龍次は、海を見ていた。 「スミレちゃんは、シュールだなあ〜、魂がロックしてるなあ〜。」 「しゅ〜るって、なあに?」 「ロックしている心だよ。」 「ふ〜〜ん。それなら、なんとなく分かるわ。」 「僕は。気分が憂鬱なときには、のりのりのロックを聞いて、踊るんだよ。」 「インテリは、頭脳を使いすぎるから、馬鹿になって踊ることは大切だわ。」 「ジューダスプリースト、いいねえ!今でも魂が救われるんだ。」 「どういうの?」 「こういうのだよ。」 龍次は、デジタルプレーヤーを出した。「聞いてみて。」
Judas Priest - You've Got Another Thing Comin'
「わ〜、いいわあ!心がうきうきしてくるわ。ロックのリズムは、とっても気持ちいいわ。」 一平は、龍次の持ってる流木を見ていた。 「それ、部屋に置くんですか?」 「ええ。植物には、建築のエッセンスが詰まっているんですよ。刺激になるんです。」 「建築のエッセンス?」 「龍次さんは、燃料プリントの設計をやっているのよ。偉いんだから。」 「プリントじゃなくって、プラント。」 龍次は、キラキラ光る名刺を差し出し、渡した。一平は驚いた。 「わぁ〜〜、凄い名刺だなあ〜!」 「ゴールド・チタンです。」 「綺麗だなあ。」 「退職したら、本格的に会社を始めようと思っているんです。」
保土ヶ谷未来エコ球形住宅研究所 保土ヶ谷龍次
「わたしは、風雨に強い球形にこだわっているんです。発泡スチロールの球形住宅です。特許も取ってます。」 名刺の裏に、写真が印刷されてあった。 「これですね…、凄いなあ。でも、発泡スチロールで大丈夫なんですか?』 「特殊な強化耐熱発泡スチロールで、強度は百倍あります。5百万ほどでできます。」 「こんなにかっこいいのに、そんなに安いんですか?」 「インターネットに、定年後大志を抱け!って、書いてありましてね。それで決断したんですよ。単純でしょう。」 「いえいえ、そんな。」 「このまま黙って人生を終わるのも、なんだか虚しく感じたんですよ。何のために生きてきたんだろうってね。」 「わたしにも、見せて!」 一平は、スミレちゃんに手渡した。龍次に尋ねた。 「これ、水に浮かぶの?」 「もちろん、浮かぶよ。」 「わ〜、これなら、津波が来ても浮かぶから大丈夫だわ〜! 「そういえばそうだね。そんなことまで考えなかったよ。」 「海の近くでも、大丈夫だわ。いい考えだわ。やっぱりインテリだわ。」 「そぉおかなあ。」 「やっぱり、インテリの考えは、普通の人とは違うわ。」 「そぉおかなあ。」 「これからどこに行くの?」 「もう少し流木を探してから、帰るとこだよ。」 「じゃあ、一緒においでよ。」 「ああ、いいよ。スミレちゃんは可愛いから、どこまでもついて行くよ。」 「地獄までも?」 「地獄?」 「閻魔さまがいるところ。」 「ああ、行くよ!」 「さすが、インテリだわ。先を読んで答えてるわ。」 「じゃあ、行こう!スミレちゃん!」 「れっつ、ご〜〜!毬藻さんも、必死で人生の最後の戦いをやっているわ。」 「毬藻さん?」 「変な文章で、変な小説を書いてる人よ。森の向こうに住んでいるの、シュークリームとロックの好きなおじさんよ。」 「ふ〜〜ん。そういう人もいるんだね。逢ってみたいなあ。僕はシュークリームは苦手だけど。」 「そのうちに、必ず逢えるわ。運命が必ずそうさせるわ。」 「アキレス最後の戦いって言ってたわ。」 「そう、じゃあ僕の人生も、アキレス最後の戦いだなあ。」 一平が、その言葉に興味を示した。 「あっ、それ知ってます!天才ギタリスト、ジミーページの率いた、レッド・ツェッペリンのナンバーですよね?」 「そうです。あなた若いのに、よく知ってますね〜。」 「父が好きでしたから。」 「わたしも知ってるわ。けんけん姉さんが好きな曲だから。」 スミレちゃんは、ロックスターのように、拳(こぶし)を天に突き刺した。 「行くぜぇ〜〜〜!」 二人も、スミレちゃんのように、拳(こぶし)を天に突き刺した。 「お〜〜〜!」「お〜〜〜!」 三人の心に、アキレス最後の戦いが、流れていた。波が、ジミーページのギターのように、激しく切なく奏でていた。
Achilles Last Stand by Led Zeppelin 1976
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