「ガソリン猿人たちが、ガソリンを奪い合ってるので、ガソリンスタンドには、近づかないほうがいいわ。」 「わかりました。」 「八当たりガソリン猿人も多いから。」 「わかりました。」 「ニュースで、噛みつき猿人間キーキーが増えてるって言っていたわ。」 「噛みつき猿人間キーキーが増えているんですか?」 「はい。」 「言ってることに逆らうと、鼻を噛みつかれるから、相手にしたら駄目です。」 「分かりました!」 スミレちゃんも、元気よく答えた。 「わかりました〜〜、隊長〜!」 「スミレちゃん、じゃあ行こうか!」 「兄貴、れっつ、ごぉ〜〜!」 「兄貴?」 「じゃあ、なんて言おうかな?」 「一平で、いいよ。」 スミレちゃんは、右手でグーを振り上げた。 「れっつ、ごぉ〜〜、一平〜!」 一平も、右手の拳を振り上げた。 「お〜〜〜!」 スミレちゃんは、一平の運転する三輪自転車の後ろの、スミレちゃん椅子に乗り込んだ。 一匹の蟻が、一平の乗るサドルに、しがみついていた。スミレちゃんは、摘みとって放り投げた。 「迷子になって、帰れなくなっちゃうわよ!」 一平が、「迷子になんかならないよ〜!』と答えた。 「蟻さんに言ったのよ。」 「なあんだ!」 二人が乗った自転車は走り出した。スミレちゃんが、後ろを見ると、けんけん姉さんが、小さく手を振っていた。スミレちゃんは、大きな声で叫んでいた。 「行ってきま〜〜す!」 冬なのに、太陽がてかてかと輝いていた。風は、まったく無かった。 「風さんは、お昼寝だわ。」 「…誰が、お昼寝だって?」 「風さん。」 「風さんが、お昼ね?」 「ひゃっほ〜〜ぉ!ロゥレン、ロゥレン、ロゥレン♪」 「何、それ?」 「ローハイドよ。」 「ローハイド?」 「ひゃっほ〜〜ぉ!」 「まるで、インディアンみたいだねえ。」 「ひゃっほ〜〜ぉ!」
公衆トイレの前で、美人漫画家の涌井いづみと、アシスタントの愛美(めぐみ)が、海を見ながら佇んでいた。 「あっ、涌井いづみさんと愛美ちゃんだわ。」 一平は、自転車を止めた。 「どうしたんですか、こんなところで?」 愛美が、即座に答えた。 「うんこったれを待ってるの。」 スミレちゃんが、にこにこ笑いながら質問した。 「龍次さんのこと?」 突然、一平が大きな声で注意した。 「変な奴が来るぞ!」 ニット帽をかぶった変な奴が、ナイフみたいなのを手に持って、お地蔵さんのほうから走って来るのが見えた。 「みんな、逃げろ!」 みんなは、海に向かって駆け出した。 スミレちゃんが、慌てて転んだ。 変な奴は、スミレちゃんに向かって走って来た。 一平が気付き、スミレちゃんの前に立ち、変な奴に向かって両手を広げた。 「スミレちゃん、早く逃げろ!」 スミレちゃんは、なぜか動けなかった。 それを見ていた、涌井いづみと愛美が、大きな石を持って、やってきた。 変な奴は、一平にナイフで襲いかかった。愛美が叫んだ。 「きゃ〜〜!」 一平は、後方に手をつきながら倒れこんだ。ナイフが空を刺した。 それは、間一髪の出来事だった。一平は、ナイフの握られてる右手を、下から右足で蹴り上げた。ナイフは地面に飛んだ。そのナイフを、涌井いづみは急いで拾った。 「おもちゃのナイフだわ!」 一平は、素早く立ち上がり、ナイフを受け取った。 愛美が叫んだ。 「警察が来たわ!」 警官が二人、こちらに向かって走ってくるのが見えた。 変な奴は、妖怪温泉の方に逃げ出した。 警察がやってきた。一人の警官が立ち止まった。 「大丈夫ですか?」 みんなは、それぞれに、「はい。」と答えた。スミレちゃんだけが、ポカンとしていた。 一平は、警官にナイフを渡した。 「落ちてました。おもちゃでした。」 「そうでしたか。」 警官は、おもちゃのナイフ受け取ると、変な奴と同僚を追い、妖怪温泉の方に駆けて行った。 一平は、スミレちゃんに近づいた。 「スミレちゃん、怪我はなかった?」 スミレちゃんは、大きな声で泣きだした。 「わ〜〜〜〜〜ん、怖かったぁ〜〜!」 そして、一平に飛びついてきた。 「怖かった〜〜〜!」 「もう、大丈夫だよ。」 涌井いづみが、手を叩きながらやってきた。 「お見事でしたわ。風魔の後ろ倒れ足蹴りの術!」 「えっ?」 「後ろに、倒れこんだ術ですよ。お見事!」 「そんなんじゃあないですよ。」 「じゃあ、何かの護身術ですか?」 「以前、警察の特殊部隊で、ちょっと…」 「えっ、警察の特殊部隊で?」 「…あっ、いけねぇ。冗談ですよ。じょうだん。そういう映画を見たんですよ〜。」 「見ただけで、あんなに?」 「それを見て、練習したんですよ〜。趣味なんですよ〜。」 涌井いづみは、一平を睨んだ。 龍次が、やってきた。 「どうしたの、みんな?なんかあったの?」 愛美が、不満げに口を滑らせていた。 「うんこったれが、今ごろ出てきて!」 「何かあったの?」 愛美は、まだ大きな石を持っていた。 それを見た龍次が質問した。 「愛美ちゃん、それどうするの?」 「これ…、龍次さんの頭を、かち割ってやろうと思って。」 「え〜〜〜!?」 一平が笑った。 「それじゃあ、まるで石器人だよ〜!」 みんなは、それぞれに、それぞれの笑い方で、互いに睨み合いながら、心の底から笑いあった。 潮騒のしじまに、海鳥の鳴き声が聞こえていた。
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