「いい年して、浮気でもしてたんじゃないんですか?」 「おぬし、若いのに鋭いのお!…実はな、」 おじさんは、スミレちゃんの顔を、ちらりと見た。 「おじさんが、わたしの顔を覗いたら、いつも話が長くなるの。行きましょう!」 「なあんだ、いいとこだったのに。」 「歯が痛くなったら、歯医者さんに行きます。どうしてでしょうか?」 「歯が痛くなったからじゃないの?」 「違います。歯医者さんがあるからです。」 「変なこと言うねえ。スミレちゃんは。」 「馬鹿話は、猫にでもして。」 「なあんだい。つれないなあ。」 「さあ、行きましょう!」 「うん、行こう!」 おじさんは、猫に話し出した。猫は逃げて行った。 「じゃあ、まったねえ〜!」 一平は、自転車に乗ると、ペダルを踏み込んだ。 「やっぱり、自転車だと早いねえ。」 「風が、さらさらとスキップしながら歌っているわ。とっても気持ちがいいわ。」 「そうだね。スキップ、スキップ!』 「そのスキップ、なんだか変だわ。」 「そぉお?」 前の方から、スケボーに乗った、赤いトレーナーを着た、一平がやって来た。 「あっ、まじめ君だ!」 スミレちゃんは、一平の背後に身体をくっつけて隠れた。 「どうしたの、スミレちゃん?」 スケボーの一平は、通り過ぎるときに、自転車の背後を、ちらりと見た。スミレちゃんが、挨拶をした。 「ば〜〜か!」 スケボーの一平は、びっくりして転びそうになり、スケボーから飛び降りた。 「あ〜、びっくりした!なあんだよ、スミレちゃん。脅かすなよ。」 「どこに行くの?」 「とっても面白いところに行くんだよ。」 「ほんと。教えて!」 「や〜〜だよ!」と言って、一平は去って行った。 お地蔵さんは、いつものところに座っていた。 「お地蔵さん。こんにちわ。」 お地蔵さんは、いつものように無言だった。 「こんにちわ。」 お地蔵さんの向こうに、ちょっと太った小柄の、亡霊のおじいさんが座っていた。 「あら、一哉(かずや)おじいさん。こんにちわ。」 おじいさんは、左足首を左手でさすっていた。 「左足、どうしたの?」 「歩きすぎると、戦争中にグラマン戦闘機に撃たれたところが、痛くなってくるんだよ。」 「そうなの。」 一平も気遣った。 「大丈夫ですか?」 「だいじょうぶだよ。じっとしてれば、すぐに良くなるよ。」 「まだ、若い頃の戦争中の夢を見るの?」 「ときどきね。」 「きっと、戦争って、辛かったのね。」 「地獄だったよ。」 スミレちゃんも一平も、少し涙目になっていた。 「掃除に行くのかい?」 「そうよ。」 「行ってらっしゃい。」 一平は、自転車を降りた。スミレちゃんは、両足で、ぴょんと飛び降りた。 一平は、お地蔵さんの手前に自転車を止め、鍵を掛けた。 「おじいちゃん。またね。」 「うん!」 一平は、キャリーに乗せてあった、ゴミ袋とゴミはさみを取った。 「さあ、行こう。」 「れっつ、ご〜!」 砂浜は、百メートルほど行ったところにあった。 一平は、スミレちゃんの手を取った。 「さあ、行きましょう。寂しがり屋のゴミが待ってるわ。」 「スミレちゃんは、ゴミ拾いは初めてなの?」 「何度もやったわ。だじゃ丸さんと、駄洒落を言い合いながら。」 「だから、だじゃ丸さんの考えてることを知ってるんだね。」 「だって、考えが単純なんだもん。」 「そうかなあ…」 「あっ、保土ヶ谷龍次さんだ!」 「ほどがやりゅうじさん?」 「りゅうじ君の、叔父さんなの。」 スミレちゃんは、彼に大きく手を振った。 「龍次さ〜〜ん!」 スミレちゃんは、一平の手をほどいて駆けて行った。彼の前で止まった。 「やあ、スミレちゃん。あけましておめでとう。」 「おめでとうございます。こんなところで、なにしてるの?」 「死体を探していたんだよ。」 「え〜〜、死体を〜〜〜!?」
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