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作品名:シュールミント 作者:毬藻

第58回   あの・いの・うの・えの・おの・えの
「木の死体を探しているんだよ。」
「木の死体?」
「流木を探しているんだよ。」
「りゅうぼく?」
「流れ着いた木のことだよ。」
「ふ〜〜〜ん。」
「それと、インターネットに、綺麗な景色を見ると魂が生えてくるって書いてあったから、綺麗な景色を見に来たんだよ。」
「ふ〜〜〜ん。手に持ってるのが、りゅうぼく?」
「そうだよ。」
「どうするの、それ?」
「試験管を組込んで、一輪挿しの花器にするんだよ。」
「ふ〜〜〜ん。やっぱり、一流国立大学出のインテリのやることは違いますね。」
「僕は、インテリなんかじゃないよ。」
「たくさん砂がついてるよ。」
「洗って、乾燥させるんだよ。」
「ふ〜〜ん。大変なのね。」
「ちっとも、大変なんかじゃないよ。」
一平がやって来た。頭を下げた。
「あけまして、おめでとうございます。」
龍次も、頭を下げ挨拶をした。
「あけまして、おめでとうございます。いい天気になりましたね。」
「そうですねえ。」
「海岸掃除ですか?」
「はい。」
龍次はスミレちゃんに尋ねた。
「スミレちゃんも、海岸の、お掃除?」
「そうなの。ここから、松原の終わってるところまで、ゴミを拾って行くの。」
「大変だねえ。」
「ちっとも、大変じゃないわ。」
龍次も一平も、それ以上の会話は無かった。
「ふたりとも、人見知りなのね。」
龍次と一平は、少し笑った。
「二人とも、心が凝り固まっているわ。わたしが、いいこと教えてあげるわ。」
スミレちゃんは、海に向かって歩き出した。龍次が質問した。
「何をするの、スミレちゃん?」
「二人とも、ここに来て。」
二人は、言われるままに、ついて行った。
「大きな声で話したこと、無いでしょう。」
龍次が返事をした。
「うん、そうだね。」
「顔の筋肉が強張ると、心も強張るの。」
「そうなの?」
「そうなんです。大きな声を出して、顔の体操をしましょう。」
「顔の体操?」
スミレちゃんは、海に向かって、大声で喋りだした。

 あの いの うの えの おの えの
   あの いの うの えの おの えの

「はい、真似して!」
二人は、仕方なく真似をした。

 あの いの うの えの おの えの
   あの いの うの えの おの えの

「二人とも、声が小さいわ。もう一度!」

 あの いの うの えの おの えの
   あの いの うの えの おの えの

「それで、少しは心がほぐれたわ。」
「そういえば、ほぐれてきたような気がしますね。」
「ほんとだ。」
スミレちゃんは、龍次の顔を見た。
「悩み事がある顔をしてるわ。」
「そうかなあ。」
「龍次さん。人は、人と人の繋がりがなくなると、狂ってしまうの。」
「…うん、その通りだよ。」
龍次の目は、少し潤んでいた。
「スミレちゃん!分かったよ、ありがとう!」
「なんだか、僕も、その一言で逆立ちが直ったような気がするなあ。」
「逆立ち?」
「さっき、スミレちゃんに、魂が逆立ちしてるって、言われたんですよ。」
「変なこと言うね。スミレちゃんは。」
「まだ、逆立ちは、直ってないわ。」
「そうなの〜〜?。」
「スミレちゃんは、面白いなあ〜!変な言葉のデパートだなあ。」
「龍次さんほどではないわ。」
「こりゃあ、まいった!」
三人は、大きな打ち寄せる波に向かって、心から笑い合った。


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