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作品名:シュールミント 作者:毬藻

第61回   美人漫画家と美少女
「くりぼ〜〜、どこに行くの?」
「買い物に行くんだよ!」
「それ、どうしたの?」
「クリスマスの日に、まじめお兄ちゃんに、もらったの。」
栗坊は、おもちゃのマシンガンを撃って見せた。

 ダダダダダダダ ダダダダダダダ

「光って、凄いわね〜!」
「わ〜、やられた〜!」
龍次が、胸を両手で押さえ、撃たれた真似をした。
栗坊は、きょとんとした顔をしていた。
「当ったの〜?」
「やられた真似してるのよ。」
ちょっと遅れて、おばあさんがやってきた。
「あら、こんにちわ。お仕事ですか。」
「はい。ゴミ拾いです。」
「それは、それは。ごくろうさまです。」
栗坊は嬉しそうだった。
「これから、ジュースとトマトとピザトーストを買いに行くんだよ。」
「ピザトースト…」
「チラシを見たんですよ。」
「おばあさん。あんまり安いピザトーストは買わないほうがいいわよ。」
「どうしてですか?」
「けんけん姉さんが、チーズの半分はラードでごまかしてあるって、言ってたわ。」
「ああ、そうなの。」
「表示を見ると書いてあるわ。よく見て買ったほうがいいわ。」
「あ〜〜、いいこと聞いたわ。ありがとう。」
栗坊が首をそらして、龍次と一平を見た。
「この人たちも、ゴミ拾いをしてるの?」
「一緒に、お掃除してるのよ。」
「ふ〜〜ん。」
「それでは、失礼します。さあ、行きましょう。邪魔しちゃ駄目よ。」
おばあさんは、栗坊の手を取った。栗坊は、三人に手を振った。
「ばいば〜〜い!」
スミレちゃんが、「ばいば〜い!」と言うと、二人も手を振りながら、「バイバ〜イ!」と言った。
三人は、歩き出した。一平がすみれちゃんに質問した。
「あの二人、どこまで行くの?」
「駅の前のスーパーまで行くのよ。」
龍次が、歩き去る二人を見ながら言った。
「いつも、二人で買い物してるんだ?」
「そうよ。」
「お母さんは、どうしてるの?」
「お母さんも、お父さんも、いないの。いなくなっちゃったの。」
「どぉうして?」
「三年前に、いなくなったって、けんけん姉さんが言ってたわ。」
「そうなの…」
一平は、怒り出した。
「無責任な親だなあ〜!」
龍次が、心配そうに尋ねた。
「お金はあるの?」
「けんけん姉さんが、年金で暮らしてるって、言ってたわ。」
「年金でね〜〜。大変だなあ。」
「まったく、けしからん親だなあ!」一平は、一人で怒っていた。
龍次は後ろを向き、突然と叫んだ。
「ぼうや〜〜!」
龍次は栗坊に向かって走り出した。おばあさんと栗坊は、立ち止まって振り向いた。
五十メートルほど走って追いついた。
龍次は、何かを栗坊に渡すと急いで帰ってきた。
「どうしたの?」
「スミレちゃんにも。少ないけど、はい、お年玉!」五千円札を一枚、スミレちゃんに渡した。
「わ〜〜、嬉しいわ〜!」
「じゃあ、僕もあげるよ。」
一平も、財布から五千円札を一枚出して、スミレちゃんに渡した。
「わ〜〜、嬉しいわあ!お父さんに、報告しなきゃあ。」
一平が、「報告なんかいいよ。」と答えた。
「そうはいかないわ。頂いた物は、お父さんに何でも報告するのよ。」
「自分で決めたの?」
「そうよ。」
龍次は、感心した。
「しっかりしてるなあ〜、スミレちゃんは。」
スミレちゃんは、五千円札を丁寧に重ねると、二つに折りたたみ、大事そうにズボンの左ポケットに押し込んだ。
「大事な物は、左に入れるのよ。」
龍次が尋ねた。「お財布は持ってないの?」
「そんなのないわ。」
三人は歩き出した。

「あっ、流木だわ!」
スミレちゃんは、流木に向かって駆け出した。
「スミレちゃん!それ大きすぎるよ。ちっとも美しくない。流木が、僕を呼んでない。」
スミレちゃんは、途中で止まった。
「呼んでないの?」
「うん!」
「けっこう、難しいのねえ。」
砂浜には、いろんな物が流れ着いていた。
「ビニール袋、多いわねえ。」
「ペットボトルも、けっこうあるねえ。」
「ビニール袋は、よく亀が海草と間違えて、飲み込むんですよ。」
「可哀想な出来事だわ。」
三人は、ゴミを拾いながら歩いていた。
「スミレちゃん。あと半分の距離だよ。」
「人生のように、早いわねえ。」
龍次は、後ろを振り返った。
「龍次さん、排気ガスの出ない自動車で来たの。」
「道路が込んでたから、ピンクの潜水艦で来たよ。」
「え〜〜〜〜〜!?」
「じょう〜だん!公園の前の駐車場に止めてあるよ。」
「龍次さんの冗談は、とってもシュールで楽しいわ!さすが人生の達人だわ!」
「そんなこと言うなんて、心が、じんじん。」
でも、龍次の目は、満たされない子供の目をしていた。
「松原で、誰か手を振ってるよ。」
「あっ、だじゃ丸さんだ。」
スミレちゃんも、手を振った。一平も、手を振った。
龍次は、手に持っている流木を見ていた。なぜか寂しい目をしていた。
「どうしたの、龍次さん?」
「スミレちゃんには、友達がたくさんいて、いいなあ。」
「りゅうじ君が心配してたわ。叔父さんは、毎日お酒ばっかり飲んでるって。」
「焼酎や、ビールも飲んでるよ。心配御無用。」
「テレビで、飲みすぎると、アルチューハイマーになるって言ってたわ。」
「そんなには飲んでいないよ。」
「たまには、わたしと、かしわ餅を食べながら、お茶でも飲みましょうよ。」
「それはいいねえ!」
「じゃあ、今度の日曜日に電話して。」
「ああ。いいよ。」
七色の色んなことを、おしゃべりしながら歩いてるうちに、砂浜の先端まで来ていた。
「あっ、美女の漫画家の涌井さんと、アシスタントのぴかぴか美少女高校生の愛美(めぐみ)ちゃんだ!」
美女と美少女に、龍次は思わずのけぞった。
「うぉうぉ〜♪、ぃえぃえ〜〜ぃ!」
「どうしたの?」
「ロバート・プラントだよ。知ってるだろう。」
「龍次さんって、言葉の切り返しが巧みだわ。さすがにインテリだわ。」
「僕に何も言わずに、ついてきてくれるかい。」
「いいわよ。」
一平が、二人の会話を聞きながら言った。
「なっんだか、シュールな会話だなあ。」


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