一平が、龍次に尋ねた。 「その不思議な会話術、どこで習得なされたんですか?」 「習得なんてもんじゃあないですよ。ただの、アルコールの副産物ですよ。」 スミレちゃんは、不思議そうな顔をしていた。 「まるで、七色の虹の会話術だわ。」 「そっうかなあ。」 ふたりの美女が、清楚な服装で、しなしなと輝きながら,砂浜で軽やかなステップで踊っていた。 スミレちゃんは、近づくと、楽しそうに二人に尋ねた。 「楽しそうね。何なの、それ?」 美女の涌井いづみが、踊りながら答えた。 「サルサよ。」 「さるさ…」 アシスタントの白鳥愛美(いらとりめぐみ)が、楽しそうに拍子木を打ち鳴らしていた。 「ちょっと待ってね。オバケが出たときのために、準備運動してくるから。」 彼女は、ピンクのジーンズで、懸命に走り出した。五十メートルほどで止まり、全力で戻ってきた。 スミレちゃんは、びくりした。 「わ〜〜、早いわ〜!」 「このくらい早くないと、オバケに逃げられるのよ。」 龍次も一平も、びっくりした顔をしていた。龍次が尋ねた。 「オバケって、何ですか?」 「突然に、どこからともなく出てくるんですよ。」 「そうなんですか。」 「先生、始めてもいいですか。」 「始めましょう。」 アシスタントの愛美が、持ってきた音楽プレーヤーを鳴らした。 「スミレちゃん。こうやって踊るのよ。ランラランラランラン♪」 簡単なステップを踏んで見せた。 「さあ、やって。」 「こう…」 「上手いわねえ。スミレちゃんは!」 「なんだか、とっても楽しいわ。」 「才能があるかもよ。」 「そうかしら」と言いながら、スミレちゃんは真似をしながら踊っていた。 龍次と一平は、呆然と見ているだけだった。 涌井いづみが、二人に踊りながら言った。 「お正月だから、踊りましょうよ。」 龍次は、照れながら答えた。 「僕、踊りとかは、まるっきり駄目なんですよ。」 「教えてあげるわ。わたしの足を、よく見てて。」 「……」 「はい、真似して。」 「こうですか?」 「うん、なかなかいいわ。そちらの若い方も、どうですか。」 「真似をすればいいんですね?」 「ええ。」 涌井いづみが、一平にアシストした。 「わあ〜、難しいなあ。」 「それじゃあ、シャドーボクシングだわ。」 「はい。アマボクシングをやってました。」 「足の運びが、そういう感じだわ。」 彼女は、ぎごちなくロボットのように踊っている龍次の方を見た。 「なにか、やってらしたんですか?」 「なんか、変ですか?学生の頃、ロボットにダンスを組み込んでたんです。こういう感じで…」 「それじゃあ、阿波踊りだわ。」 「どうしたら、いいんでしょう?」 「もっと、身体の力を抜いてください。」 「こうですか?」 「それじゃあ、蛸ですよ。抜きすぎです。」 「難しいなあ…」 「やってると、そのうちに覚えますよ。」 「うわ〜〜〜、出た〜〜!」 涌井いづみは大声で叫んだ。 スミレちゃんも、龍次も一平も、彼女の悲鳴にびっくりして、踊りをやめた。 龍次が、周りを見回した。 「どこ、どこ、どこ!?」
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