「木の死体を探しているんだよ。」 「木の死体?」 「流木を探しているんだよ。」 「りゅうぼく?」 「流れ着いた木のことだよ。」 「ふ〜〜〜ん。」 「それと、インターネットに、綺麗な景色を見ると魂が生えてくるって書いてあったから、綺麗な景色を見に来たんだよ。」 「ふ〜〜〜ん。手に持ってるのが、りゅうぼく?」 「そうだよ。」 「どうするの、それ?」 「試験管を組込んで、一輪挿しの花器にするんだよ。」 「ふ〜〜〜ん。やっぱり、一流国立大学出のインテリのやることは違いますね。」 「僕は、インテリなんかじゃないよ。」 「たくさん砂がついてるよ。」 「洗って、乾燥させるんだよ。」 「ふ〜〜ん。大変なのね。」 「ちっとも、大変なんかじゃないよ。」 一平がやって来た。頭を下げた。 「あけまして、おめでとうございます。」 龍次も、頭を下げ挨拶をした。 「あけまして、おめでとうございます。いい天気になりましたね。」 「そうですねえ。」 「海岸掃除ですか?」 「はい。」 龍次はスミレちゃんに尋ねた。 「スミレちゃんも、海岸の、お掃除?」 「そうなの。ここから、松原の終わってるところまで、ゴミを拾って行くの。」 「大変だねえ。」 「ちっとも、大変じゃないわ。」 龍次も一平も、それ以上の会話は無かった。 「ふたりとも、人見知りなのね。」 龍次と一平は、少し笑った。 「二人とも、心が凝り固まっているわ。わたしが、いいこと教えてあげるわ。」 スミレちゃんは、海に向かって歩き出した。龍次が質問した。 「何をするの、スミレちゃん?」 「二人とも、ここに来て。」 二人は、言われるままに、ついて行った。 「大きな声で話したこと、無いでしょう。」 龍次が返事をした。 「うん、そうだね。」 「顔の筋肉が強張ると、心も強張るの。」 「そうなの?」 「そうなんです。大きな声を出して、顔の体操をしましょう。」 「顔の体操?」 スミレちゃんは、海に向かって、大声で喋りだした。
あの いの うの えの おの えの あの いの うの えの おの えの
「はい、真似して!」 二人は、仕方なく真似をした。
あの いの うの えの おの えの あの いの うの えの おの えの
「二人とも、声が小さいわ。もう一度!」
あの いの うの えの おの えの あの いの うの えの おの えの
「それで、少しは心がほぐれたわ。」 「そういえば、ほぐれてきたような気がしますね。」 「ほんとだ。」 スミレちゃんは、龍次の顔を見た。 「悩み事がある顔をしてるわ。」 「そうかなあ。」 「龍次さん。人は、人と人の繋がりがなくなると、狂ってしまうの。」 「…うん、その通りだよ。」 龍次の目は、少し潤んでいた。 「スミレちゃん!分かったよ、ありがとう!」 「なんだか、僕も、その一言で逆立ちが直ったような気がするなあ。」 「逆立ち?」 「さっき、スミレちゃんに、魂が逆立ちしてるって、言われたんですよ。」 「変なこと言うね。スミレちゃんは。」 「まだ、逆立ちは、直ってないわ。」 「そうなの〜〜?。」 「スミレちゃんは、面白いなあ〜!変な言葉のデパートだなあ。」 「龍次さんほどではないわ。」 「こりゃあ、まいった!」 三人は、大きな打ち寄せる波に向かって、心から笑い合った。
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