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作品名:シュールミント 作者:毬藻

第59回   アキレス最後の戦い
龍次は、海を見ていた。
「スミレちゃんは、シュールだなあ〜、魂がロックしてるなあ〜。」
「しゅ〜るって、なあに?」
「ロックしている心だよ。」
「ふ〜〜ん。それなら、なんとなく分かるわ。」
「僕は。気分が憂鬱なときには、のりのりのロックを聞いて、踊るんだよ。」
「インテリは、頭脳を使いすぎるから、馬鹿になって踊ることは大切だわ。」
「ジューダスプリースト、いいねえ!今でも魂が救われるんだ。」
「どういうの?」
「こういうのだよ。」
龍次は、デジタルプレーヤーを出した。「聞いてみて。」

 Judas Priest - You've Got Another Thing Comin'

「わ〜、いいわあ!心がうきうきしてくるわ。ロックのリズムは、とっても気持ちいいわ。」
一平は、龍次の持ってる流木を見ていた。
「それ、部屋に置くんですか?」
「ええ。植物には、建築のエッセンスが詰まっているんですよ。刺激になるんです。」
「建築のエッセンス?」
「龍次さんは、燃料プリントの設計をやっているのよ。偉いんだから。」
「プリントじゃなくって、プラント。」
龍次は、キラキラ光る名刺を差し出し、渡した。一平は驚いた。
「わぁ〜〜、凄い名刺だなあ〜!」
「ゴールド・チタンです。」
「綺麗だなあ。」
「退職したら、本格的に会社を始めようと思っているんです。」

 保土ヶ谷未来エコ球形住宅研究所 保土ヶ谷龍次

「わたしは、風雨に強い球形にこだわっているんです。発泡スチロールの球形住宅です。特許も取ってます。」
名刺の裏に、写真が印刷されてあった。
「これですね…、凄いなあ。でも、発泡スチロールで大丈夫なんですか?』
「特殊な強化耐熱発泡スチロールで、強度は百倍あります。5百万ほどでできます。」
「こんなにかっこいいのに、そんなに安いんですか?」
「インターネットに、定年後大志を抱け!って、書いてありましてね。それで決断したんですよ。単純でしょう。」
「いえいえ、そんな。」
「このまま黙って人生を終わるのも、なんだか虚しく感じたんですよ。何のために生きてきたんだろうってね。」
「わたしにも、見せて!」
一平は、スミレちゃんに手渡した。龍次に尋ねた。
「これ、水に浮かぶの?」
「もちろん、浮かぶよ。」
「わ〜、これなら、津波が来ても浮かぶから大丈夫だわ〜!
「そういえばそうだね。そんなことまで考えなかったよ。」
「海の近くでも、大丈夫だわ。いい考えだわ。やっぱりインテリだわ。」
「そぉおかなあ。」
「やっぱり、インテリの考えは、普通の人とは違うわ。」
「そぉおかなあ。」
「これからどこに行くの?」
「もう少し流木を探してから、帰るとこだよ。」
「じゃあ、一緒においでよ。」
「ああ、いいよ。スミレちゃんは可愛いから、どこまでもついて行くよ。」
「地獄までも?」
「地獄?」
「閻魔さまがいるところ。」
「ああ、行くよ!」
「さすが、インテリだわ。先を読んで答えてるわ。」
「じゃあ、行こう!スミレちゃん!」
「れっつ、ご〜〜!毬藻さんも、必死で人生の最後の戦いをやっているわ。」
「毬藻さん?」
「変な文章で、変な小説を書いてる人よ。森の向こうに住んでいるの、シュークリームとロックの好きなおじさんよ。」
「ふ〜〜ん。そういう人もいるんだね。逢ってみたいなあ。僕はシュークリームは苦手だけど。」
「そのうちに、必ず逢えるわ。運命が必ずそうさせるわ。」
「アキレス最後の戦いって言ってたわ。」
「そう、じゃあ僕の人生も、アキレス最後の戦いだなあ。」
一平が、その言葉に興味を示した。
「あっ、それ知ってます!天才ギタリスト、ジミーページの率いた、レッド・ツェッペリンのナンバーですよね?」
「そうです。あなた若いのに、よく知ってますね〜。」
「父が好きでしたから。」
「わたしも知ってるわ。けんけん姉さんが好きな曲だから。」
スミレちゃんは、ロックスターのように、拳(こぶし)を天に突き刺した。
「行くぜぇ〜〜〜!」
二人も、スミレちゃんのように、拳(こぶし)を天に突き刺した。
「お〜〜〜!」「お〜〜〜!」
三人の心に、アキレス最後の戦いが、流れていた。波が、ジミーページのギターのように、激しく切なく奏でていた。

 Achilles Last Stand by Led Zeppelin 1976


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