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作品名:シュールミント 作者:毬藻

第67回   自由連想法
スミレちゃんが去った後、龍次の心はメルヘンチックになっていた。そして、喋り方はオペラ調になっていた。
龍次は、ふと呟(つぶや)いた。
「せっかく同じ時代に生まれてきたんじゃないか。一緒に生きようぜ、同士〜〜し〜♪」
そのオペラ調の問いに答える、涌井いづみも、なぜかオペラ調になっていた。
「龍次さん。今あなたの瞳は輝いているわ〜〜♪」
「そうかなあ〜♪」
「きっと、きっと、あなたは変わったのよ〜♪」
「そうかなあ〜♪」
「そうに決まっているわ〜、綺麗な瞳だわ〜♪」
「君は、思い込みが激しいんだねえ〜♪」
「そうよ。それだけで生きてきたの。今まで…、そしてこれからも〜♪」
パソコンの横には、紙がバラバラに無造作に捨ててあった。
「わあ〜〜、紙だらけ!」
龍次は拾って、ゴミ箱に入れようとした。
「だめ〜!それ、大事な私の人生なの〜♪」
「ああ、そうなんですか。じゃあ、人生のゴミではないんですね〜♪
「そうなんです。とっても、とっても大切なものなんですよ〜♪」
「そうなんですか。ゴミんね!」
「現実ばかりを見ていると、手品のように、見えてるものだけに心を奪われてしまうわ〜♪」
「なあるほど。」
「世の中に見えてるものは、嘘だらけ〜♪」
「なんて素敵な、セニョリータ〜♪、…どうも、さっきから言葉がおかしいなあ?」
「会話が変ですねえ?」
「スミレちゃんと逢うと、いつもこうなんですよ。」
「わたしもです。」
「なぜなんだ〜〜♪」
「なぜなんでしょう〜〜♪」
「これじゃあ、オペラだ。」
「そうですねえ。」
「普通の会話に戻しましょう。」
「そうですね。でも、戻るかしら〜♪」
「スミレちゃんの魂のコアが、僕の魂を動かしてる…」
「コア?」
「スミレちゃんの魂のコアが、僕の潜在意識に働きかけている…」
「スミレちゃんと言えば…」
龍次が答えた。
「海岸…」
いづみが答えた。
 「海…」
交互に答えだした。
「青…」
 「信号…」
「クルマ…」
 「事故…」
「救急車…」
 「白…」
「看護婦…」
 「コスプレ…」
「秋葉原…」
 「電気街…」
「パソコン…」
 「マウス…」
「ダブルクリック…」
 「いやらしい…」
「どうして、ダブルクリックから、いやらしい、になっちゃうの〜♪」
「なんですか、これ?」
「フロイトの、精神分析・自由連想法です。手掛かりになるかと思って。」
「駄目ですよ、こんなんじゃあ。互いに無意味に誘導されてるだけですよ。」
「そうですねえ〜♪」
「意味の無い世界を泳いでも仕方ありません。何も出てきません。」
「ほんとうは、意味があるのかも?」
「精神分析ですか?」
「はい。」
「あったとしても、素人には無理ですよ。専門家でないと、分析する手掛かりがない。」
「そうですね〜♪」
「あ〜〜〜、外の空気が吸いたくなったわ〜♪」
「わたしもです。」
「一致しましたね!結婚しましょう〜〜♪」
「まだ、直ってませんねえ。」
「なんで、こんなことを平気で言ってしまうんだろう?」
「草野球でもしません?」
「えつ?」
「わたし、学生の頃、ソフトボールやってたんです。愛美(めぐみ)ちゃんもやってたんですよ。」
「ああ、そうですかあ。野球だったら、得意ですよ。」
「じゃあ、やりましょう。」
「仕事はいいんですか?」
「いいんです。いいんです。ほんとうは、休みなんです。」
「そうですか。」
「風を感じ自由を感じれば、自分自身に戻るかも知れません。」
「そうですね、やってみましょう。」
「わたしの魔球、打てますかな?」
「魔球ですか。それは面白い。」
三人は、グローブとソフトボールとバットを持って、自由を求め外に出て行った。

 僕は 自由であろうとし 僕は僕で 自由な僕であろうとし
   僕は 僕で 僕であろうとし なにものにも染まらず 自由な僕であろうとし
     悲しいくらいに自由であろうとし
       苦しいくらいに自由であろうとし
         切ないくらいに 僕は僕であろうとし 自由な僕であろうとし


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