20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:シュールミント 作者:毬藻

第66回   笑い飛ばし思念の術
お好み焼きそばは、お好み焼きのなかに、焼きそばが入ったものだった。
「豚肉ともやしとキャベツの絶妙なバランスが絶妙だなあ。この具は、グ〜!」
「ありがとうございます。」
「龍次さんって、理数系でしょう。言葉がデジタルだわ。」
「イエス、アイドゥ〜!」
龍次の食事は、すぐに終わった。二人は、まだ食べていた。
「龍次さん、早いなあ。人生や景色を眺めるように、デザートもどうぞ。」
「あっ、はい。」
龍次は、デザートのフルーツをペロリと食べ、お茶を飲み終えた。
「ごちそうさまでした。」
「まるで、蟻ん子みたいですねえ。」
「性格なんです。ちょっと、タバコを吸ってきます。」
そう言うと、蟻ん子みたいな足取りで、外に出て行った。
二人が、食べ終わった頃に、龍次は口笛を吹きながら戻ってきた。
「いい天気ですねえ。グ〜!」
「ご機嫌ですねえ。何かあったんですか?」
「蟻ん子が、草野球をしていました。」
「面白いこといいますねえ。」
「あいつら、千年後には、きっと核戦争をやってますよ。」
「蟻ん子がですか?」
「ええ。僕には分かるんです。蟻ん子の気持ちが。ひしひしと。」
「龍次さんは、とってもシュールなことを言いますねえ。」
「そうですかねえ。」
「朝は、蟻ん子なんか歩けない嵐だったのになあ。」
「おかしな天気ですねえ。」
「そうですねえ。」
「妖怪温泉の看板に、妖怪や風魔小太郎の絵がありますけど、あれって先生の絵ですねえ。」
「そうです。隣の風間(かざま)さんに、頼まれて描きました。」
「あの、風魔小太郎、いいですねえ。」
「ありがとうございます。」
「まるで、見て描いたような絵ですね。」
「実は、見て描いたんです。」
「ええ〜、ほんと〜〜〜〜ぅぅ!?」
「スミレちゃんと、会ったときに、見たんです。」
「え〜〜〜〜っ!?」
「彼は、木の陰にいて、私に頭を下げていました。」
「え〜〜〜〜っ、まじ〜〜ぃ!?」
「スミレちゃんは、亡霊だと言ってました。」
「実は、僕も見たんですよ。」
「ほんとですか?」
「祖母の亡霊を。」
「やっぱり、スミレちゃんと一緒のときにですか?」
「ええ。」
「それは、不思議ですねえ。」
「スミレちゃんに聞いた話なんですけど、風間(かざま)さんって、風魔小太郎の直系の子孫なんですって。」
「え〜〜〜、ほんと〜!?」
「風魔は、ほんとうは、風間(かざま)と書くんですよ。」
「そうなんですか!」
「スミレちゃんって、不思議な子ですねえ。」
「ひょっとすると、亡霊を呼び込む妖精とか妖怪だったりして。」
「え、まさか!」
「風魔の術には、亡霊を招く術があるんですよ。」
「え〜〜〜〜!?」
「龍次さん。何か術を持っていらしゃいますか?」
「術?・・盲腸の手術とか?」
「そういうのじゃなくって、自分で使える術です。」
「そういえば、笑い飛ばし思念の術を、心得ております。」
「笑い飛ばし思念の術…」
「これをやると、相手の思念が瞬時に止まるんです。」
「凄い術ですねえ。」
「やってみましょうか。」
「ええ、是非とも。危ない術なんですか?」
「ぜ〜〜ん、ぜぇん!じゃあ、やります。少し離れてください。」
「危険なんですか?」
「ぜ〜〜ん、ぜぇん!」
二人は、少し下がった。
「やってください。」
龍次は、叫びながら笑った。
「ひゃひゃひゃあ〜〜!」
二人は、びっくりして声が出なかった。思考は、完全に停止していた。三秒の沈黙が流れた。
最初に声を発したのは、美人漫画家の涌井いづみだった。
「わ〜〜、思考が止まったわ〜。凄いわあ〜!」
愛美ちゃんも、びっくりして目が寄り目になって、固まっていた。
「とんでもない、術だわ〜!」
「龍次さん。この術とっても面白いわ。また来て、やってくれる?」
「いいですよ。こんなんでよかったら。」
「とってもいいわ。連絡先を教えて。」
美人漫画家の涌井いづみは、用紙を差し出した。
「これに書いてください。」
「はい。」
「じゃあ、書きます。」
龍次は、真面目な顔になった。
「僕、筆圧が固いんだけど、このボールペン、折れたりしないかな?ペンだとペン先がY脚しちゃうんですよ。」
「このボールペンは、大丈夫です。」
「どうして?」
「百円ですから。」
「ああ、そういう意味ね。壊れてもいいってことね。」
「はい。」
「名前と、電話番号ね…、はい。」
百円のボールペンは折れなかった。
涌井いづみは、思わず呟(つぶや)いた。
「下手な字。」
「なんだって!」
「聞こえました?」
「聞こえましたよ!」
険悪な空気が流れ、沈黙がやってきた。三人は、それぞれに目の前の空の一点を、寄り目で睨んでいた。約一分後、龍次が口を開いた。
「失礼しました。一時的な感情で、大切な短い人生を乱すのは愚かな行為です。」
「そうですよ。」
「皆さん、笑いましょう。嘘でも、本当の笑いになります。」
龍次は涌井いづみを睨みながら、二人は龍次を睨みながら、互いに嘘の笑い合いを始めた。

 どほほほ どははは わっははのは
   どほほほ どははは わっははのは


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 16821