入らない人間。そういうのは、人間じゃないって殺したの。」
「そういう、ちゃんとした人もいたんだねえ。」
「ちゃんとした?」
「他の動物は、ルールを乱す仲間は、平気で殺すわ。全体のために。」
「人間が人間を殺さなくても、温暖化によって、病気や食料不足で死んじゃうよ。自業自得だね。」
「一平さんも、死んじゃうの?」
「多分ね。」
スミレちゃんは、悲しい顔になって黙った。泣き出しそうな表情になっていた。
「誰が悪いの?」
「人間の本能かな、それとも社会システムが悪いのかな…」
背後から、白人の亡霊がやってきた。
「なんということだ…」
一平は振り返った。
「あなたは誰ですか?」
「アダム・スミスです。」
「あだむすみす…」
一平は、どこかで聞いたような名前だったが、思い出せなかった。
「ここまでは予期していなかったよ、地球環境のことまでは…」
アダム・スミスの背後から、笑い声が聞こえた。
「はははははは、所詮そんなものだよ。人間の欲望に任せた君の経済学なんて。」
アダム・スミスは、振り返った。
「君は、科学的社会主義のカール・ハインリヒ・マルクス!」
それは、マルクスの亡霊だった。マルクスは、勝利したような表情で、皮肉っぽく微笑んでいた。
「神の見えざる手は、悪魔の見えざる手になってしまったようだね。実に滑稽なはなしだね。」
アダム・スミスは、反論しなかった。できなかった。
マルクスは、言葉の鉄槌を彼に加えた。
「人間の欲望に任せたシステムなんて、所詮こんなものだよ。はっははは!」
マルクスは、勝利したように笑っていた。



← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 16821