「愛美(めぐみ)ちゃん、スケッチブック!」 「はい、はい、はい!」 アシスタントの愛美は、急いでスケッチブックとサインペンを差し出した。 美人漫画家の涌井いづみは、慌てて描き始めた。 「…よし!」 彼女は、スケッチブックを持って走り出した。 スミレちゃんは、驚いた。 「ぅわ〜〜〜、先生、早いわ〜!」 龍次は、慌ててアシスタントの愛美に質問した。 「どうしたんですか?」 「オバケ、つまり漫画のアイデアが浮かんだんです。早く帰って描かないと、イメージが消えてしまうんです!」 そう言うと、後を追って駆け出した。 スミレちゃんは、唖然としていた。 一平は、走っていく二人を見ていた。 「オバケとは、イメージのことだったのか。」 龍次も見ていた。 「大変な仕事だなあ…」 スミレちゃんは、驚きで目を丸くしていた。 「早いわあ。まるで、救急車みたいだわ。」 「そうだねえ。」 「サイレンを鳴らしたほうがいいわ。」 「そうだねえ。」 「さあ、わたしたちもダンスをしながら帰りましょう。」 「まだ、ダンスやるの?」 「ランラランラランラン♪ランラランラランラン♪」 「ダンスをしながら、帰るの?」 二人は、仕方なく。スミレちゃんの真似をしながらついて行った。 龍次が、ピンクのデジタルプレーヤーを発見した。 「あっ、プレーヤーだ。」 「あっ、ほんとだ。きっと、小さいから落として行ったんだわ。」 プレーヤーは、観音開きの手の平サイズだった。 「持って行ってあげましょう。」 「そうだね。」 一平は、腕時計を見ていた。 「あっ、正午だ。」 「じゃあ、先に帰ってて。」 「けんけん姉さんに、そう伝えておくよ。』 「ありがとう。」 「涌井さんの家は遠いの?」 「あそこに見える、豹柄の二階建ての家よ。」 「ああ、あれね。」 「そうよ。」 一平は、ゴミ袋を持ちながら手を振り、妖怪温泉の方に向かって歩き出した。 「わたしたちは、こっちよ。行きましょう。」 スミレちゃんと、右手と左手を交互に前に押し出しながら、ダンスステップで豹柄の二階建ての家に向かって歩き出した。 「僕もやるの?」 「そうよ。」 「三歩歩いて、二歩下がる♪はい!」 龍次も仕方なく、ダンスステップで歩き出した。 「スミレちゃん。これじゃあ、時間が掛かかっちゃうよ〜〜。人生が終わっちゃうよ〜!」 「そうね。きっと、死んでしまうわね。」 「そうだよ。普通に歩こうよ。」 「じゃあ、三歩歩いて、一歩下がる♪はい!」 「それじゃあ、五十歩百歩だよ〜。」 スミレちゃんは、言葉の意味が分からなかった。 「なぁに、それ?」 「にゃん、にゃんにゃん!」 「どうしたの?」 龍次は、たまらず踊りを止め走り出した。 「僕は、きときっと、甘えん坊なんだよ!」 スミレちゃんも、踊りを止めて走り出した。 「待ってぇ〜〜〜!」 意味不明の、にゃんにゃんにゃんの甘えん坊の龍次だった。
僕は どうして生まれて来たんだろう 僕は どうしてここにいるのだろう 僕は死ぬまで 僕しか知らない いくら にゃんにゃんにゃんと叫んでも ここには僕しかいない
|
|