お好み焼きそばは、お好み焼きのなかに、焼きそばが入ったものだった。 「豚肉ともやしとキャベツの絶妙なバランスが絶妙だなあ。この具は、グ〜!」 「ありがとうございます。」 「龍次さんって、理数系でしょう。言葉がデジタルだわ。」 「イエス、アイドゥ〜!」 龍次の食事は、すぐに終わった。二人は、まだ食べていた。 「龍次さん、早いなあ。人生や景色を眺めるように、デザートもどうぞ。」 「あっ、はい。」 龍次は、デザートのフルーツをペロリと食べ、お茶を飲み終えた。 「ごちそうさまでした。」 「まるで、蟻ん子みたいですねえ。」 「性格なんです。ちょっと、タバコを吸ってきます。」 そう言うと、蟻ん子みたいな足取りで、外に出て行った。 二人が、食べ終わった頃に、龍次は口笛を吹きながら戻ってきた。 「いい天気ですねえ。グ〜!」 「ご機嫌ですねえ。何かあったんですか?」 「蟻ん子が、草野球をしていました。」 「面白いこといいますねえ。」 「あいつら、千年後には、きっと核戦争をやってますよ。」 「蟻ん子がですか?」 「ええ。僕には分かるんです。蟻ん子の気持ちが。ひしひしと。」 「龍次さんは、とってもシュールなことを言いますねえ。」 「そうですかねえ。」 「朝は、蟻ん子なんか歩けない嵐だったのになあ。」 「おかしな天気ですねえ。」 「そうですねえ。」 「妖怪温泉の看板に、妖怪や風魔小太郎の絵がありますけど、あれって先生の絵ですねえ。」 「そうです。隣の風間(かざま)さんに、頼まれて描きました。」 「あの、風魔小太郎、いいですねえ。」 「ありがとうございます。」 「まるで、見て描いたような絵ですね。」 「実は、見て描いたんです。」 「ええ〜、ほんと〜〜〜〜ぅぅ!?」 「スミレちゃんと、会ったときに、見たんです。」 「え〜〜〜〜っ!?」 「彼は、木の陰にいて、私に頭を下げていました。」 「え〜〜〜〜っ、まじ〜〜ぃ!?」 「スミレちゃんは、亡霊だと言ってました。」 「実は、僕も見たんですよ。」 「ほんとですか?」 「祖母の亡霊を。」 「やっぱり、スミレちゃんと一緒のときにですか?」 「ええ。」 「それは、不思議ですねえ。」 「スミレちゃんに聞いた話なんですけど、風間(かざま)さんって、風魔小太郎の直系の子孫なんですって。」 「え〜〜〜、ほんと〜!?」 「風魔は、ほんとうは、風間(かざま)と書くんですよ。」 「そうなんですか!」 「スミレちゃんって、不思議な子ですねえ。」 「ひょっとすると、亡霊を呼び込む妖精とか妖怪だったりして。」 「え、まさか!」 「風魔の術には、亡霊を招く術があるんですよ。」 「え〜〜〜〜!?」 「龍次さん。何か術を持っていらしゃいますか?」 「術?・・盲腸の手術とか?」 「そういうのじゃなくって、自分で使える術です。」 「そういえば、笑い飛ばし思念の術を、心得ております。」 「笑い飛ばし思念の術…」 「これをやると、相手の思念が瞬時に止まるんです。」 「凄い術ですねえ。」 「やってみましょうか。」 「ええ、是非とも。危ない術なんですか?」 「ぜ〜〜ん、ぜぇん!じゃあ、やります。少し離れてください。」 「危険なんですか?」 「ぜ〜〜ん、ぜぇん!」 二人は、少し下がった。 「やってください。」 龍次は、叫びながら笑った。 「ひゃひゃひゃあ〜〜!」 二人は、びっくりして声が出なかった。思考は、完全に停止していた。三秒の沈黙が流れた。 最初に声を発したのは、美人漫画家の涌井いづみだった。 「わ〜〜、思考が止まったわ〜。凄いわあ〜!」 愛美ちゃんも、びっくりして目が寄り目になって、固まっていた。 「とんでもない、術だわ〜!」 「龍次さん。この術とっても面白いわ。また来て、やってくれる?」 「いいですよ。こんなんでよかったら。」 「とってもいいわ。連絡先を教えて。」 美人漫画家の涌井いづみは、用紙を差し出した。 「これに書いてください。」 「はい。」 「じゃあ、書きます。」 龍次は、真面目な顔になった。 「僕、筆圧が固いんだけど、このボールペン、折れたりしないかな?ペンだとペン先がY脚しちゃうんですよ。」 「このボールペンは、大丈夫です。」 「どうして?」 「百円ですから。」 「ああ、そういう意味ね。壊れてもいいってことね。」 「はい。」 「名前と、電話番号ね…、はい。」 百円のボールペンは折れなかった。 涌井いづみは、思わず呟(つぶや)いた。 「下手な字。」 「なんだって!」 「聞こえました?」 「聞こえましたよ!」 険悪な空気が流れ、沈黙がやってきた。三人は、それぞれに目の前の空の一点を、寄り目で睨んでいた。約一分後、龍次が口を開いた。 「失礼しました。一時的な感情で、大切な短い人生を乱すのは愚かな行為です。」 「そうですよ。」 「皆さん、笑いましょう。嘘でも、本当の笑いになります。」 龍次は涌井いづみを睨みながら、二人は龍次を睨みながら、互いに嘘の笑い合いを始めた。
どほほほ どははは わっははのは どほほほ どははは わっははのは
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